クールビューティーの独り言
僕がお姫と出会ったのは、入園式の日だった。
お人形みたいに、何もかもがちょこんと整った顔をしていて、目だけが零れそうに大きかった。
僕らの通う幼稚舎は、楼園紅鈴学園という有名なセレブ学園の附属幼稚園だった。
だから、通っている子も、何れは楼園紅鈴学園に通うつもりのお金持ちの子どもばかり。
中でもお姫は、創立者の血筋ということで際立っていた。
けど、実際に通い出したら、お姫はちっともお嬢様らしくなかった。
なにしろ、なんでも全力投球。
走り出したら止められない、暴走トラック。
その上バカがつくほど、単純で騙されやすい。
全幼稚園生で行った遠足では、帽子を飛ばされて泣いていたクラスメートのために、木に登って落下し、前歯を折って血だらけになった。
ヘラヘラ笑いながら口から血を流し、帽子を手にクラスメートを追いかけるさまはまさにゾンビのようで。楽しいはずの遠足は一転、阿鼻叫喚の嵐になった。
玄親はその時のトラウマで医者になるのを諦めた。
「俺はドクターZを越える。神の手を持つ男となってやる。フハハハハ!」と言っていたのに、血がすっかり苦手になってしまったのだ。
運動会では、二人羽織でのわんこ蕎麦対決で、レオパルドに絶対負けないと食べ続けて、鼻から蕎麦を出してぶっ倒れたし。
発表会では、椋璽に嫉妬して作品を壊したクラスメートをぼこぼこにして手を折ったし、僕がストーカーに追いかけ回されているのを知って対決しようとして殺されかけた。
給食のミルクがどうしても飲めなかった雅道の代わりに、毎日ミルクを2本飲み続けて、お腹を毎日下していたのも、生温い思い出だ。
あの頃、お姫はミルクやアイスを食べ過ぎると、いつもお腹を壊していたっけ。
大体、体も小さかった。
なのに、食い意地は人並み以上に張っていたけど。
極めつけは小学校1年生の時の、プチ家出だ。
いや、本人は「トム・ソーヤの冒険」に感化されて、冒険に出るつもりだったようなのだけど。
冒険って何だ?イギリス人か?
海をイカダで渡ろうとしていたと聞いた時には、捕まってよかったとホッとした。
飽きれを通り越して、もしかして大物かも···とか思ってしまったりもした。
しかし、そこで問題が勃発した。
王子さまに出会ったと言い出して、急にお嬢様言葉を使いだしたのだ。
はっきり言って、お姫にナヨナヨしたしおらしい姿や、扇で隠したほほほ笑いなんて全然似合わない。
お姫は、口のまわりを大好きなショコラでベタベタにしながら、アホみたいに笑っていればいいんだ。
だいたい、初めて会った6歳児に運命の愛とか囁くヤツなんて、おかしいだろ?変だろ?
なぜ、気づかない!?
バカだバカだと思っていたけど、ここまでバカだと、いっそすごいというか、気になって放っておけない。
目を離した隙に、身ぐるみ剥がされて、騙されたことに気づかずニコニコ笑っている気がする。
その上、さらにお姫は何を思ったのか学園で男装を始めた。
本人はなりきっているみたいだけど、昨日まで女生徒だった子が男子になってもバレバレだ····。
最初はざわついていたクラスメートも、段々お姫の男装に悪のりで付き合いだして、「倒錯的でいい」とか言い出すヤツらまで出だした。
もちろん、そんな奴らには幼馴染みの僕たちが教育的指導を施したけれど、初等科から入ってきた生徒も多く、普通に対処するだけでは不安も増えてきた。
そこで、僕たちは騎士団を結成し、策を練ることにした。
玄親が生徒会に潜り込んで会長になったのもそのひとつだ。
普通のバカではなく、宇宙規模のバカを守るには、権力も大きくないとね。
それでなくとも、このバカは並外れた権力や金力を使って、信じられないことをするのだから。
願わくば、
お姫が、無事に、学園を卒業できますように·······。