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精霊国への遠い道のり  作者: お菓子大好き
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ユーリックの誕生日祝いは、ワイワイと賑やかに盛り上がった。


皆で食事の最中に、ほかの娘たち二人が蜂蜜のパンを持参してユーリックのお祝いに加わった。彼女たちは農家二つ向こうのアーレアとアーミ、16歳と14歳。いつもザイラーとハウェルに話しかけてくる女子たちだ。ザイラーとハウェルもこの二人とはよく気が合うようで、4人一緒に村を歩いている姿をよく見かける。親からすれば、将来には結婚相手として見られているようだ。


「ユーちゃん、お誕生日おめでとう!」と言いながら、アーレアに抱き寄せられるが、顔が丁度彼女の胸の高さなので顔が胸に埋もれる。そう、彼女ら二人は胸が圧倒的に大きいのだ。エイリナが横で不満そうな顔をしている。


「うん、ありがとうお姉ちゃんたち」恥ずかしそうに上を見てお礼するユーリック。


「いいのよ、ユーちゃん、私たちもユーちゃんのお姉ちゃんになってあげるわよ?」と言いながらザイラーたちの方を意味ありげに向く。


「あ―。もしかしたらな」とはぐらかす兄たち。


「ユーちゃんのお姉ちゃんは、私だけなの!」プンプンと怒るエイリナ。相変わらずのユーちゃん大好きお姉さんね、とアーレアにからかわれる。


「はいはい、みんなお昼を済ませてね。そうしたら甘いものの出番よ」母が皆が持参した甘いおやつを皿に盛り付けている。


エイリナをはじめ女子たちが目を輝かせ始める。やはり甘味は女の子たちの大好物らしい。


クッキーをはじめ、甘いものはすぐになくなる。「あー美味しかった!」エイリナもご機嫌だ。甘味、また砂糖などはたまにしか手に入らないもので、こういったお祝いでもない限り食卓に出ないのだ。



皆が食べ終わったら、お祝いの終了の時だ。


ユーリックが家族と一緒に外に出て皆を見送ろうとすると、急に精霊の森がざわつく。まるで何万本もの小枝が風に揺らされるような音が森全体から発生される。


何事かと思い、精霊の森へと振り向く。


「何が起こっているんだ」父が驚きながらチスターに聞く。「わからん。こんなことは初めてだ」チスターも用心しながら後退る。


すると突然に森から現れた100体ほどの精霊たち。森から彼らのほうへと空を飛んでくる。精霊たちは手のひらほどのサイズで光る色のオーラにまとわれ、午後の太陽の下でも眩しく光っている。


精霊たちがユーリックの頭上でふわふわと浮き始め、チャイムの音のような声で「ユーリック、危険。森に逃げて」と何回も繰り返す。


「え?逃げる?どうして!」と精霊たちに聞くが、答えは来ない。エイリナをはじめ、皆が目を大きくして精霊たちを凝視する。「逃げて、逃げて!」と連発する精霊たち。


皆が驚きのあまり動けずにいると、父のエイリックが「みんな、逃げろ。何かが起こる、すぐ森へ逃げるんだ」と命令する。


ハマンが「精霊たちをを信じるのか?!」と父に聞くと、「ここは俺を信じてくれ。もし間違いだったら俺を大いに笑い飛ばしてくれ。ただ、今は俺の言うことに従ってくれ」と断言する父。


「どうして精霊たちがこんなに!?」後ろから大きな声が聞こえ、アーレアが振り向き「お父さん、お母さん!」と叫ぶ。娘たちを迎えに来たのだろう。


同時に、低い地響きが聞こえ始める。北の方角から道を駆け上がってくる100頭ほどの馬に乗っている軽鎧を着ている兵士たちが、村を目指している。


精霊たちが「時間がない。すぐ逃げる!」空を飛びながら、ユーリックたちに訴える。


目に見える脅威から皆が一斉に森へと走り始める。小さな子供たちもいるので、そう早く動けない。


兵士たちが村を襲ったのが、背後から聞こえる村人たちの悲鳴でわかる。


もう少しで森に逃げ込める、そこに無数の放たれた矢が彼らを襲う。


この矢を回避するのは不可能と思いながらも、ユーリックが「助けて!精霊さん!」と大声で叫ぶ。それに対応するように精霊たちが彼らの周囲に光るドームを張り、当たった矢はことごとく消滅する。


何とか森の中に駆け込むことができた。「精霊たちが守ってくれたのか?」ユーリックの父が信じられないように呟く。


「まだ止まってはいけない。ついてきて」と精霊たちに言われる。


結界を張ったままユーリックたちを守りながら精霊たちがゆっくりと薄暗い森の中を行く。後ろからも追手の形跡はないようだ。歩きながら泣いている子供たちを親が慰めている。


無理もないだろう、一時まで楽しく過ごしていた村が今はもう全滅したのだ。ついさっきまでいた家には、もう帰れない。ファーソングの村の生き残りは今ここにいる18人だけだ。


こうとなっては、精霊たちを頼るしかない。ユーリックたちを救出してくれたのは確かだ。


精霊たちに守られていても、森の中を歩くのは恐ろしかった。茂った森の中、所々に見える巨大な影。こちらには寄ってこないが、それだけでも村人たちを脅かす。


「大丈夫。聖獣たちもユーリックを守っている」とまたチャイムのなるような声で精霊たちが皆の不安を拭おうとする。


精霊たちに囲まれながら、用心深く森の奥へと進む村人たち。二時間ほど歩き続けると、森が切り開かれた場所に教会が建っていた。何百年間もここに建っていたような巨大な石造りの教会。四つの塔に守られ、中央には教会の屋根がそびえたっている。古くも威厳のある建物だ。


「あそこが安全、入って」先頭の精霊に従い、教会の正門までたどり着きユーリックの父が重い扉を開け、中に入る。


中に入るなり、皆がつばを飲み込む。それ程の神聖な空気が教会を包み込んでいる。


埃に埋もれた何百もの座席が並び、ステンドグラスの窓が様々な色の光で中を照らす。


祭壇には、見慣れた8柱の神々。


しかし村人たちの注目が集められたのは、その上にあった。


この世界で存在を忘れられた神、美しい愛に満ち溢れた表情の女神が皆を見下ろしていたのだ。


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