ーー姫様誘拐ーーその④
ここまでのあらすじ。
盗賊団No.2ジェイクを前にしてウィリアム氏は怒りを露わにして魔法を撃った。
しかし、魔法を吸収する武器の所為で魔力を吸収され吹き飛ばされたウィリアム氏を助けた太一は、ジェイクの動きを術で止めて、見事にウィリアム氏に仇討ちを完遂させた。
「遂にこの扉の先に頭がいるのか…」
俺は扉の前でそう呟き、少し恐怖した。何しろ死体愛好家なんて異常者なんて見たこと無かったからだ、考えてる事が分からない奴ほど怖い物はない。そう思い、万全の体制で戦える様に扉の前で気を煉っていると、後ろから。
「私は、あのような残虐なことをする奴を生かして置けない。今すぐでも灰に変えてやる」
ウィリアム氏が頭領許すまじと怒りを露わにしていた。
気を煉るのも終わり、いよいよ部屋に入ろうかとしていると、後ろからウィリアム氏が俺に対して顔を向けて。
「私が先に入る、君は後から入るが良い」
凄まじい形相でそう言いながら、扉をぶち破り部屋に入っていった。
ーーその瞬間、異変が起きた。
まず起きたのは、ウィリアム氏だった。
「あッ…がッ…ぐゥゥ…」
全身を槍の様な物で貫かれている傷が出来ていた。普通はありえない、魔力で身体強化をしている時点で此処までの傷は出来ないはずだ!
そう考えると、その傷の正体がすぐに分かった。
この部屋には強力な風が吹いている、それで槍の様に貫いたんだと確信した。しかしまだ謎は残る、どうやってして、身体強化を引っ剥がしたのか?
その答えは相手が言ってきた。
「マヌケが!この部屋には魔法封じの水晶を至る所に配置してあるのだよ。
さぁ貴様も、貫いて剥製にしてやろう《フウァールウインドランス》!」
風によって巨大な槍と見紛うほど大きさの竜巻に指向性を持たせて、こちらに撃ち込んできた。
「くっ…」
血を流しているウィリアム氏を構えて横に大きく飛び出したが、少し食らってしまい、脇腹を持っていかれてしまった。それを見て頭領は。
「はっ!ブザマだねぇ、俺が殺してきた女もそうやってして徐々に追い込んで殺したもんだ。あの姿は堪らなかったぜぇ、あの助けてくださいって顔はァァ!」
そう言って次々撃ち込んできた。幸い内丹術には魔法封じは効かない事を悟らせない様にする為にどうしょうかと考えてる時に、奥で牢に入れられている王女様と目があってしまった。
「頼むから、私の為に傷つかないで下さい」
そう訴えてる眼を見てしまった時に、自分の内のナニカが燃え上がった。
「男なら!悪漢に捕まえられてる姫を助けるのが本望よ!!」
そう叫んだ俺は、策も何もかも、投げ出してしまい。ウィリアム氏を瞬時に治して、地面に置き頭領に向かって走り出した。
ーー距離にして、約15メートル。俺は気を煉りながら駆け抜けた、頭領は驚愕して、こちらに五発の槍を差し向けてきた。
「撥ッ!」
俺は持っていた柳葉刀に気を込めて、風を打ち払った。しかし、刀が耐えきれずに折れてしまった。
それを見て、頭領は。
「ハッ!どうなるかと思ったが、獲物が折れちゃあ俺を殺す事は出来ねえなあ!ザマァないぜ!!」
頭領は叫びながら、嘲笑っていた。だが、奴は気づいていなかった、俺にはまだ切り札が残されている事を。
「なにィ!」
俺は地面に折れた剣を突き刺し、それを踏み台にして飛び上がった。
奴は、驚きのあまり数秒固まっていたが、直ぐに立ち直りこちらに槍をありったけ撃ち込んできた。しかし、それは消滅してしまった。
「食らえ!陰陽煉気化神法ォ!!」
そうして奴の顔面に拳がめり込んだ。
ーー気と言う物は、太極と同義である。太極には隠と陽二つの力があり、互いに打ち消し合っている。
仮にその力を同時に使い、物質に当てた場合どうなるのか?その解は、物質の不可逆の消滅にある。
「はぁ…はぁ…ふぅ…」
俺は、頭領の顔面を殴り飛ばした後に
着地点で肩で息をしていた。
あの一撃を食らって無事ならもうおしまいだ。そう覚悟していたが、それは杞憂に終わった様だった。
「うぎゃぁァァァァァァッ!!」
頭領は頭を抱えて叫んでいた、何しろこの術は食らえば例えどんな物であろうとも一切合切消滅する、禁忌に等しい術だ。
俺は頭領の所に行き、ある事を訪ねた。
「何でアンタは女を殺した?良い女を殺す意味は無いだろう?」
そう尋ねると男は笑いながら言った。
「女って物はナァ、死ぬ直前に最高の美を醸し出すんだよォ!俺が初めて殺した女はまるで水晶みたいな美しさだったよ!!その美しさを永遠に残す為に殺すんだ!!!!素晴らしいだろう!!」
そう言いながら、男は残っている右目で俺を凝視してきた。
「俺には、生憎そんな趣味な無いね。特にアンタみたいな異常者なんかはな」
俺は胸糞が悪くなったので、そう吐き捨てて、目線を外した。それよりも重要な事があるからだ。
「姫様、助けに上がりました」
俺は錠を引きちぎり、姫様を解放した。その瞬間、姫様が抱き着いてきた。
「何で…何で…ここまでなってまで助けてくれたの!見ている私も辛くなります」
泣きそうな表情で王女は言ってきた、それに対して俺は。
「貴方を一目見た時から、命を掛けてでも助けたいと思ったからです」
自分でもクサイな思う事を言ってしまった、恥ずかしいと思ったが。姫様は心底感動したらしく。
「貴方はとても素晴らしい殿方ですね」
最大限の賛辞を俺に与えた途端に気を失ってしまった。どうやら、緊張で張り詰めていたらしい。
俺は姫様を抱えて、気を失っていたウィリアム氏を起こして、帰路に着いた。
これにて、任務完了!






