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精霊国への遠い道のり  作者: お菓子大好き
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『このままだと、依頼を達成できない』青い神官の服を着たシンシアが、暗い顔で村の残骸をかき分けていく。

七日前にギルドの依頼を受けたシンシアたち。内容は「ファーソング村の調査」だった。旅をして回る商人がファーソング村に寄り、村が全滅していることを発見。王都に帰り次第事情をギルドに説明すると、ギルドがその原因の調査を依頼に出した。

たまたま彼女たちが受けれる依頼を探していたシンシアたちは、これに飛びつき六日かけてこの村に到着した。

しかし、村が滅んた原因が突き止められない。今日一日中村の残骸の中を歩き回ったが、未だに何一つ証拠がつかめないのだ。空を見るともう日が沈みかけている。暗くなる前に野営を張らないと厄介だ。


「シンシア、今日はもう無理よ。野営の支度をしないと」赤いマントを羽織った女性が周囲を警戒しながら、シンシアを村の廃墟から連れ出す。


「カトレア、ごめん。私ちょっと焦っているみたい」確かに焦っている。食料もあと三日分も残っていない。明日に何らかの手がかりを見つけないと、手ぶらで王都に帰ることになりかねない。


馬がつながれている場所に着くと、サナがもう野営のために魔術を使って地面を平していた。


「今日は一日目だから何も見つからなかったからって、落胆しないでね」と、サナが二人に言う。


サナは土、風、火の恩恵を持った魔術師だ。彼女の魔術でレベルの低いゴブリンの魔物たちなどは余裕で倒せる。

カトレアは光の恩恵を持った戦士。ほとんどの武器を使用でき、さらに恩恵を使いアンデッドなどの戦いには抜群な破壊力を発揮する。

そして、シンシアは光、水、自然の恩恵を持つ神官。彼女の分野はほとんどが治癒魔術だが、簡単な探知魔術、それに浄化なども使用できる。人数少なくともバランスのよく取れたパーティーだ。


サナが焚火をくべている間に、シンシアが荷物から毛布を3枚出して焚火を囲むように地面にひく。カトレアは干し肉と硬いパンをカバンから取り出し、皆に配る。


皆が焚火の周りに座り込み、食べながら明日の行動を議論し始める。


「まあ、多くの乗馬した者たちが、ここを襲ったことは確かね」カトレアが意見を述べる。


「だけど、その何者が誰か判明できない。この国のものなの?盗賊?もしや、隣国の兵?」シンシアが焚火を見つめながら憶測する。


「何か証拠がないとギルドも納得しないでしょうね。明日に期待しましょう」サナが二人の気持ちを和らげようとする。


「そうだな、それに‐」と何か言いかけたカトレアが、急に南の森の方向をにらむように見つめる。


「どうしたの?」サナが低い声で聞くと、「何かが、こちらに来る」と同じく低い声でカトレアから返事が帰って来る。


もう辺りは薄暗い。深い紺色の空に森のシルエットが黒く映るだけで、ほかには何も見えない。三人が戦闘に備えるため焚火から離れ近くの茂みに隠れ、身構える。


しばらくして足音が聞こえる。思ったより軽い足音だ。小さな魔物なのだろうか?


足音が近づきその正体が視界に入ると、三人の警戒心が消え失せる。目の前に現れたのは、10歳ぐらいの男の子。『え?どうして子供が?』シンシアが呆然と子供を見る。やつれた服を着て、大きな袋を背中に抱えている。


