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ギルドから馬を走らせ数分で王城に着いたギルドマスター。
正門前を警備している複数の兵たちに馬を預け、門を潜り抜けると、エデンの園とも思えるような一面中に花々が咲き誇ったコートヤードの中へと入る。この花畑と化したコートヤードは、姫様が毎日ご自身で手入れしている。陛下も姫様が小さいころに、ここに花園を作りたいと言われたときにはとても駄目だとは言えなかったらしい。
コートヤードを横切ったところで、王子を見かける。体格の良い、切れ目で細い顔立ちをした青年だ。『年々に父親に似てくるな』ギルドマスターがそういつも思う。
「ブレンデン様、丁度いいところでお会いできたな。実は陛下に急用があるのだが」
「父上にですか?確か今は王宮の接待室で母上や姉と会談中だと思いますが」
「非常事態だ。 取り次いではいただけないか?」
ギルドマスターの表情を見た王子もよほどのことが起こったと読んだのだろう。「私についてきてください」と一言いい、王宮へと入り接待室の前までギルドマスターを連れてくる。ドアの両側に立っている兵たちに頷きながらドアを開け彼が中を覗き込むと、陛下、王妃と姫がソファに座り紅茶を飲みながら話をしていた。
「父上、母上、姉様、ギルドマスターが謁見を願っております。緊急事態と申し出ていますので、ここまで来ていただきました」
「何?すぐに通してくれ。ギルドマスター、どうしたのだ?」
「はっ!、陛下もご機嫌麗しく」その時点で陛下に止められる。
「あー、そう堅苦しいのは無しだ。接待室でその態度は、勘弁してくれ」笑いながら両手を挙げて降参する陛下。
ギルドマスターがテーブルを囲んだ椅子の一つに座る。「それでは、報告させていただきます。つい15分ほど前に膨大な魔力量が観測されました。しかもその者は、一分ほど魔力を利用した後、後も残さずその魔力を隠蔽できるようです」
部屋内意に緊張感が走る。この部屋にいるもの全員が、ギルドマスターの「膨大」な魔力量の意味を理解しているからだ。
「それで、その魔力量は、どのぐらいのものなのだ?」陛下が真剣な目つきでギルドマスターに問う。
「この王都を一瞬で滅ぼせるほどです」ギルドマスターが少し間をおいた後に答える。「できれば陛下、王妃様、ブレンデン王子とテレセシア姫様には、この魔力を持った者の正体がわかるまで、できるだけ早くテレポートを使用して東方面の方角へ避難していただきたいのですが」
「その者、敵意が有る者と見なしているのか?」
「いえ、そこまでは状況を把握していないのですが、万が一のためにもと」
陛下が乾いた笑いをこぼす。「逃げても王都が全滅させられては、逃げる意味もない。それに自分だけ逃れて、国民たちを放っておける訳がなかろう。皆はもしものために、一応避難してもらいたい」
「いえ、わたくしは父上をここに残して避難など、できませんわ」テレセシアがきっぱりと断る。
「私もです。父上の言う通り、国民を置き去りにして自分が逃げるなど、もってのほかです」ブレンデンも姫様と同意の様子だ。
「そうね、ここで逃げたら国民に顔を見せられないわね」と王妃様も非難の選択はないという顔をしている。
「そうか、あいわかった。だが今のところでは、こちらも打つ手もないのでな。ギルドマスター、新しい情報が入り次第すぐに連絡を頼む」
「承知いたしました。では、私はここで」ギルドマスターが部屋を出ていく。
しばらくの間、三人の間に沈黙が続く。
「父上、ギルドマスターの話は、少々誇張されているのでは?」テレセシアが疑問の声を上げる。
「いや、彼女がそう言うのであれば恐ろしいほどの魔力を持った者なのだろう」
「しかし父上、王都が一瞬に破壊など、想像もつかないです」ブレンデンも信じられないという顔をしている。
「そうだな、私も想像できない。今のところは情報待ちだな」陛下が接待室のバルコニーまで足を運び、花弁が舞い散っているコートヤードを見渡しため息をつく。『いくら魔力のある化け物とは言え、たったそれだけでここが消えるなど、何と儚いものだ』
落ち着いた声で宣言する王妃。「我が国は、何百年と女神さまを信じ続けた国よ。大丈夫、女神さまは私たちを見捨てないわ」
その頃、ギルドマスターは西側の正門にたどり着き、アゼベスと城壁の上で西の方角を見つめていた。
あの時以来、あの膨大な魔力は感じ取れない。まるであの放出を夢で見たのかと思うほど、今はいたって長閑な日だ。
「しかし、本当に静かだな。まあ、それに越したことはないが」ギルドマスターがそう願うように言う。
「ですが、あれほどの魔力を持った者が存在するというだけで、脅威ですわ」
「確かにな。だが、あのような魔力は人ではとても制御できないな。そうとなれば、巨大な魔物か?それとも知性のある古代竜の類か?どちらにせよ、もしこの国に敵意があるとしたら、絶望的だな」
「そうですわね。私も聖獣様と一度お会いしましたけど、あれほどの魔力は持っていられなかったわ」
「アゼベスは、あの時に森の里にいたのか。私は残念ながら森から出ていたからな」
50年ほど前に、巨大な炎の鳥が突然とエルフの森へ現れ『精霊たちに愛された子供が、三人の女神さまの信者ともに現れた時に、そなたたちの願いが叶い始める一歩だ。その時に必ずその子のことを頼むぞ』と、長老と里にいたエルフたちに言い残し、また飛び去っていった。ギルドマスターが森へと戻ったときに、まだ森の里が大騒ぎだったのを今でも覚えている。
その時から、エルフたちは国内中のの町を回りながらこの子供の出現を探しているが、いまだに発見されていない。しかしこの子供が見つかるまで、エルフたちは絶対にあきらめないだろう。
その子供が、エルフたちが精霊の森へと帰れるカギとなるのだから。




