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卒業記念旅行プラン決定

「申し訳ありません。せっかくみなさんに色々考えていただいたのですが、今回の旅行プランは6-Cのプランが選ばれました」


マリカ姫に慰められながら、しょんぼりした様子の委員長がランチミーティングから帰ってきました。


「白鳥の君のプランを通せないなんて…僕は…ッ!」


ドン、ドン、ドンと力強く教壇が叩かれます。

おおう、あれでは拳が腫れますよ。誰か、早く、止めてあげてください。


わたしが目配せすると、リョウがスッと立ち上がりました。


「委員長、白鳥の君はそのように狭量ではないぞ。どのようなプランであれ、6-Aが最終的によい結果を取ればよいのではないか?」

「そ、そうでした!僕は目的を履き違えていました!最高の評価を勝ち取りましょう!」


委員長の血を振り絞るような声に、周囲からおおおおおっ!と、雄たけびが上がります。

男泣きしている者がだいぶいるようですが…。だ、大丈夫でしょうか、このクラス…。

わたしは内心で冷や汗を流しながら、委員長に続きを話すよう促しました。


「す、すみません。決定したプランは『旧都お忍び旅行。ビジネスホテルも体験しちゃうぞ』です。旅行中の移動は公共機関のみ。決められたお小遣い『5万円』だけを持って2泊3日を過ごしてもらいます。ホテル・自由時間はグループごと、旅行スケジュールはクラスごとに決定、体験します。終了後は、グループの旅行記録をクラスでまとめ、提出。一番素晴らしい体験をしたクラスが優勝となります」

「な、なんと、すごいプランだ…!」

「ご、五万円というのは、どれくらいの価値なんだ…?」


そもそも自分でお金を払う習慣のない者がほとんどです。その価値がわからず、辺りがざわめきます。


初等科から入ってきた西塔さいとう征爾せいじがスッと手を上げました。彼は歴史ある小児科病院の跡取り息子です。それほど大きくはありませんが、由緒正しい医者の家系で、わたしも彼のお爺様に診ていただいたことがあります。


「ボクはみんなと違って庶民だし、外の学習塾の友人たちと過ごすときには現金が必要だからお小遣いをもらってるよ。ボクの1日のお小遣いがちょうど5万円なんだ。塾の帰りにファミリーレストランという店に行ったりすると大体数千円かかるかな。町の映画館も数千円で過ごせるよ」

「で、では、食事と遊興費で1万円あれば過ごせるのかしら?でも、西塔君の1日のお小遣いよりも少ないってことですわよね…?」

「委員長!五万円というのはホテル代も入っているのか!?」

「そうです。ビジネスホテルは1万円程で泊まれるそうですので、2万円は宿泊費、残りが遊興費になります。この残りの3万円のうち2万円はクラス活動費としてクラスで集めます。グループ活動費は残りの1万円です」

「い、1万円…」


クラスメイト達の、ゴクリ、と喉を鳴らす音が響きました。

マリカ姫が一歩前に出ると、戦いに赴くかのように凛とした表情で皆をみまわします。


「皆様、苦しい戦いとなりますわ。けれども、わたくしたちは白鳥の君がおわす誉あるクラスです。必ずや、苦境を乗り切り、素晴らしい旅行に仕上げてみせましょう。クラス活動は初日と最終日と決まっております。中日は終日グループ活動となりますので、まずはグループをお決めになって、ホテルを予約して下さいませ。旅行地域は決められておりますから、出遅れれば、他のクラスによいホテルを抑えられてしまいます。クラス活動をどのようにするかは、次のホームルームの議題といたします」

「では、解散を------------」

「少しよろしいでしょうか?」

「え、白鳥の君?」


委員長の戸惑う声を前に、わたしはにっこりと立ち上がりました。


「グループわけについて、1つ提案があるのです。今回はこのグループわけを、くじでわけてみてはどうでしょう?」


ガタッ


大きな音に驚いて視線を向けると、マリカ姫が真っ青な顔でこちらを見つめていました。

貧血でしょうか!大変です!マリカ姫は昔からすぐに貧血を起こして倒れたり、顔を青ざめさせたりするのです。

わたしは素早くマリカ姫の足元に近づき、彼女を抱き上げました。


「保険委員、先触れを出していただけますか?マリカ姫が倒れましたと伝えていただければわかるはずです」

「は、は、はいっ!」


保険委員の吾妻あがつまさとるが急いで駆け出していきました。

あ、駆けてはいけません。こうしゃでは、どのような時も優雅に…と行ってしまいました。先生に叱られないよう祈るしかありません。


「あの、白鳥の君…大丈夫ですわ」

「いえ、いけません。あなたは昔からお体が弱い。わたしのためにも少し保健室で休んで下さい。---------------くじ引きについては」

「よいと思います!」

「わたくしも!」

「お、俺も!」


考えておいて下さいと続けようとしたところ、次々に声が上がります。

これは決定でよさそうです。

話を続けようと口を開きかけて、腕の中でマリカ姫が震えているのに気が付きました。

これはまずいです。

急いで保健室に行かなければ。


「では、決定で。委員長、くじの仕方についてはわたしが決めてもよいでしょうか?」

「は、はい」

「白鳥の君、勝手に決めては--------」


非難めいたカノン達の声を遮るように、微笑みます。


「心配はいらない。必ず公平になるくじにするから。それに仲の良い者同士でグループになると、初等科から来た者と、幼稚舎からいる者とでわかれてしまい、真の意味での交流にならないではありませんか。それでは優勝など到底できるわけがない。今回は、幼稚舎から来たものは各グループに分けて配置とするのがよいと思う」

「白鳥の君!」


カノンとリョウの非難めいた声と同時に、マリカ姫がわたしの服をぎゅっと握りしめました。


「いけない。具合が悪くなってきたのですね。急いで向かいましょう。では、カノン、リョウ、これはブランシュのプリンスとしての命令でもあります。聖騎士として、正しき行いを」


二人の苦り切った顔を背に、わたしはさっそうとマリカ姫を抱いて保健室に向かいました。


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