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精霊国への遠い道のり  作者: お菓子大好き
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シンシアたちが王都へと馬を走らす。


もう三時間ほどたつが、いまだに草原の真っただ中を通っている道を北へと向かう。時折大きな魔物の影が遠くに見えるが、こちらを襲ってくる様子はない。この辺りは、開拓されていない広大な領域のようだ。人影も、人が住んでる形跡も全くない。


昼ごろに、一度休憩し、シンシアが魔術を使い馬に水を与える。長距離の旅なので馬にも負担は余りかけられない。


簡単に食事を済ませ、また北へと進む。


夕暮れには山脈の麓にたどり着いた。シンシアたちは、ここで野宿をするつもりなのだろう。少し道から離れ、茂みの中に入り道から焚火の炎が見えないように場所を取る。皆が落ち着くと、シンシアが日が落ちる方向に向かい、祈りをささげている。


「ねえ、サナお姉ちゃん。シンシアお姉ちゃんは、どの神様に祈っているの?」


「うーん、シンシアが戻ってきたら、彼女に聞いてみなさい。私よりもきちんと説明できるからね」


シンシアが、祈りを終え、皆のもとに戻ってくる。焚火を囲み、食事が終わり次第、ユーリックがシンシアに話しかける。


「ねえ、シンシアお姉ちゃん、日が暮れるころ、お祈りしていたの見てたけど。どの神様にお祈りしていたの?」


シンシアが優しい笑顔でユーリックに答える。「あのお祈りは、女神さまのためのお祈りなのよ」


「え?女神さま?」


「そうよ。もう何百年も前に、教会からは消されてしまったけど、女神さまは、確かに存在なさるわ」


「どうして、女神さまが教会から消されてしまったの?」ユーリックが怒りを覚える。なぜあのような優しい女神さまが教会から消されるのだろうと。政治的な問題か、それとも宗教的な派閥の問題か、どちらにせよユーリックは許せなかった。


カトレアが会話に入ってくる。「女神さまの信者たちは皆、選ばれたものたちなの。何千年も昔からそうだった。女神さまの信者たちは、正義感が強く正しくないことは絶対に行わないものたちなの。その上に信者たちの中でも強力な力を持った人たちがいて、その力は、いつもその者たちによって、人助けや悪事をただすために使われていたのよ」


「だけど、それが気に食わないものたちがいたの。その力を所有した者たちを、思いのままに使用できない貴族たちや王族、それに権力を使い悪事を働く人たちから、女神さまの信者たちが最も危ない敵だと認識されてしまったの」シンシアが話を続ける。「それからは、女神さまの像は教会から排除され、女神様の存在自身が多くの人に忘れられてしまったの。女神さまとその信者のものたちの粛清が貴族や国の王族によって行われ始めたのが、もう600年ぐらい前よ。今ではもう女神さまの恩恵が何なのか、そしてどういただけるのかもわからない状態なの。」


「だけど女神さまは私たちを見捨てなかったわ。今も女神さまが信者になってもらいたい人たちには、ある日突然女神さまの声が聞こえるの。私についてきてください、って」サナが会話に入ってくる。「因みに私たち全員、女神さまの信者だからね。でも女神さまの信者たちは肩身の狭い生活をしているんだ。ギルドに行くと、どうしても冒険者としてギルドに登録するときに『女神さまの信者』と識別されるの。そうなると、いまだに女神さまの力を恐れている貴族や王族から差別され、ギルドでも不利な依頼しかもらえない」


「でもね、私たちにとってそんな苦労は、何でもないのよ。生活は苦しいけど女神さまの愛があるから。それにほかの人たちを助けて、感謝されるのって私たちにとって凄いうれしいことなのよ」シンシアが、最後にそう言い終える。


話を聞き終えたユーリックが、ぽろぽろと涙を流し始める。シンシアたちが、驚いて彼をなだめる。「女神さまの信者さんたちは、そんなにひどい仕打ちを600年も我慢していたの?」泣きながらそう聞くユーリック。「そうね、でも私たちは、それなりに自分たちの信じた人生を歩んでいるから、意外と幸せなのよ」