「あの、誰かいますか?」と恐る恐る声を出す小さな子供。シンシアが真っ先に子供にへと向かい、焚火のそばに座らせる。

「坊や、どこから来たの?」と聞くシンシア。サナとカトレアも闇の中から、焚火の灯りの中へと戻ってくる。

「ここから森に逃げてずっと隠れていたけど、焚火が見えたから戻ってきたの」

「え?ファーソングの子なの?」

「うん。でも、もう村も無くなったし、どうして良いか分からなくて」

「お父さんとお母さんは?」サナが、やさしい声で質問する。

「お父さんとお母さんは、襲われたときにほかの人たちと村を出ていたから、大丈夫だと思う」

「そうなのね。それで、あなたのお名前はなんていうの?」

「ユーリック」

「そう、ユーリックちゃん、大変だったね。お腹空いている?」と言いながら、シンシアが干し肉の半分を彼に渡そうとする。

「お姉ちゃん、僕、食べるものあるよ。これ食べて」と言いながら、袋から大きな果物を二つ取り出し、シンシアに与える。

「え?」びっくりする彼女。干し肉と硬いパンばかり食べていた彼女たちにとって果物は有り難い。

サナが、「いただいていいの?」と聞くと「うん、食べて」と返事が返ってくる。

「ありがとうユーリック。私はサナ。赤いマントの大きな人は、カトレア。そして、青い服の人はシンシアよ」

「お姉ちゃんたちは、何をしているの?」

「それはね、この村に何があったのか、調べているところなのよ」

「あのね、馬に乗った100人ぐらいの人たちが襲ってきたんだ。全員が同じ皮の鎧を着ていたよ」

この情報に、三人が緊張する。100人もが同じ鎧に全員乗馬、どこかの国の兵士たちでなければ、そこまで統一されていない。

「森に入って助かったけど、もう村もないし...」ユーリックが悲しそうに話し続ける。

「もう大丈夫よ、怖かったわよね」シンシアが、ユーリックをぎゅっと抱きしめる。

しばらくの間、シンシアに寄りかかっていたユーリックだが、シンシアたちと会えたことで安心したのか、そのまま寝てしまう。

シンシアがユーリックを自分の毛布に寝かせた後、「よくがんばったね」と一言、寝ている子につぶやく。

「全くよく生き延びられたわね」カトレアも感心しているようだ。見たところ村が全滅してから、もう一か月は立っているだろう。

「そうね、それにあの森は精霊たちの森よ。普通、あの森に入ったらもう出てこれないわ」サナは、ユーリックが本当に森の中にいたのか、疑問があるらしい。

「だけど、この果物を見て。見たこともない果実だけど食べても大丈夫みたいよ」と言って、果物を切り始める。

「うん、凄く美味しい」サナが驚く。

「うわ、ほんとだ」カトレアもペロッと食べつくす。

シンシアも食べてみると、甘い味とともに、口の中が爽やかな香りでいっぱいになる。

「それで、この子、どうするの?」カトレアが皆が思っていたことを声にする。

「うーん、せめて王都へ連れて行ってあげたら、孤児院とかでお世話してくれるかも?」しかしサナも孤児院の暮らしは楽ではないと把握している。

「ねえ。しばらくの間、ユーリックは私たちが面倒を見ましょう」シンシアが突如にそういいだす。

「え?ちょっと私たちの稼ぎでは、大変じゃないの?」カトレアたちも生活は厳しい。ギルドからもらえる依頼をいくらこなしても何とか食べていけるような事態だ。

「でも、生活が大変なのは、いつものことでしょう?」サナがシンシアと同意する。

「まあ、それもそうね」とカトレアが笑いながら承諾する。

「私たちもそろそろ寝ましょう。探知魔術をかけておくから」シンシアが探知魔術をかける。

この魔術は寝ている間でも50メートル以内に敵意のあるものが足を踏み入れると、皆の目が覚める仕組みになっている。『何も起こらなければ、それに越したことはないけど』そう願いながらユーリックの隣に横たわり眠りにつく。



シンシアの目が覚めたのは、まだ空が朝焼けに染まっている頃だった。ユーリックもまだシンシアの隣ですやすやと寝ている。思わず彼の頭を優しくなでてしまう。『こんなにかわいい子が一人で森の中を彷徨っていたなんて。ご両親が見つかればいいのだけど』しかし今になっては、それも困難ということは理解している。村が襲われてからもう一か月以上たった今、親と再会する事は極めて難しいだろう。

まさかユーリックが夜、皆が寝付いた後に森の中の村へ精霊を送り、両親と連絡を取っているとは夢にも思ってもいないだろう。


そんな考えに耽っている間に起床するカトレアとサナ。ユーリックの頭をなでているシンシアを目撃し、「あー、シンシア、母性本能のスイッチ入っちゃったわね」「あれは、完全に保護者の目ですよ」など二人に背後から言われる。


シンシアがはっとして振り向くと、二人がニヤニヤしながらシンシアを見ている。「だって!こんなかわいい子が一人でなんて、誰かが助けてあげないと」頬を少し赤らめ、弁解する。


そこでユーリックがもぞもぞと起きる。ほかの三人が起きているのに気が付き、「お姉ちゃんたち、おはよう」と目をこすりながら挨拶する。

「んん!」と変な声が発せられた。シンシアがまた後ろを見ると、カトレアが口を手で覆い横を向いて震えている。

「あらあら、人のことを言えませんね、誰かさんは」シンシアがフフフ、と悪い笑顔でカトレアを見ている。

「ごめん、もう何も言わないから、うん」

「そうね、じゃあ朝ごはんにしましょうか」シンシアが話題を変える。

するとユーリックがまた自分の袋に手を入れ「これ使って」と果物、それに木の葉に包んだ魚の燻製をシンシアに手渡す。

「この燻製どうしたの?」とシンシアに驚かれて聞かれる。

「家にあったのを、逃げる前に袋に入れたんだ」

「そうなんだ。ありがとうね、ユーリック」サナにお礼される。

サナにテトテトと近づき、ぎゅっと手をつかむ。「ユーちゃんでいいよ」

「え?」

上目使いでサナを見つめ、「ユーリックって言うの、大変でしょう。だからユーちゃんでいいよ」

サナの顔が赤くなり「そう。これからユーちゃんって呼ぶね」と、何とか返事を返す。

「うん!」と元気良く返事をするユーリック。またシンシアの元へと戻っていく。

サナがほかの二人に「あんな上目使い、反則なんだからね!」と怒ったように言い訳をする。

「うんうん、わかるわよ」と笑いをこらえながら答えるシンシア。


食事も終え、シンシアたちがまた村の調査に出向こうとする

「何か手掛かりが見つかればいいんだけど」シンシアがため息をつきながらぼやく。

「でも、戦いの後もないし、襲った者たちの死体もないし、どうしようもないわね」カトレアも、今日中に証拠を見つけないとやばいと思ったのだろう。

ユーリックが「お姉ちゃんたち、これ役に立つ?」またしても袋から何かを取り出し、手に持っているものを見せた。

それは、10本ほどの矢。

「これ、どこで見つけたの?ユーちゃん」とシンシアが聞く

「森に逃げようとしたときに、矢を打ってきたから」

「なんていうことを!」激怒するサナ。

しかし問題はそこではない。カトレアがその矢についている矢じりに見覚えがある。鉄の矢じりが独特な、らせん状の作り、ゴルタニア国の兵たちが使用している矢じりだ。

「まさか、そんな」シンシアが驚愕する。

「なぜ何もないこの村を襲ったんだ?」カトレアも困惑している様子だ。

「すぐに王都ギルドへ戻りましょう。一刻も早く知らせないと」サナが王都へ帰る支度を始める。

「ユーちゃん、おいで」とシンシアに言われ、シンシアの前に持っけられる。


『面倒なことにならないといいですけど』と思いながら、馬を北へと飛ばす三人だった。


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