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two ***

 結局、貴船に無理やりキュウリを押し付けられて、四宮はかなり大きな袋を自転車のカゴに放り込んで家に帰ることになった。キュウリと言うよりは通常のヘチマか、という大きさだった。

 それでも、二本で済んだ。みずきが来てくれたおかげで、割り当てが減ったのだ。

 

 みずきが

「ケイちゃん速すぎ」

 とブーブー文句を言っていたので四宮は仕方なく自転車から降り、ゆっくりとハンドルを押して歩く。


「結局、エレンちゃんのデータは復旧できたんだね」

「タグが壊れた様子はなかった、再登録したよ」


 それでも、二人が実際にその『穴』を踏んだかどうかについては、「多分」とあやふやな答えしか得られなかった。


「……」

 みずきの言葉を聞き逃し、ぼんやりしていた四宮は後ろからがん、と自転車を当てられた。

「ごめん何?」

「週明けに終業式なんて、めんどくさいねーって言ったの」

「何だ」

「何だ、じゃないよ」

 怒った拍子にハンドルから手を離しそうになって、みずきはあわてて態勢を立て直す。

 カゴに入ったキュウリがバランスを崩し、鈍い音を立てて道路に落ちた。

 みずきは、きーっと髪をかきむしり、自転車を路肩に停めた。


 そんなみずきを見おろしながら、四宮はつぶやく。

「明日は学校に入れないしな」

「えー、休みにも学校行きたいんだ!」

「スタンプ・オンがどうしても気になるんだ」

 うんうん、みずきがキュウリを拾いながらうなずいている。

「わかるわかる、ケイちゃん、とことん突き進むタイプだからね」

 あーあ、一本折れちゃった。と、みずきは拾ったキュウリを持ち上げた。

 どこに当たったのか、断面が斜めに切れたようになっている。

 芯のあたりにぷくぷくと、種がいくつか薄い膜に包まれて上からのぞいていた。

「ちょっと……」

 四宮が手を出した。

「片方貸して」

 種が多そうな方を受け取り、四宮は不細工な凹凸になった断面を見た。


 断面を上に向け、捧げ持つような両手の指で、ぎゅっと皮の上から圧をかけてみる。


「ちょ、何してんの」

「……本当だ。すごいな」


 膜を突き破り、薄茶色になった種がぽこぽこと姿をみせる。今まで何も出ていなかった芯の表面からも、隠れていた種が姿を見せた。周りに少しゼリー状の膜がついているせいか、どの種も外から押されると案外威勢よく外に飛び出してくる。

 

 急に、連想がつながった。


 お化けキュウリから次々と飛び出してくる種。

 穴の縁に立つ、緑に光る足跡。エレンの足跡。

 つるりと穴に吸い込まれ、そして次々と、どこかから飛び出してくる、押されて、じっとり絡みつく膜を突き破って、この種のように……


「ねえみずき」

 怪訝そうに見守るみずきではなく、押さえつけているキュウリの断面に目を据えながら、四宮は淡々とこう持ちかけた。


「……夏休み、一回だけでいいからちょっと付き合ってくんない?」

 あっけにとられたみずきの表情とは裏腹に、四宮の顔はいつになく真剣だった。

「な、ななな何急に」

「みずきの言う通りだと思ってさ」

 四宮はキュウリを路肩の向こう、草むらの中に方に投げた。

「やっぱり現場をちゃんと見るべきだと思う。こっそり忍び込む」


「アタシに手伝えって言うの?」

 みずきが悲鳴を上げる。


 しかし、四宮には分かっていた。

 

 みずきは、断らないはずだ。なぜなら


「分かったよぉ」


 みずきは昔からそうだった。

 ケイちゃん、どこの高校希望してるの?

 初めてそう尋ねてきた時から、実ははっきりと気づいていた。

 自分を追いかけて、追いかけて……理数系が得意でもないのに同じ科学部にも入ったくらいだ。


 利用しているのだろうか、彼女の想いを。


―― いや、違う。


 俺もみずきのことが。

 それにみずきだって真実を知りたいだろう。だから。


 四宮はみずきの答えを待つ。信じながら。


「……いつにするの?」


 いつの間にか、それでも肩に力が入っていたようだ。

 四宮はほっとして、大きく息を吐きながら答える。

「夏休みの部活で、スマホから見られるようにちょっと手を入れる。その支度ができ次第、すぐに」

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