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七話

「そういえば、今回の課題ってなに? 実はディーン先生の話をちゃんと聞いてなくて……」


 僕はトニーに聞く。どんどん学院から離れているが、結局どこを目指しているのか全然わからなかった。


「ああ、今回はアールス山にいる魔物の討伐だよ。学院からちょっと遠いね」

「アールス山、か」


 アールス山は学院から北に離れた場所にある大きな山で、麓には美味しい実を付ける木、そしてそれより上には外敵から身を守るには打って付けの天然の凹凸が多いためか、鳥類が好んで生息していた。


「あの山かよぉ~。行くのも帰るのもめんどくせぇやつじゃん」

「ははは、まぁ、仕方ないよ。授業なんだし。あ、忘れてた。一応僕たちの戦い方? 戦闘スタイルを教えておかないと」


 そう言うと、トニーはロッテに手を向ける。


「ロッテは遠距離担当で、魔術メインだ」

「魔術メイン!? すごいね、もう自由に使えるんだ」

「いえ、あの……学院に入る前から……お父さんに教えてもらっていたので……」


 もじもじさせながら小さな声で喋るロッテ。やはり見た目どおり、大人しい性格のようだ。


「で、ジュダは近距離と遠距離を担当してもらってる」

「ああ、斧は万能だからな!」


 突然自慢気に喋るジュダ。

 察するに、斧にいろいろと執着があるのだろう。あまりそのことで刺激をしないほうがいいなと、僕とケットは頷き合う。


「最後に、僕。まぁ見ればわかると思うけど近距離だ。君たちもそうだろ?」

「うん」

「おう」


 ケットは槍で、僕は剣。これから戦うであろう魔物はおそらく鳥であることを考えれば、少し不利かもなと僕は思った。


「アンジェがいてくれれば……」


 彼女の弓の上手さを僕はよく知っている。もしこの場にいれば、戦闘がとてもやりやすかったはずだ。


「アンジェさんって確か治療中なんだよね?」

「うん……。あ、でも、そこまで深刻じゃないから大丈夫だよ。すぐに授業にも出れるらしいし」

「それはよかった。早く元気になればいいね」


 僕は無言で頷いた。

 早く治ってほしい、そしてまた一緒に……。

 胸に手を当てて彼女を想う。

 その時、僕の心臓が少し速くなるのを自覚した。


 そのあとの道中は魔物も出現することなく、平和そのものだった。強いて言えば、ケットが嘆いたとおり山道が険しく、何度か休憩を取っていることだろうか。


「はぁ……はぁ……すみません、みな……さん…………」


 学院や山まで歩いてきた道のりはすでに下に見える。山頂と比べると劣ってしまうかもしれないが、ここから眺める景色もまた美しいものだった。そんな中腹で、僕たちは再度休憩を取った。


「ごめんね。ロッテはあまり体力がなくて」


 近くにあった大きな岩に座るロッテ。息は絶え絶えで、今にも死んでしまうのではないかと不安になってしまうくらい、彼女の顔はあまりにも真っ青だった。


「いやいや、別に気にしてないよ」

「そうだぜ。俺もちょうど休みたかったしよ」

「ありがとう、ございま……す…………」

「はい、これ水」


 トニーは懐から水筒を出すとロッテに渡す。それをロッテは軽い会釈をして受け取ると、ちびちびと飲み始めた。その姿から目を離した僕は、何気なくジュダを見る。


「う~ん、素晴らしい……!」


 斧の刃に光を当ててウットリと眺めているジュダ。仲間のことを見向きもしないその態度に、僕は少しイラッとした。

 ガツンと何かを言ってやろう。

 そう思い一歩前に進もうとすると背後から肩を掴まれる。振り返ってみると、犯人はケットだった。


「おい、ガルム。やめとけ」

「なんで? だって彼は」


 小声で話しかけてくるケットに、僕もまた同じ声量で喋る。

 仲間は大事にしないといけない。それは…………当たり前のことなんだよ?


