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ようやくメイラリア王都へとたどり着いたユーリックたち。
王都は山一つを真ん中に、直径5キロほどの歪んだ円形の形をした街だ。
高い石瓶に囲まれ、中心に聳え立つ中世的な城。その塀の外側、すなわち中層に立ち並ぶ大きな貴族たちの屋敷、そして更にその貴族たちの地域の石瓶の外にヒシヒシと立ち重なっている庶民の住処。北側から流れてくる川を王都の堀として利用している。
シンシアたちが、馬をゆっくりと税門へと歩かせる。もう昼に近い時間帯で、街に入ろうとする頭数も少ない。10人ほど並んでいる列に並び、税門に入る。
三人の警備兵が税門を取り待っている。一人の兵が「おう、女神さまの信者さんたちか、無事に帰ってこれたようだな、カトレアさん」と笑顔で迎える。
「おかげさまでね。何も大事はなかったわ。今からギルドに行くのだけど、ギルドマスターはいるかしら?」
「今日は確かギルドで書類の山を整理しているはずだぞ。大変だよな、ギルドマスターも」
「そう、ありがとうね。それと、向こうで小さい子を一人拾ったんだけど」と言って、シンシアと乗馬しているユーリックのほうを指さす。
「ああ。孤児かい?」
「うーん、まだ解らないけど。その可能性もあるわ」
「そうだなー、それじゃ、銅貨一枚だ。街に入るのには、住民ではないと子供でも税が掛かるんでな」
「感謝するわ。それじゃ、またね」カトレアが銅貨一枚を兵士に渡し、門をくぐる。
平民地区に入り、中央通りを行く。この道は商店街のようだ。主に2回から3階建ての家で、一階が店前になっている。人が多いが、明るい表情で町の中を行き来している。何処からか聞こえてくる子供たちの笑い声。清潔に保たれた街の中。この国の王族や貴族が平民たちを守っているのが、よくわかる。
「兵士さん、やさしかったね?」とユーリックがシンシアに聞く。
「そうね。この国の王族は女神さまの信者たちを差別しないのよ。みな平等に見なされている。獣人も、ドワーフも、この街にはダークエルフも住んでいるのよ。それに、この国の王族は女神の剣がいつか現れるのを信じているからね」
「女神の剣?」
「そう。女神さまの信者は、いつの日か女神さまの恩恵を持った女神の剣と名乗る超越者が現れ、私達が幸せに人生を送れるところに導いてくれると信じているの。メイラリア国は王族がそれを信じているわ」
「でも、そのせいで女神さまの存在自体を消滅させようとしている国から、圧力を受けている。そのことで戦争もたびたびあったしね」カトレアが不安なそぶりで言う。
ユーリックがこぶしを強く握る。今、女神さまの恩恵を授かっているのは、世界で彼たった一人だけだ。『女神さまが、まさか僕を女神の剣に、そんな…』600年も待ち続けた信者たち。もし誰かがこのことを知ったら、確実に女神の剣が現れたと、とたんに知れ渡るだろう。
『とにかく、今は情報を集めないと。もし誰かにばれたら、その時に対応すればいいし』と思いながら、シンシアたちともにギルドにつく。貴族区域の正門前に立っている、大きな三階建ての建物。一階は、石のブロックで作られており、二階、三階は木造だ。
馬を外につなぎ、シンシアたちとギルドの門をくぐる。広い部屋の後ろに一列のカウンターが並び、受付役のギルド員たちが冒険者たちと取引を行っている。右手には依頼が張り出された大きなボード。左手には、軽食が食べれる食堂や酒場が設けられている。
シンシアが後ろのカウンターを受け付けている一人の受付嬢へと足を運ぶ。向こうもこちらが帰ってきたことに気が付き、笑顔で手を振って迎えてくれる。長いウサギの耳が、手を振ると大きく左右に揺れる。
「シンシアさん、お帰りなさい!無事で何よりです。それで、ファーソングで何か原因が見つかりました?」
「ただいま、リーシャ。まあ、発見したけど少々問題になりそうなの」受付嬢にユーリックの矢を渡し「ギルドマスターに頼むわ」と伝える。
