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精霊国への遠い道のり  作者: お菓子大好き
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ファーソングの村人が精霊の森にすみ着き、一か月ほどたった。


ユーリックのおかげで村の設備も充実し、不自由なく暮らせるようになった。食べ物は精霊たちが果物を毎日運んできてくれ、チスターも魚が捕れる場所を発見したので困ってはいない。


男たちは村の周りを警備したり、魚を捕りに行ったりなどして一日を過ごす。女たちは、家の中の片付けや子供の世話などをこなし、前の生活とほぼ変わらない暮らしを送っている。一つ違うことと言えば、暮らしが楽になったことだ。ユーリックが教会、それにそれぞれ皆の家に浄化魔術を組み込んだ。毎晩その建物の中にあるものを浄化するという魔術だ。そのおかげで洗濯や家の掃除などが必要なくなった。汚れたものを家の中に入れておけば翌朝には綺麗に浄化されているのだ。むろん、浄化魔術がかかる時に人が中にいればきれいに浄化される。掃除や洗い物に毎日追い回されていた主婦たちにとっては天の恵みだった。


そしてユーリックが創製した、公衆のトイレ。用を足した後に立ち上がると、自動的に浄化魔法がかけられ、トイレを使用した人を含めトイレの中にあるものがすべて浄化される。これはユーリックが衛生管理のために欠かせないものと判断し、作ったものだ。

初めには皆に「簡単すぎて、不気味ね」と言われたが、今はもう「ちょっと汗かいたからトイレ行ってくる!」と、水浴び感覚で使用している人たちもいる。


なお、ユーリックが家やトイレに組み込んだ浄化魔術は精霊の森からの魔力を使用している。この森は魔力を蓄える何かが、森の中央に存在している。精霊たちとの契約のおかげか、ユーリックはこの森の魔力の流れが見え、さらに使える。膨大な森の端に位置するこの場所でも、村に使う分量の魔力は森の魔力の流れから十分に補えた。



村人たちが何不自由なく暮らせるようになり平和な日々が流れている。だがユーリックは女神さまの願いをまだ実行できないままで歯痒い思いを常に抱いていた。しかし、もし自分で実行しようとして村を出ても、どこに行ったらいいのかもわからない。アリエッサたちの記憶は、ほとんどが森の中のものだ。三人とも森の外へ出たことがほとんどない。


色々と考えていたのでよっぽど難しい表情をしていたのだろう。


「どうしたの?ユーちゃん」とエイリナが聞く。


「女神さまの願い、今、僕が何かできることがないかなって、考えていた」


「ユーちゃんはまだ10歳なのよ?18歳になるまで、待ったらいいの!」クラリッサがユーリックの腕に抱きつく。


「あー!クラリッサ、ずるい!」と言いながら、反対側の腕をエイリナにつかまれる。


「とにかく、ユーちゃんはまだ10歳の子供なんだから、無理しちゃ駄目!」「そうよ!」と二人に説得させられる。クレアベル、それにルミオネアとルミリナもエイリナと同意だった。10歳の子供には、女神さまの願いをかなえることは極めて困難と皆から反対される。ユーリックも『今は、何もできないか』と諦めていた。



しかし、チャンスは突然現れる。


それから二週間ほどたった午前中。フィアンナたちと森を探検していると大勢の精霊たちがユーリックのもとに駆けつけ、誰かが外の村に来ているという情報を持ってくる。

なぜこんなに時間がたってから、誰がファーソングに訪れるんだ?と思いながらも、森の端までテレポートを使いたどり着き、木陰に隠れてその者たちを観察する。


馬が三頭、村の端で草を食べている。以前の村の面影はもはやない。家や建物などは完全に焼き払われてしまっていた。


その残骸の間を用心深く歩いている人影が三体。

一人は青い神官のような服を着た女性。何かを探そうとしているが、何を探しているのかもわからないといったような、必死な様子だ。

二人目は背の高い女だ。190cmはあるだろう。体に赤いマントを羽織り、自分の背丈ほどもある長い剣を肩に担いでいる。彼女も何かを探しているようだが、主に周囲に注意を払っているようだ。

三人目の女性は、長い真っ白なローブを身に着け複雑な形に彫られた杖を手にして、地面に突き付け魔力を流し込んでいる。きっと魔術師なのだろう。


「フィアンナ、ナイラレア、アリエッサ。あの三人、どう見える?」


フィアンナが「三人とも、白いですね!」と答える。


ナイラレアも「うん、真っ白」それに続とき、アリエッサも「わあ、本当だ」と驚く。


以前精霊たちに聞いた話によると、彼女らは人の心の清らかさが見えるらしい。人たちが精霊たちの光を目で見れるように、精霊たちも人の背後に魂の色が見える。彼女たちによると、本当に白い魂を持った人間はまれだと言う。ほとんどの人間は心の中に闇を抱いている。それが精霊たちには、白い魂の背景色に黒い渦が巻いているように見えるのだ。


謎の三人の意見を精霊たちから聞くなり、森の中の村にテレポートし、教会へと足を運ぶ。

教会の正門をくぐり祭壇前に跪き、女神さまに祈る。


「ミシャカ様。お願いです。あの三人と少しの間、村から離れていいでしょうか?」


『あなたの胸の内は、どうしたいと言っていますか?』女神さまの声が脳内に響く


「早く助けられる人たちを助けたいです」正直に女神さまに告げる。


『それでは、行っていらっしゃい。精霊たちも一緒に連れて行ってくださいね』


「はい!」ユーリックは期待に胸を膨らませた。やっと目標に向けて第一歩が取れるのだ。



女神様との会話の後、母を探す。「あら、どうしたの?ユーちゃん」急にユーリックが現れたので、びっくりしたのだろう。


「お母さん。僕ちょっと、村を離れるね」


「え?どこに行くのユーリック?」母が慌て始める。


「大丈夫だよ。女神さまともう話したから」と母を落ち着かせようとする。「それに、毎晩少しの間はテレポートで帰ってくるか、精霊さんにこっちに来て貰って連絡をするから。」と説得する。


「女神さまの願いのためなのね?」


「うん」


「そう。それでは、行っていらっしゃい。必ず毎晩連絡すること!」と言いながら、ユーリックを抱き寄せる。


「大丈夫だよ、ユーリックのお母さん。私たちがユーリックを守るから」フィアンナが安心させようと、ユーリックの母に約束する。


「というか、ユーリックを危険な状態に合わせるって、古代竜でもないと無理なんじゃない?」冗談半分にいうナイラレア。


「私たち三人が付いてる。全く心配ない」と言い切るアリエッサ。


「わかったわ。エイリナたちには、私から話しておくわね。あの子に今話したら、ついていくって、聞かないと思うから」


「うん、じゃあ、行ってきます!」


「はい、行っていらっしゃい!」と笑顔で見送ってあげる母。


ユーリックがテレポートし、母の目の前から姿を消した。


一瞬でどこかに消えてしまった息子。彼がこれから平穏な日々を送れるとは思えない。アイザリアは悲しみを胸の奥に押し込め「さあ、エイリナにどう伝えようかしら」と言い、エイリナを探しに行く。



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