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精霊国への遠い道のり  作者: お菓子大好き
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メイラリア王国、南の端に位置する水と土に恵まれた領域に築き上げられた村、ファーソング。正しく隣国ゴルタニアの国境線にまたがっているとも言っていいほどだが、問題にならないのは、国境線が膨大な大森林に飲み込まれているからだ。この森は精霊たちに守られ、人が迷い込むと永遠に戻ってこない森として知られている。どちらの国もこの森には手を付けられないといった状態だ。それ故に、この森は500年という年月を経ていまだに開拓されていず、未知の地帯となり立っている。


ユーリックはそのファーソング村の家族に末っ子として育ってきた。


長男のザイラー、次男のハウェル、それに姉のエイリナと共にささやかながら幸せな生活を送っていた。父親のエイリックと母親のアイザリアも農家の仕事で忙しい毎日を送っていたが、できる限り子供たちと時間を作り、親として子供たちに愛をつぎ込んでいた。


この国にはまだ教育という概念がなかった。男子たちは親の手伝いをこなし、18歳で成人すると新しい村か街へ移り独立するか、親のせわをしながら親の仕事を引き継ぐかのどちらかだった。女子は18歳になると結婚対象になるので、男子たちからの求婚を待ち結婚するとその家に嫁ぐ。

よほどの事情がない限り独り立ちする者はいないので、村の人々はほとんどが何世代もここに住み続けた者たちだ。


ここの子供たちの日常生活はいとも簡単なものだった。五日間は親の仕事を手伝い、最後の一日は休みの日だ。因みにこの世界の一週間は6日間、60週間で一年となる。


子供達が自由に使える一日。仲の良い四人兄弟はまた全員一緒に遊んでいた。ユーリックはあと一週間で10歳。ザイラー、ハウェル、エイリナはそれぞれ17歳、15歳と12歳だ。ザイラーとハウェルは共に親の農家を引き継ぐことができるが、エイリナと、特にユーリックの将来は、どこに落ち着くのか不明であった。


いま向かっているのは、村の近くにある湖。ザイラーとハウェルは、少し前を並んで歩きながらどこで釣りをするか話し合っている様子だ。エイリナは、ユーリックの手を握り、転ばせないように気を付けている。


「お姉ちゃん、僕は大丈夫、転ばないよ」と言っても聞く耳を持たない姉。


「駄目よ、ユーちゃんが転んでけがしたら私が悲しくなるから」と今度は後ろから、がしっと抱きつく。


「そうなの?」と姉を見上げるユーリック。


「そうなのよ、わたしの可愛い弟なんだから!」とついつい頭をなでなでしてしまう。


「お姉ちゃん、髪の毛、ぐちゃぐちゃになった」


「湖に着いたらまた直してあげるわよ」どうせ直すのなら、もっと堪能しようと思い弟の頭をもっとなでる。


ユーリックもエイリナが大好きだった。いつも一緒にいてくれて、困ったときには助けてくれ、更に母親から甘いおやつをもらった時には、少し分けてくれる。上の兄たちとはたびたび喧嘩もしているが、ユーリックには常に優しい姉であった。


エイリナは誰もが認める美少女だった。彼女が18才になったら求婚者が後を絶たないだろうと今から噂されている。目鼻立ちがくっきりした顔、瑠璃色の目にウェーブのかかった栗色の髪を腰まで伸ばし、12歳とは思えないほど背が高く、すらっとしたスタイル。

ユーリックが思えば兄たちも体格はがっしりとして、男らしい顔立ち。その上にどちらかといえば、確かに美形だった。村の少女たちが頻繫に兄たちに話しかけているのをユーリックは知っていた。


しかしながらユーリックは、細い枝のような小柄な体系になぜか彼だけ真っ黒な髪の毛。肌も真っ白く、兄弟たちのような健康的な小麦粉色ではない、何気なく弱々しさを漂わせる男の子だった。


