混沌の火種
旧約聖書創世記にて奴隷の身から大国エジプトの宰相に上り詰め、エジプト周辺地域の民を未曾有の大飢饉から救った英雄がいた。彼はヨセフといい、ユダヤ人の祖とされるイスラエルの孫ヤコブ、その息子である。彼は容姿が端麗で人に愛される才能と何でも習得できる器用さを持っていた。
彼はそれに加え、人が見た難解で不思議な夢を解釈し未来を予知することができる不思議な力も持っていた。その才能によって大飢饉を予知し、備えをすることで大飢饉を乗り越え多くの民を救ったのである。彼の行ったことはユダヤ教において非常に重要な意味を持つ。
時は進み、話は20世紀中盤に移る。
1945年、全世界を巻き込み歴史に類を見ない犠牲者を出した第二次世界大戦が終わった後、戦勝国による敗戦国の分割統治案が検討され、ナチスドイツと大日本帝国はその対象となった。その結果ドイツはドイツ連邦共和国(西ドイツ)とドイツ民主共和国(東ドイツ)に分断され、日本は東日本国(東日本)と西日本共和国(西日本)に分断された。西ドイツと東日本はアメリカ合衆国が統治し、東ドイツと西日本はソビエト連邦に統治されたことになり、分断されたドイツと日本は10年ほど経った後に主権を形式上は取り戻すも、西ドイツと東日本はアメリカ合衆国を盟主とする資本主義、自由主義陣営(西側陣営)に、東ドイツと西日本はソビエト連邦を盟主とする共産主義、社会主義陣営(東側陣営)に属し、アメリカとソ連の静かなる覇権争いである冷戦に巻き込まれていくのであった。
日本はポツダム宣言受諾後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に占領され戦後処理が行われた。戦前日本の絶対的君主として実権を握っていた昭和天皇はGHQの譲歩で処刑を免れ、以降は主権を持たない日本の象徴として扱われることになった。これは天皇が日本国民に崇拝される神のような存在であることを考慮し、天皇の処刑は日本の統治を難しくすると判断されたからである。
日本の統治に関しては当初、太平洋戦争で日本と主に交戦し勝利したアメリカ合衆国が行うのが妥当と考えられたが、ソビエト連邦の強い反発により分割して統治することになり、東日本はアメリカ合衆国に、西日本はソビエト連邦に譲り渡されたのであった。日本の象徴となった天皇は東日本に属することになり、東日本は立憲君主制の東日本国を名乗り、西日本は君主のいない共和制の国として西日本共和国を名乗ることになった。しかし、この分断は西日本からの大きな反発を生んだ。戦前は資本主義であったのが共産主義に変更され、心の拠り所であった天皇を奪われる形になったのが原因である。この反発と不満は東西日本の間に多くの争いの火種となったのであった。
1950年、そんな騒乱の中、西日本の広島県呉市に一人の男の子が産声をあげた。彼の名は貴聖。伊作雄一郎の4人目の息子である。後に彼は日本の英雄として歴史に名を刻むことになる。彼が旧約聖書の英雄ヨセフの生まれ変わりであることは神のみぞ知ることである。




