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32.くあいこちゃん

 都内某所のいつもの駅舎の上。カラスは人間から奪い取った? バナナをぐあぐあと鳴きながら自慢気に突いていた。

 そこへ、いつものハトがヒラリと舞い降りる。

 

「先輩! バナナっすか!」

「おう、丸ごと一個だぜ」

「皮は食べないとかグルメっすね、先輩」

「ふふ、これは強奪……じゃなかった、俺のお宝と交換したんだよ」

「そうなんすかー! 奮発しましたね、先輩!」

「だろうだろう。ハトも食うか?」

「いえ、もうさっきスナック菓子の残骸をこれでもかと食べてきましたんで」

「くああ!」

「くええ!」


 しばらく無言でバナナを突くカラス。それを見守るハト。

 カラスが半ばほどまで食べ終わったところで、ハトがふと何かを思い出したように頭に電球が浮かぶ。

 

「そういえば、先輩」

「ん?」

「この前、先輩と一緒に見に行ったくぁいこちゃん覚えてます?」

「あ、あ、うん……」


 まずい、そのネタはまずい。俺からは何も言えねえ。そんなセンシティブな問題を今持ち出すんじゃねえよ。と内心焦るカラスであったが、ハトは首を傾けいつもの様子だ。

 口ごもるカラスへハトはいつもの知性の欠片を感じさせない顔つきのまま嘴をパカンと開く。

 

「先輩、僕は凄いことに気が付いたんですよ!」


 突然目を輝かせるものだから、カラスの戸惑いはますかす加速する。

 

「あ、うん、どうしたんだ?」

「あのくぁいこちゃん、ハトじゃあなかったんですよ!」

「そ、そうか……それは……」


 残念だったなと続きを述べる前にハトがくあくあと言葉を被せてきた。

 

「あのくぁいこちゃんはですね、今はやりのアンドロイドみたいなんですよ!」


 い、いや、あれはただのぬいぐるみだって……。言うに言えないカラスに向けてハトは更にヒートアップしていく。


「ハトそっくりに動くんですよ! あのくぁいこちゃんは。だってアンドロイドってやつなんですもん!」

「う、動くのか?」

「そうっすよ! 見に行きますか?」

「あ、いや」


 しかし、押し切られてしまった。カラスはウキウキするハトの後ろを微妙な顔でついていく。

 

 ◆◆◆

 

「そんなわけでやってまいりました。都内某所の洋館です」

「だから、誰に……って久しぶりだなおい」


 カラスが突っ込む目の前には件の窓の張り出しがございます。

 そこにちょこんと座して動かぬ例のハトのぬいぐるみ。

 

 カラスが見たところ、そいつは微塵たりとも動いてはいないが……。

 

「先輩、こっちへ。しばらくここで待ちましょう」

「お、おう」


 窓から隠れるように壁際でくあくあする二羽。

 

――しばらくお待ちください。


「いいっすよ、先輩」

「お、おう」


 改めて窓の中を見てみると、人間の子供がハトのぬいぐるみを手に持ちお尻の辺りをまさぐっている。

 あ、あれ……ゼンマイじゃねえか。カラスはすぐにハトのぬいぐるみが動く理由を知ってしまった。

 

「も、もういいや、ハト……」

「そうっすかー。じゃあ、帰りますか」

「おう、帰りは何かうまいもん食べに行くか、ハト」

「おー! どこかいいところあるんですか?」

「そうだな、コンビニにでも逝くか」

「はい!」


 二羽はくああと一声鳴いて、空へと飛び立つのだった。

 

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