9.騎乗
『トリアエズナマ飛んできた! トリアエズナマ! サクラサク粘れるか! やはり強かったトリアエズナマ! 今ゴールイン。二着は一馬身でサクラサク』
巨大な電光掲示板にはでかでかと「トリアエズナマ」とテロップが出ている。
ここは某馬券が買うことのできる施設で、カラスとハトは塀の上で電光掲示板の様子を眺めていた。
「何だか楽しそうですね。先輩」
「くああ。そうか? 俺は見るより自分でやる方が好きだな」
「へええ、先輩、乗馬とかするんですか?」
「ん、少し違うが、やってみるか? ハト」
「はい!」
くあくあと会話を交わした二羽は、この場を飛びたつ。
◆◆◆
「さて、やってまいりました。動物園。好きですね先輩も」
「だから、誰に向けて……」
彼らは動物園にある柵だけで覆われた広い飼育施設に来ていた。まるで牧場を想像させるようなそこは、大きな飛べない鳥がゆうゆうと草を食んでいる。
「先輩、あれってダチョウですか?」
「いや、あれはエミューだ。よし、乗るか、ハト」
「ど、どこに乗るんですかー」
「まあ見ていろ」
カラスは自信満々にくああと鳴くと、ノンビリとあくびをしているエミューの元へと飛んでいく。
彼はそのままエミューの背中に乗ると、嘴を上に向けてくええと一声鳴いた。
エミューの背に乗り、その場で足踏みを行ったカラスは「よし」と呟くとエミューの首根っこを軽くつつく。
すると、刺激に驚いたエミューは大きく体を揺らす。
「くああ!」
カラスは勇壮な叫び声をあげて、再びエミューの首根っこをつつく。
対するエミューは、うっとおしいカラスを振りほどこうと走り始めたのだった。
しばらく走るエミューに乗って騎乗を楽しんだカラスはハトのところへ帰ってくる。
「す、すごいっす! 先輩!」
「ハトもやってみるか?」
「はい!」
ハトはウキウキとしながらカラスがやったのと同じようにエミューの首根っこを突くが、エミューは涼しい顔のままで何ら反応を返さなかった。
「ダ、ダメっす。先輩」
「嘴の力が弱いんだよ」
「そ、そんなことを言われても……ボクは先輩のようにゴミ袋を破けるような力はありませんし……あ、そうだ!」
ピコーンと頭の上に電球が浮かんだハトは、「待っててください」と言い残し飛び立っていく。
これにものすごーく嫌な予感がするカラス。
――戻ってきました。
戻ったハトはよろめきながらも口に大きな何かを抱えていた。
「ハト! それはダメだ! 戻してこい」
「え?」
カラスの呼びかけに応じたハトは口を開いてしまった。
開くと当然、持っていたそれは落ちるわけで……そのままカラスの真上にそれは落ちてくる。
「くええええ! あ、あぶねえ。もう少しで頭にさっくり刺さっていたぜ……」
カラスの足元には彼がかつて持ってきたナイフが突き刺さっていたのだった。