「そうよ。権力と富があっても、自分のためだけに利用するなんて虚しいものなの」カトレアがユーリックの頭をなでる「だからいま私たちはできることをする。それでいいのよ」


「でもね、この国の王族は皆を平等に扱ってくれて、女神さまの信者たちには凄く住みやすい国なの。だから私たちのことは心配しないでもいいのよ」


「うん、わかった」と言いながら、何とか泣き止むユーリック。


「そろそろ寝ましょう、また明日早いわ」そう言って、皆が毛布にもぐりこむ。ユーリックは今日はカトレアと一緒だ。カトレアが、寝る前に「ユーちゃん、私たちのことを心配してくれて、ありがとうね」と言ってくれ、またカトレアに抱きつき少し泣いてしまう。「ユーちゃんは、やさしい子だね」と言われ、背中をポンポンと叩かれながら、眠ってしまう。

また今夜の村への連絡は、精霊たちに任せるしかなかったユーリックだった。


翌朝。


目が覚めたユーリックは、また村に帰れなかったことを気にしていた。精霊たちが持って帰ってきた報告は、まあ無難なものだったが、ユーリックが旅立ったと知ったエイリナが泣いたり怒ったりと、大変らしい。『今夜は、帰ろう』と決心するユーリック。


また馬に乗り王都へと向かう。山脈を超えるために二日間かかるために、今夜は山道のどこかで野宿をしなければならない。峠を越えるところに、ちょうど手頃の浅い洞窟があったので、そこで野営。皆が寝静まったところで、洞窟に結界を張り、彼女たちに熟睡の魔術をかける。


ようやくテレポートで、村に帰ってこれた。三日ほど離れただけだったが、もっと長く感じられた。すぐに精霊たちが寄ってくる。「お帰り、ユーリック」「お帰り」と。チャイムを鳴らしたような静かな声が、夜の空に響く。「ただいま」と精霊たちに答えた時、ここが帰ってくるべきところなんだ、と実感した。


「おかあさん、ただいま」と言いながら、家に戻ったユーリック。その瞬間にエイリナに泣きつかれ、家族全員がユーリックを囲む。その騒ぎを聞いて、ほかの家族たちもユーリックが戻ったのを知り、押し寄せてくる。


女の子たちは、皆大変ご立腹だ。怒られたり、泣かれたりと大変だった。大人たちは、ユーリックが元気そうなので、一応安心している様子。


「ユーちゃん、行かないで―!!」と抱きつかれ泣き叫ぶエイリナ。クラリッサたちも腕をつかんで、離さない。


「お姉ちゃん、僕が行かないと、女神さまの信者さんたちが大変な目にあっているんだ」ユーリックは、村のみんなに女神さまの事情を伝える。「僕たちは、女神さまに命を救われたんだよ。僕も女神さまを助けたい」


ユーリックの話を聞き、唖然とする村人たち。


「でも、でも!ユーちゃんがいないと私たちも不安でいつも心配しているのよ」


「エイリナ。お母さんもそれは同じよ。でも女神さまに頼まれたことは、今はユーちゃんしかできないの」


「ユーリック、行って来い。女神さまのお役に立てれば女神さまも喜ぶだろう」父がそう言い、

「精霊たち、ユーリックを頼むぞ」と精霊たちにユーリックのことを頼む。


「うん、ありがとうお父さん。またすぐに帰ってくるね」村の女の子たち全員に頬にキスされたり抱きつかれたりした後に、またテレポートでシンシアたちの元に戻る。


戻ってみると、こちらも無事に何事もなかったようだ。シンシアたちもまだすやすやと寝たままで、結界のほうも異常はない。そっとサナの毛布の中にもぐりこみ、サナの体温を感じながら眠りについた。


北へ馬を走らせる。四日目に食料が底をつき、小動物を狩り食料にする。ようやく七日目の朝、ユーリックたちは王都へと辿り着いた。



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