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女神さまと会う。
その言葉を聞いたとき全員が耳を疑った。
最後に神託が下りたのは、勇者の誕生を告げるものだった。
しかし、それが女神さまからの最後のお告げだった。それから数百年、神託もなければ聖女の誕生も無くなり、女神さまの存在さえが殆どの国々から忘れられていた。いや、消されたといったほうが正確だろう。
今になっては、女神に選ばれた信者たちのみが信仰している。その数も少数だ。
それが今、目の前にいる男子が女神さまと「会える、そして会話ができる」と何事でもないように言った。
『もしこの子が真実を話しているのなら…』ギルドマスターが焦り始める。
「ま、待ってくれ。少し時間をもらえないだろうか?もし実際に女神さまとお会いできるのなら、私たちだけでは余りにも荷が重すぎる」
「いえ、初めにギルドマスターとアゼベスさんに女神さまと会っていただいたほうがいいと思います。それに、テレポートできる人数も限られています」ユーリックの魔力と3体の精霊たちの協力があれば、簡単なことだ。ただ、今は女神さまの教会の場所や、その他の情報を秘匿する事が重要と判断していた。
「それと、ギルドマスターに願いがあります。あの巨大な魔力の件で、お姉ちゃんたちを責めないでください。あれは僕のためにしてくれたことなので」
「わかった。それはもう無効だ。君をかばおうとしていたことは明らかだしな」
「ありがとうございます。そして、二つ目は皆さんへのお願いです。女神さまに誓ってください。女神さまの教会のことは、他言無用です。絶対にこの秘密は守ってください」
「女神さまに誓います」サナが即返答する
「私も誓います」「私も女神さまに誓う」とシンシアとカトレアもサナに続く。
少し戸惑うが、ギルドマスターとアゼベスも、サナたちに続き誓いを言葉にする。
「ユーリック、このエルフたちを女神さまに合わせるの⁉」
そう聞いたフィアンナは、怒りに震えていた。
「フィアンナたちの気持ちもすごい分かる。その精霊さんもかわいそうだった。でもエルフ族ももう何百年も追放されていたし…」
「ユーちゃん、私たちは女神さまの加護そのものなの。私たちは、女神さまの欠片なの。この世界の始まりに女神さまは私たちをこの世界に送り込んだの」アリエッサが悲愴な表情で彼に応える「そして、女神さまの破片の私たちは、魔力なしでは存在できないのよ」
ユーリックは、ショックで言葉が出なかった。「まさかそんな、それじゃあその時なくなった精霊って」
「そうよ、ユーちゃん。私たちは死なないの。私たちは、消滅するの。あの時に消滅した子は、もう何処にもいないの、女神さまの欠片とともに」
初めて聞いた真実に皆が衝撃を受けた。
『エルフたちの判断で、女神様が傷ついた。あの暗闇に覆われた場所で、僕に愛情を与えてくれた女神様に!』ユーリックの中に、すさまじい怒りが込みあがり、それを抑えるのに必死だった。
『だめだ、だめだ!怒りに任せて動いたら。前世で行った過ちを繰り返してはダメだ!』
何とか落ち着きを取り戻しエルフたちに目を向けると、彼女らは膝から崩れ落ち、絶望に染まっていた。
「私たちは、なんということを…」ギルドマスターが震える声で呟く。アゼベスは、静かに泣き崩れていた。彼女たちを見て、怒りが次第に悲しみ、そして同情へと変わった。彼女らも何百年という長い月日を精霊の森から追放され、故郷に足も踏み入れることを許されなかった。
『女神様も、エルフ族が精霊の森への帰還を願っているはず』
しかし、精霊たちの怒りも、理解できる。「フィアンナ、女神さまの意思を確認してほしい。僕がギルドマスターたちをそちらに連れていく前に、女神さまが許してくれるかどうか」
「…分かったわ。ユーちゃんの頼みだし、ちょっと待っててね」と言い残し、姿を消す。
フィアンナがテレポートしたのを見送った後、うなだれている二人の手を握る。
「僕も女神様に願います、あなたたちが精霊たちの森へ戻れるように」
「か、感謝する、本当に済まない」「ありがとう…取り乱してしまって、すまなかった」
「いえ、僕もショックでした。でも、女神さまは、愛に満ち溢れた神様です。必ず許してくれると思います」
少しして、フィアンナが戻ってきた、「女神さまが、エルフたちに会いたいと言っていたわ。できれば、今行くわよ」
「わかった、それじゃ、行こうか」
「ま、待って、心の準備が…」と慌てふためくギルドマスター
「大丈夫ですよ。心配せずにちょっとお話に行きましょう。皆さん、僕の周りに集まってください」
「ここは…え?まさか」サナたちが驚きを隠せない表情であたりを見回す。
ユーリックがテレポートで、ファーソングまで移動したのだ。
「ファーソングだよ。お姉ちゃんたちと初めて出会ったところ」
ギルドマスターも信じられない様子だった。「しかし、ファーソングから王都まで馬を飛ばして七日間ほどかかるぞ!そんな距離を瞬間移動など、普通に考えて不可能だろう」
「あれは、何?」アゼベスが森のほうを指差す。森の方角から暗がりの中を、何千もの光がこちらに向かってくる。
「ああ、精霊さんたちのお迎えですね」ユーリックが笑顔で精霊たちに手を振る。
「なんて美しい光なんだ」アゼベスも無意識のうちに、微笑んでいた。
精霊たちはすぐに彼らのもとにたどり着き、あたりを淡い光で照らし出す
「お帰り、ユーちゃん」
「エルフたちだ。」
「女神様に合うのよね」
「また森の中で住むのを許すの?」
「いや、初めに女神さまに会いに行って、どうするかはそれからだね、すべて女神さまの願い次第だよ」とユーリックが精霊たちの質問に答える。
「そうなんだ。私たちも、まだあの消えた子のことは忘れられない、それにまだエルフ族たちのことは許していない…でも、女神さまの判断に従うわ。」
「ありがとう。」と言いながら、森へと歩き出す。
ふいに後ろから、肩に手を置かれた。アゼベスとギルドマスターが真剣な眼差しで、「精霊たちに一言伝えたい」と。
彼はそれにうなずく。今この場面で、彼女たちの行動はエルフ族の代表として取られる。エルフ族がまた精霊たちに受け入れてもらえるために行動するだろう。
ギルドマスターが、飛び交う精霊たちを見上げながら、片膝を地面につき右手を胸に充てる。アゼベスもそれに続く。
「精霊たち、聞いてくれ。あなたたちの願いを否定したことを、エルフ族の一人として、謝罪させてくれ。私達の完全なる判断の過ちだった。あの時点から、女神様の存在がこの世界から薄れた。私たちの判断であなたたちの一人が犠牲になった。本当に、すまなかった」
しばらくの間、静かに宙に浮く精霊たち。精霊たちの間で無言の判断が下されているようだ。
フィアンナがギルドマスターの目の前に舞い降りてくる。「私たちは、女神さまの分身。最終的な判断は女神様に任せるわ」そして、少しそっぽを向く。「でも、あなたの謝罪は、心からのものだった。だから、一応受け入れておくわ」
「感謝する」と笑顔で返すギルドマスター。
「ありがとう」と、アゼベスも安堵した様子で感謝を述べていた。
「話は、終わりましたか?」
「ああ、長い月日がたったが、ようやく精霊たちに謝れた」
「それでは、そろそろ女神さまのもとへ行きましょう」
精霊たちとともに全員の姿が搔き消え、何事もなかったように、ファーソングだった村はまた暗闇に包まれた。




