星蘭は、世界一のプリンスを目指します!
サブタイトルを変更しました。
息抜きがてら投稿していこうと思います。
私は白鳥星蘭。
楼園紅鈴学園に通う12歳の男子生徒です。
でも、本当の性別は女の子。
創設者の血筋という絶対権力で、男子生徒になりました。
男装癖ではないですよ!
幼い頃会った王子さまのためなのです。
彼は私に"清らかな乙女"であることを望みました。
男子生徒なら、社交ダンスの相手も女の子。
王子様以外の男子と、肌を近づけることもありません。
ましてや恋愛なんて!
男同士では起こらないでしょう。安心です。
車が学園に着きました。
窓から覗くと、タラップが降りているのが見えます。
実は、楼園紅鈴学園の学舎は、ご先祖さまの夢が詰まった空中城なのです。
登下校の時間以外は空に浮かんでいて、世界各国の景色が楽しめ、敷地も広げ放題とすごいのです。
わたしはいつものように優雅に車を降りました。
胸元の薔薇の位置を直して、タラップへ向かいます。
宝華歌劇団の男役から直々に手解きを受けたウォーキング。
立ち止まった女生徒から、熱い視線が送られるのもいつものことです。
「ごきげんよう、星蘭さま。これ、今朝、わたくしが作りましたの。よろしかったら、お召し上がりいただけないでしょうか?」
数歩も歩かぬ内に、見知らぬ女生徒が駆け寄ってきました。
下級生でしょうか?顔を真っ赤に染めた、可憐な女の子です。
「ありがとう。はじめて見る顔ですね」
わたしは、白い歯を見せて爽やかに笑いかけました。
手作りのクッキーでしょうか?
可愛らしくラッピングされたピンクの袋を押し付けられます。
「はっはい!わたくし、星蘭さまの花園の一輪に加えていただきたくて----------」
そこまで言うと女生徒はスカートの裾をぎゅうっと握りしめました。今にも気を失いそうな顔で震えています。
あ、あれ、倒れたりしませんよね?
それに、花園入りはわたしの独断では決められないこと、知っていますよね?
たまにいるのです。
突然抱きついて来る女子とか、急に倒れる女子とか。心臓に悪い女の子が。
クッキーは嬉しいのですが、貢ぎ物でなんとかなると思われても困ります。
心のなかで慌てていると、横から現れた手がわたしと女生徒を引き離しました。
「困りますね。直訴も直接の贈り物もマナー違反ですよ」
わたしの花園の聖騎士のひとり、氷のカノンこと、橘翔音です。
不機嫌そのものといった顔をしています。
ちなみに、聖騎士にはそれぞれ、氷、風、炎、癒し、闇の称号がついています。
氷のカノンは、その称号の通りクールビューティーな12歳の少年。規律を乱すものに容赦がないことでも有名です。
いまは、眉間に険しいシワを作っていて、青ざめた女生徒に「ひいっ!」と悲鳴を上げさせています。
彫像みたいに整った顔に眉間シワって、怖いですからね····。
「カノン、それくらいに•••••」
わたしは、女生徒に救いの手を差し伸べることにしました。
「そうですよ。新入生のようではないですか。君、今回は見逃しますが、次回はないと思って下さいね。さぁ、もう、お行きなさい」
わたしの言葉を引き取って女生徒を逃したのは、風のリョウこと羽衣椋璽です。
こちらは目元も涼やかな和風美少年。踊りの家元の御曹司、12歳です。社交ダンスも得意なので、学園ではダンス王子とも言われていますね。
それにしても、今の女生徒は1年生だったのですか。
最上級生に直接話しかけるなんて、勇気がありますね····。
きっと、花園入りをしたくて切羽詰まっていたのでしょう。
花園入りとは、社交クラブのメンバーになること。
桜園紅鈴では、社交クラブが絶大な力を持っています。
今ある社交クラブは12ほどで、専用の離宮を使っている白、薔薇、愛、太陽が4つ、離宮ではなく城館の西側の棟に部屋を与えられているクラブが8つ。
中でも離宮持ちのクラブは、サロンだけでなく、専用の食堂やプール、個室などがあり人気があります。
離宮以外は、30畳ほどのサロンと控え室があるだけですからね···。その分、運営費は全て学園の経費で賄われています。
対して、離宮は主が運営費を出しています。
まず、離宮の規模に応じて、毎年高額な寄付をします。
これは寄付ということになっているけれど、正確には光熱費や警備費、プライベートガーデンの管理など、離宮の維持・管理に必要なお金です。