彼女の顔色が、その矢の作りを見た途端に青ざめる。「すぐにギルドマスターを呼びますので、ここでお待ちを」と言い残し、素早く階段を上がっていく。
「これって、やはり大問題になりますよね」と言い足すサナ。
「私たちは正確な情報をギルドマスターに渡すだけ。それで依頼は終了よ」
すぐに誰かが階段を下りてくる足音が聞こえる。一人は受付嬢のリーシャ。そして彼女の後ろから聞こえる静かな足音は、エルフだった。
ユーリックの第一印象は、ギルドマスターの雰囲気が女神さまに似ていると思ったこと。芯が強そうな凛とした顔つき、それでいて何処か落ち着いた静かな優しさが彼女から漂っていた。外見も相当な美形。少し見とれてしまうユーリック。
「シンシア、ご苦労様。ちょっと話がしたいので、三人ともついてきてくれ」
「あの、この子もよろしいですか?」
「シンシアには、そんな大きな子供がいたのか?」
「違いますよ!ファーソング村の襲撃を生き延びた子です。村が襲われたときを目撃したそうです」
「そうだったのか、可哀想に。それではみんなで上に来てくれ。リーシャ。後でお茶と、この子にお菓子でも持ってきてくれないか?」
「はい、承知しました」リーシャが返事を返す。
ギルドマスターの後ろに付いて行くユーリックたち。3階の接待室に案内され、テーブルを取り囲むソファに座る。
「さて、依頼の件だが。リーシャが持って来た矢は、ファーソングで発見されたものかね?」
「はい、そうです。正確に言うと、このユーリックが私たちに持ってきたものですが」シンシアがユーリックの肩を抱く。
「なるほど。ユーリック。どこであの矢を見つけたのかな?」
「あの矢は、僕が森へ逃げ込むときに、襲ってきたものたちから打たれてきたものです」
ギルドマスターに村が襲われた状況を一から伝える。ユーリックが話し終えると、ギルドマスターが深刻な表情になる。
「実はな、ファーソングだけではないのだよ、襲われた村は。もう今までに村が6か所襲われ、全滅させられた。それも皆、精霊の森に近い村ばかりだ。」
「何故そのようなことを」サナが皆の考えを声にする。
「情報は集まってきているがまだなぜかは、わからん」
そこに、リーシャが紅茶とお菓子を部屋に運んでくる。
「ありがとう、お姉ちゃん」リーシャにお礼を言う。
「どういたしまして!たくさん食べてね!」と言いユーリックの頭をなでてから、部屋を出ていく。
「話の続きだが」ギルドマスターが紅茶を一口飲んだ後、また話始める。「120年前に同じようなことが起こった。隣国のゴルタニアが攻め込んできたのだ。その時も精霊の森に寄り添った村が6か所ほど襲われ、全滅した。その時に得た情報だが、ゴルタニア軍勢から「精霊使いを殺せ」とその時の冒険者が聞き取ったそうだ。」
「まさか、そのようなことは不可能です。精霊たちは精霊の森を守るために存在するものであって、支配できるものなどいません。そのようなことができるとしたら、森に棲んでいる聖獣たちだけですよ」サナが当たり前のことだといったように皆に発言する。
「そこなのだよ。私も長年生きているが、精霊が支配されるなど、聞いたこともない。しかし、またゴルタニアが戦争を仕掛けてくる可能性が跳ね上がった」
「それでは、冒険者たちは王都に待機ですね」カトレアがため息をつく。
「そうだな。もしもの時には、冒険者にも援軍してもらう」
「それじゃ、明日から遠出の依頼が受けれないか」サナもがっかりした様子だ。
「それじゃ、あと残るは、迷宮ね」シンシアが頭を抱える。
「迷宮って、危険なの?」ユーリックがみんなに問い掛ける。
「上層階は、そんなに危なくはないのよ。ただ、5階層以下になってくると、危険度が異常に上がるの。それに、潜るとなると、いろいろ必要な品も増えるし」
「まあ、とにかくご苦労だった。リーシャが、依頼の支払いをする。今日は家に帰って、ゆっくりしてくれ」
「そうね、それじゃ、帰りましょうか。ギルドマスター、また後ほど」
ギルドの受付カウンターでリーシャから銀貨50枚を受け取り、家へと向かうシンシアたちだった。
銅貨一枚=10円
銀貨一枚=1000円
金貨一枚=100000円




