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2.ベランダ

――高層マンション

「どうもー、ハトです。いまベランダに来ておりますー」


 カラスとハトはとある都内高層マンションのベランダに侵入していた。

 このベランダ、「ハトネット」なるものを取り付けていたから、カラスの目にとまったのだ。

 

「こんなもんで、俺たちが来なくなるなんて思ったら大間違いだ」

「全くっす、先輩! むしろ先輩のような輩を呼び込みますよね!」

「褒めんなって」

「褒めてないっす!」

「くああ!」


 二羽はひとしきり「くあくあ」と鳴いたところで、ベランダの散策を始める。

 天気がいい昼下がり、ベランダには布団と洗濯ものが干してあった。一方、部屋へと続く窓は締まっている。

 布団が干してあることから、部屋主はいずれこの窓を開くことだろう。

 

「ハト、奴がいないか慎重に探すぞ」

「はい! 先輩! 見たところこのベランダにはいません」

「バカ野郎! 隣のベランダとつなぐ壁、そして手すりは注意しろ」

「飛んで外からみまっす」

「そ、そうだな……」


 ハトがふわりと舞い上がると、カラスは誤魔化すように嘴をパカパカと開けて閉じた。

 ハトが様子を伺っている間にカラスは目ぼしい物はないか首をぐるりと回してベランダを一瞥(いちべつ)する。

 

 食べ物は……無。ふん、役に立たんなここは。カラスが心の中でそうくええした時だった。

 彼の目に映るは細い青色でできたよく見るハンガー。そう、衣類を干す時に使うハンバーなのである。

 しかもただのハンガーではない。右下の辺りが切れているではないか。「使える」カラスはそうくああした。

 

「先輩、二つ隣に奴がいます!」

「何だと! どのタイプだ?」

「まずいことに、毛が短いタイプです。動きは活発」

「ううむ。二つ隣か……」


 どうしたものか……カラスは囀りながら少しだけ考える。

 いや、考える必要なんて無いじゃないか。

 

「ハト、ここには食べ物が無かった」

「そっすか! じゃあ、帰りましょう」

「いや、あのハンガーだけもらっていく」

「何するんすか? あれ?」

「俺の巣の土台にするんだよ」

「へええ」


 ハトは興味なさそうに頷きを返した。カラスの家はハンガーで作られたおしゃれな巣なのだ。

 壊れたハンガーはカラスの力でも加工しやすく重宝する。せっかくここまで来て何も持って帰らないのは癪だから持って帰ろうとカラスはくええしたのだった。

 もっとも、ハンガー自体は「燃えないゴミの日」に大量に手に入る物だからそれほど価値はない。だがしかし、価値とかそんなものは関係ないのだ。

 ここにきて、戦利品を得た。それが大事なこと。

 

 しかし、その時。

 不意に窓が開く。

 

「人間だ! 人間が来たぞ。ハト!」

「大丈夫っすよー」


 呑気にハトは答えるが、人間の中にも危険な奴らはいるのだ。

 カラスは逡巡し、人間の様子を観察する。

 歳の頃は六歳程度。手には……。

 

「ハト! すぐに逃げよう!」

「な、なんなんすかー!」


 カラスは急いでハンガーをかっさらい、空へと舞う。

 対するハトはゆっくりとくるっぽおおと鳴きながらよちよち歩いていた。

 

「ハト! 早く!」

「こんな小さな人間に何を怖がってるんですかー。先輩ー」


 ハトが、はははーと笑いかけた時だ。

 

「痛! 痛いっす! 先輩!」


 ハトは急ぎ空へと逃げ出す。

 

「人間の子供はやべえんだ。あいつ、手に……」

「な、なるほど。先輩勉強になりまっす!」


 人間の子供が持っていたものとは、エアガン。さっきはあれでハトが撃たれたのだ。

 今日、また一つ賢くなったハトなのであった。

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