それもあってか、家族全員がユーリックには過保護だったが、姉はそれに輪をかけた過保護っぷりだった。


「お姉ちゃん、今日もお魚、釣れるといいね」姉と歩きながらそう願うユーリック。


「そうね、お父さんもお母さんも喜ぶわね。がんばりましょう!じゃなくて、お兄ちゃんたち頑張ってね!」と前を行く兄たちに声をかける。


「ああ、任せろ!せめて六匹は釣り上げないとな」ザイラーとハウェルはやる気満々だ。


湖のほとりにつき、さっそく釣りの用意を始める。ユーリックが虫をえさの為に取ってくると、兄たちがそれを釣り針につけ、魚が潜んでいそうな岩の影場などに投げ込む。


岸の木陰に座り、ユーリックは姉に甘やかされながら時が過ぎていく。彼にとって幸せなひと時だ。


二時間ほどたち、いい塩梅に六匹つれたので家に帰ることにする。家に帰ったら母がすぐ料理できるように湖で魚をさばいておく。


「よし!これで母さんも喜ぶだろうな。今夜は魚が夕飯だぜ!」上機嫌なザイラー。


「ほら、ユーちゃん、帰ろうね」とまたしても姉に手を握られる。


「うん」と素直にあねのとなりをあるくユーリック。


四人そろって、夕焼けを眺めながら家へと変える。


「そういえば、兄貴ももうすぐ18歳か。神様の儀式でいくらの恩恵を貰えるんだろうね?」とハウェルが突然言い出す。


この世界を見守っている神々は、8柱。


火、水、土、風、光、闇、自然、そして時空の神々だ。


18歳になると、神様の儀式を行うことにより、人々は神々から恩恵を与えられる、だがそれも人それぞれ。一柱から恩恵を与えられる人もいれば、稀に八柱から恩恵を与えられる人もいる。


ほとんどの者が8柱存在する神々から、一つか二つの恩恵を与えられる。


四つから六つになると教会を通して王宮から召し抱えられることもあり得る。


七つ以上の恩恵を受けた人間は、この400年間誰もいない。最後に八つの恩恵を受けた人物は魔王と戦うために生まれた勇者だった。


重視することは、この恩恵が与えられた時点でそれに従って特殊な魔術を得るということだ。


光と水の恩恵を持つものは、主に回復魔法と治癒魔法。

火と風の恩恵を持つものは、攻撃魔法。


このように与えられた恩恵それぞれで魔術のタイプが固定される。この時点で使える魔術も自動的に頭脳に刻まれ、自然と使用できる。ただ、魔術の威力は使うにつれて上がっていくが、新しい魔術を覚えることはできない。



「まあ、二つの恩恵をもらったら、俺も十分だと思うけどな。恩恵をもらい過ぎて、家族から引き離されて王宮行きなんて、まっぴらごめんだからな」


「まったくだ、でもまあ、この村からは無理だろう四恩恵なんて!」


「そりゃそうか!」と笑いながら肩をたたきあうザイラーとハウェル。


ユーリックは急に不安に駆られる。


「ねえ、お姉ちゃんもいっぱい恩恵もらったら、どこかに行っちゃうの?」


姉がユーリックの手をぎゅっと握る。


「私はずっとユーちゃんと一緒!心配しなくてもいいよ!」


「よかった。お姉ちゃん、ありがとう」


『本当にユーちゃん可愛過ぎる!もう駄目!』立ち止まって、ぎゅっと抱きしめる。


「お姉ちゃん、苦しい...」


「ユーちゃん、今晩はお姉ちゃんと一緒に寝ようね!はい...って言わないと離してあげない!」


「うん、じゃなくて、はい」


「よし、それじゃ急いでお兄ちゃんたちに追いつこうね!」


「うん」


こんな幸せな日々が永遠に続くといいな、と神々に願うユーリックだった。

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