「他の班の事情に首を突っ込むもんじゃねぇ」

「いや、でも……」

「それによ、もうここは魔物の生息地だ。いつ襲われてもおかしくねぇ。ロッテちゃんもあんなだし、下手に争ってその間に襲われでもしたら――――」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ジュダの大声に僕たちは反応する。すると何故か両膝を地面に付き、天を見上げながら左右の手を掲げている彼を発見した。


「なにやってんだ、あれ?」


 まるで尊きモノが降臨するのを崇めているような姿。だが、顔つきは感動とは程遠いもので、世界の終末を嘆くような絶望的な表情だった。


「上! 魔物だ!」


 トニーの声を聞き、僕たちは一斉に頭上を見る。

 大きな翼を羽ばたかせて空に浮かび、獰猛な目で僕たちを威嚇する灰色の鳥。それが七羽、僕たちを包囲するように飛んでいた。


「死鳥だ! みんな気をつけろ!」

「俺の斧がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 死鳥。これも子鬼と同じタイプの魔物で、名前の由来は生き物を観察し、無防備になると襲いかかる習性があることからその名が付けられた。

 ジュダは泣き叫びながらある一羽の死鳥を見る。その鳥は足で軽々と斧の柄を掴んでおり、ばかにするようにジュダの得物を左右に振っていた。


「ジュダ! 大丈夫か!」

「ああ! ああああ!」


 トニーの言葉にジュダは反応しない。見る限りでは特に外傷が見当たらないことから、死鳥の不意打ちには反応できたようだ。その結果、彼は自分の大事な物を奪われてしまったようだが。

 そんな彼の隙だらけの様子に、死鳥たちは動き出す。三羽の鳥たちは翼を仕舞い急降下を始め、その目標は、もちろんジュダだった。

 僕とケットはそれに反応する。ケットは槍を、僕もまた剣を抜いてジュダの元に走った。


「こんの、バカ野郎!」

「ああ……」


 ケットは到着するとジュダを蹴飛ばし、槍を構える。標的が移動したことで死鳥たちはケットを新たなターゲットにし、そのままの速さで近づくと、翼を突如広げてその鋭利な足爪をケットに突き出した。

 その瞬間、金属が鳴り響くような甲高い音が発生する。ケットが得物である槍で、その爪を受け止めたからだ。だが、敵の攻撃はまだ二つ残されている。


「ケット!」


 僕はナイフを一羽に投擲しながら、ケットに危害を加えようとするもう一羽の死鳥に剣を振る。だが、それはどちらも躱され、嘲笑うように三羽は僕たちの手の届かない空に再度舞い上がった。


「ちっ、めんどくせぇ」


 ケットは憎々しげに顔を歪める。そして、まだ放心しているジュダの襟首を掴んだ。


「とりあえず、この役立たずをどうにかしねぇと」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 トニーの悲痛な声に僕らはそちらを見る。するとそこには、両肩を血で染め上げたトニーが、ロッテを後ろに隠しながら三羽の死鳥と奮闘していた。


「くそっ! あっちが本命かよ!」

「僕が行く! ケットはジュダを!」


 僕は駆けた。

 負傷しながらも懸命に剣を振るうトニーを見て、守ろうとして守れなかったもしもの自分を考える。

 青い顔をしながらも悔しそうに顔を歪ませるロッテを見て、仲間を助けることができなかったあとの自分を想像する。

 辛い、辛い、辛い、辛い、辛い、辛い。

 心が裂け、その中から個がドクドクと抜け落ちていく。

 あの二人は僕だ。もしあの二人を助けることができなければ、ボクは僕でいられなくなる。


「倒さないと……敵を」


 二人の遥か頭上にジュダの斧を掴んだ死鳥がいる。周りにいる他の死鳥たちに気が散り、それに気づいていないようだ。

 斧は無情にも落とされる。重力に従って回転しながら落下していく斧、それはまるでギロチンのようで。今から声をかけても回避は最早手遅れだった。

 ドクン、と身体の奥で突然何かが脈動するのを感じる。


「守る守る守る守るまもる!」


 それは熱くドロドロした感覚を各部に伝え、脳に達した時、世界はまた赤みを帯び始める。

 僕は地面蹴って飛ぶ。トニーの頭をカチ割ろうとする斧に狙いを定めた。

 ……その時、ふと、一つのイメージが流れ込んでくる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 僕はそれに従い刀身にそのイメージと魔力を注ぎ込む。僕の手から発生した黒い紋様は、虫が壁を這うように剣へと移動する。