さらに、定期的に開催するパーティやイベント、食堂の運営からサロンで飲むお茶やお菓子、離宮内のスタッフの人件費。
それら全て主が支払います。
ですから離宮の社交クラブは、後継者がいなくて閉鎖してしまうことも。その場合は、財力のある者が入学した時に、その離宮を譲り受けてクラブを復活させることになります。
代替わりは本当に大変なので、無事に後継者が決まった際は大規模な就任式も開かれるくらいです。
「お進みください。立ち止まっていますと、また不心得ものが寄ってくるかもしれません」
二人にがっちりとガードされて、タラップを登ります。
タラップは外車が4台並んで走れる程の幅があります。
両脇に立ち並んでいるのは、花園のメンバーか、ファンでしょう。
わたしは並んでいる生徒達に手を振りながら、空中城の門を潜りました。
「教室に入る前に離宮に参りましょう」
カノンにピンクの小袋を取り上げられました。
気のせいでしょうか「チッ」という舌打ちが聞こえます。
気のせいですね。
横を向くとカノンに「何か?」と綺麗な笑顔を返されました。
わたしの花園-----ブランシュも閉鎖していた離宮です。
わたしが初等科入学と同時に譲り受け、プリンスに就任しました。
あ、プリンスというのは主に与えられる称号の一つです。他には、姫、女王、王などがあります。
そして、社交クラブに入会し、個室が与えられた者は、レディ、ナイト、と呼ばれます。
聖騎士、聖乙女は、中でも特別な、主にもなれるようなメンバーに与えられる称号です。
「………車が必要なのではないしょうか」
それにしても、離宮が遠いです。
城のまわりはフランス式庭園になっているので、無駄に広いのです。
プリンスは汗をかかない…息を乱さない…と胸の内で念仏のように唱えながら、にこやかな笑顔を貼り付けて歩きます。
時折かけられる「ご機嫌よう」へのお手振りも忘れません。
「庭園と城に車は似合いません。許可が出ませんね」
「馬車か馬ならば使用許可が降りるのではないですか?」
馬はいますよ。乗馬クラブがありますからね。
真剣に専用の馬を用意しようかと考える内に、離宮に着きました。
毎朝の事ながら既にヘトヘトです。
離宮の入り口には、中世の騎士のコスプレをしたガードマンが立っています。
暑いのに重い鎧を着けてご苦労様です。
彼の給料はいくらなのでしょうか。
IDカード代わりの指輪を翳すと、扉が青く光りました。
エラー時は赤く点滅して、大音量で「シンニュウシャ!」と叫ぶので、とてもうるさいのです。
広い廊下を過ぎると、広間への重厚な扉があります。
こちらは魔法の家具になっていますから、わたし達が近づくと自然に開きました。
「白鳥の君、ご機嫌麗しく」
中に入ると、身長180㎝の逞しい体をした炎のレオンこと、金剛殿レオパルドがやって来ました。
スペイン系のハーフである彼は鼻筋の通った、彫りの深い美青年です。年齢は13歳ですが、外国の血が入ると大人びて見えますね。スポーツ万能で、運動部の部長も努めています。
ちなみに、白鳥の君というのは、クラブでのわたしの愛称です。
「今朝は少し遅くありませんか?」
カップを手に現れて、わたし専用テーブルに置いてくれるのは、癒しのルナ様こと華月院雅道13歳。長い黒髪も艶やかな、有名画伯の父と世界的バイオリニストとの母を持つ、芸術界のサラブレッドです。
彼の淹れるお茶は、紅茶でも、珈琲でも、抹茶でも、魔法のように美味しいのです。
わたしは、レオンにエスコートされて、広間の中央にある玉座に座りました。
離宮の広間は、中世の城を模していて玉座があるのです。
この離宮は4階建てで、2階には食堂、図書室、プール、スパ、エステサロンなどがあります。
3階は男子用の個室、4階は女子用の個室ですね。
ああ、今日もルナの淹れる珈琲が美味しい。
一度飲んでから、我が家のメイドの淹れる珈琲が飲めなくなってしまいました。
朝食を食べた後だけれど、チョコレートも摘まんでしまおう。
「白鳥の君に、直接贈り物を渡した女がいたんだよ」
ほんわか気分を冷たい声が凍りつかせました。
カノンがピンクの袋を逆さにして、皆の前で開けます。
中身のクッキーがザラザラとゴミ箱の中に落ちていきました。
「カノン、可哀想ではないですか!」
「知らない者が作った怪しい食べ物ですよ?毒が入っている危険性もあります。即刻捨てるのが正しい判断です」
そんな、考えすぎではないですか?
