みいちゃん 3
明るいみかん畑の間を通り抜け、小さな木の橋を何度か渡り、また、森のようなうす暗い場所にさしかかった時、ようやく一度、みいちゃんに追いついた。
みいちゃんは、ボクがぜいぜいと息を切らせているのにもおかまいなく、じっと右手にこんもり茂る木立ちの中を見つめながら
「あそこ」
少し奥まったあたりを指さした。
「大きな杉の木が二本、あるでしょ、あそこに古い神社があるんだよ」
「えっ、神社?」
「ここにさ」
自分たちのいる場所から右の草むらに向けて、腕をのばし線を描く。
「道があったの、そんでみんなお参りしたの」
草ぼうぼうの荒れ地の中、みいちゃんが腕で描いた通り、ボクにもなんとなく、古くて細い道が見えた気がした。
よく見ると、足もとに転がっている石はみょうに白っぽくて、角ばっていた。
元々何かの目印だったのかも知れない。
なぜか急に、足が震え出した。みいちゃんが次に言うこと、わかってしまった。
「見に行ってみたくない?」
やっぱり。
ボクを、大きな目で覗きこむ。
「なんでさ」ボクは声まで震えていなかっただろうか。
「なんで神社があるって知ってるの? だれから聞いたの?」
「え」
みいちゃんは首をかしげた。
「名前なんだっけ? 何とかって言うおにいちゃんが教えてくれたんだけどね、山本さんの親せきだって言ってたよ、休みにとまりで遊びにきたんだって、でもこの辺のこと詳しくて、ええと……まあいいや」
みいちゃんはあまり深く考えない。
「行ってみたくない? 井戸もあるらしいよ」
「いやだ」
ボクは即答だった。こんな山の中の草も木もぼうぼうに生い茂った中に、もう誰も行かないような所に神社が?
それに井戸?
ぜったいに行かないよ、みいちゃんも行っちゃダメだ。
そう、確かに言ったのに、ボクは。
みいちゃんは神社のあるらしき方に向かって、また駆け出して行った。
背たけ近い草を押し分けて。
白い背中がまた、ぐんぐん遠ざかる。
「みいちゃん!」
今度はボクは、追わなかった。
「よわむしぃ」
遠くで元気に叫ぶ声が、風に乗って届いた。