 刀身は先端から黒く塗り潰され、そして僕が刃を振る頃には全てを染め上げていた。

 紙を切ったような感覚で、斧は二つに割れる。

 二人の頭上を通り過ぎた僕は、ロッテが座っていた大きな岩に着地をし、その勢いをバネにバク転をする。

 天と地は逆に、視界に映った死鳥たちも全て逆さま。自分が原因だというのに、その敵の姿を滑稽だと思った。


「クァッ!?」


 一羽の死鳥が僕を見て声を上げる。だが、もう遅い。身体を捻り力の限り横に振った僕の剣は、ソイツを、隣で飛んでいた鳥も、その隣の敵すら殺した。

 敵の死体とともに僕は地面に降り立つ。そして、羽虫のように飛んでいる敵の仲間を見た。


「ク……クァァァァァァァァァァッ!」


 仲間の死を理解したのか、残りの死鳥たちは一斉に僕に襲いかかる。

 血走った目で僕に憎悪を飛ばす敵、だが小賢しくも突撃などという捨て身ではなく、四方八方から攻撃をしようとする。

 その行動、その感情……全てが、浅はかだ。


「あははははは!」


 僕は君たち以上に『憎んでいる』というのに。

 敵の幼稚な考えに、僕は真っ向から受けて立つ。彼らの武器を造作もなく斬り落とし、その命を刈り取る。単純作業だった。

 あとに残ったのは赤い大地に広がる黒い血だまり、そして死体。

 湧き上がる感情は対象を失ったことで徐々に弱まり、世界はまた元の輝きを取り戻した。


「ガ……ガルム?」


 ケットの呼びかけに僕は答える。


「ん、なに?」

「あ、いや……なんでもねぇ。とりあえず、すげぇな。全部やっちまった」


 ケットは地面に落ちた死鳥をキョロキョロと見る。

 倒した魔物は合計で七体、これならディーン先生も文句は言えないだろう。まぁ、それよりも。


「ところで……彼、なんで気絶してるの?」


 僕はケットが未だ襟首を掴んでいるジュダを指差した。凄まじい形相のまま気を失っており、若干泡も吹いていた。


「ああ、アレだ……お前があの斧を壊しただろ? それでだよ。斧が落ちた時は大変だったぜ……。いきなり暴れ始めたからよ」

「ははは……弁償したほうがいいかな?」


 ケットが手を離すと、ジュダはそのまま身体を地面に打ちつける。


「気にすんな。コイツが全面的に悪いから。それよりも、トニーの怪我のほうだ」

「あっ」


 僕たちは急いでトニーとロッテのところに駆け寄る。二人は死鳥たちの血を浴びたのか、全身が真っ赤になっていた。


「二人とも大丈夫!?」

「は、はい!」


 トニーは何故か目を輝かせながら返事をし、ロッテは無言でコクコクと何度も大袈裟に頷いた。


「……本当に、大丈夫?」


 様子がどこかおかしいような……。


「い、いえ! そんなことはないです! あ、僕、魔物を回収して来ますね!」

「私も……っ!」


 そう言うとサッと行動に移す二人。僕はその姿にますます違和感を覚えた。


「トニーくんは怪我をしているし、ロッテさんもまだ辛いだろうから僕が」

「お気遣いありがとうございます! でも、僕は本当に大丈夫なんで! あと、トニーでいいですよ、ガルムさん!」

「私も……ロッテでいい……ガルム、さん」

「いや、でも……」

「まぁ、本人が言うんだからいいんじゃねぇか?」


 ケットの言葉で僕はそれ以上追及するのを止め、手に持つ剣を見た。

 刀身は魔物の血で汚れているが、その色は普段のモノと同じだった。

 アレは、なんだったんだろう?

 戦闘の間、しっかりと頭に刻まれたあのイメージは、今では全く思い出せないでいた。

 それに、あの紋様は……。

 黒に染まる前、それをおこなった紋様に覚えがある。それはあの幻覚……黒いローブ姿の人間が僕に使った魔術、その魔術陣の色とそれに含まれる紋様に似ていた。

 やはりアレは……幻じゃなかった……?


「一度、調べる必要があるかも」

「ん、ガルム。何か言ったか?」

「いや、何も」


 つい口に出てしまったようだ。僕はケットにそう告げると、これからのことを考えるのだった。

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