同じ学園に通う生徒です。可愛い女の子です。
「次からは、ボク達を通さないものは受け取らないで下さい」
「しかし••••」
カノンは厳し過ぎます。
わたしは味方を探して、キョロキョロと辺りを見回しました。
目が合ったルナが、優しく笑いかけてきます。
「白鳥の君にはできないでしょう」
うんうんと、わたしは力強く頷きました。
そうです、その通りです。
わたしは、女生徒の味方なのです。
白鳥家の家訓は「常にトップたれ!」です。
女性の姿のわたしは、清らかな理想のレディを。
この学園でのわたしは、か弱い女性を守る理想のプリンスを目指しているのです!
「白鳥の君に近づく前に、私達が排除するべきですよ」
ん?なんと言いましたか?
ルナ、優しそうな顔なのに、目が笑っていませんよ!
「そうだな。登下校のガードを厳しくしよう。いっそご自宅まで迎えに上がってはどうだ?」
「いっ、いえ、それには及びません!」
「車から降りられた直後を狙われているのですよ?同じ車で登下校すれば解決します」
「あ~、ん~、そうです!ブランシュ専用降車場を作りましょう!それならば、マナーを知らない部外者は入れないでしょう?」
「それはよいお考えですね」
「いっそ、社交クラブごとに降車場を作ってはどうだ?クラブに入っていないものは一般降車場を使えばいい」
「ブランシュの降車場にはレッドカーペットを敷きたいですね。さっそく、生徒会に申請しましょう」
話が大きくなってしまったようです。
もう、このまま「いかにも思案している顔」で、椅子にもたれて休んでしまいましょう。
ああ、それにしても、迎えを阻止できてよかった。
レディとプリンスとの二重生活がバレてしまうところでした•••。
「何を生徒会に通すのだ?白鳥の君の望みなら、直ぐ様わたしが叶えてやろう」
生徒会の朝議を終えたインテリ美形が入ってきました。
闇の大王こと、醍凰路玄親14歳です。
今日も伊達メガネが、キラッと光っていますね。
偉そうな口調はデフォルトです。IQ333の超天才なので、少々尊大なのは仕方ないでしょう。
わたしの花園のトップ5達は何やら真剣に話し始めました。
退屈です。
一人で教室に移動しましょう•••。
「白鳥の君!お一人で歩いて、また何かあったらどうします!?」
ええええ~、法治国家ですよ?学園内ですよ?
「•••••仕方ありません。話はランチタイムにしましょう」
困った子を見るような目で見ていますが、わたしは普通だと思います。
結局、お供をぞろぞろと引き連れて、城館中央に向かいます。
初等科は城館中央2階にあるので、中等科のある北棟に行くレオン、ルナ、大王とは別れます。
ちなみに高等科は城館南棟、大学は西側に広がる庭園の奥に造られています。大学生は西門から登下校するので、顔を合わせる事は少ないですね。
「カノン、リョウ、後はしっかり頼んだ!」
何度も言いますが、ここは学園内ですから!
どんな危険も待ちうけていませんから!
「規律を破る者は切り捨てるのみだよ。任せておいて」
怖いです!
目が本気ですから!犯罪は困りますよ!
彼らも幼稚舎の頃はこれほど過保護でなかったと思うのですが。
う~ん、何が彼らをこんな風にしてしまったのでしょうか···。