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8.餌付け

 いつもの駅舎の屋根でカラスがぐあぐあしていると、ハトがくあくあしてやってきた。


「先輩、どうしたんすか? うかない顔して」

「あー、トンビの奴がな……」


 トンビはあれ以来嫌がらせかどうか分からないが、カラスの元へ甲斐甲斐しく缶詰を持ってきては嫌らしい笑い声をあげて去っていったという。

 しかし、ハトは何故、カラス先輩がアンニュイな雰囲気になっているのか理解できなかった。だって、先輩は缶詰を開けることができるんだもの。

 

「缶詰嫌いなんすか?」


 ハトは不思議そうに首を傾けてくるっぽする。

 

「いや、缶詰は好きなんだが……。まあ見ていてくれよ」


 カラスは飛び立つと、缶詰を足で掴み戻ってきた。

 続いてハトとカラスは人の多い駅舎を避け、少し離れた路地にある屋根の上まで移動する。

 

「せ、先輩、あの塀の上……」


 ハトは塀の上を嘴で指し、ブルリと体を震わせた。

 コンクリートブロックの塀の上には目だけでハトを射殺せそうな奴がいて、こちらを睨んでいるではないか。

 

「そうなんだ、缶詰は奴に狙われているんだ。どこへ行っても嗅ぎつけてきやがる」

「な、なるほど……。それで缶詰はどうするんですか?」

「奴の前で缶詰の蓋を開けるまで……奴は離れない……」

「……」


 カラスは嫌そうな顔で缶詰を足で掴んで飛び立つと、アスファルトの上にそれを落とす。

 彼の動きを見守っていた奴は、缶詰が落ちると一目散に駆けて行った。

 

「……恐ろしいっす……」

「だろ……」

「しっかし、おいしそうに食べますね」

「そうだな……むしゃむしゃと」

「そういや、先輩。バナナ食べに行かないんですか?」

「そうするか……いや、いいレストランを見つけたんだよ。そこに行ってみるか?」

「いいっすねえ!」


 屋根の上で会話に夢中になる二羽。

 それがいけなかった。

 

――にゃーん。


 嫌な声が耳に入り、同時に振り向く二羽……そこには、奴が立っているじゃあないか!

 

「くああああああ」

「くええええええ」

「にゃーん」


 慌てて飛び立とうとする二羽だったが、余りの驚きに加え恐怖心も手伝ってお互いにもつれ合い飛び立つことができない。

 

「おい」


 奴が目を文字通り光らせながら、獰猛な顔でカラスを呼び止める。

 

「……く、くあ」

「カラスよ、報酬は受け取った。オーダーを寄越せ」

「オ、オーダー……?」

「どいつだ? このハトか?」


 何だか突然ぶっそうな話になり困惑するカラスをよそに、奴は前脚でハトを威嚇する。

 

「か、考えておくからああ! ハ、ハト、行くぞ!」

「は、はい!」


 二羽はオーダーを待つ奴へ振り返ることなく飛び去って行ったのだった。

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