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六話

 それは風だった。

 そよ風のように頬を優しく撫でるようなものではなく、触れるモノ全てを傷つけるような旋風。実際、その斬撃は自分たちに襲いかかった魔物を次々と斬り伏せていた。

 日の光によって鈍く輝く黒い剣。その刃を伝う魔物の血は彼の敏捷な手さばきによって空に飛び、流れるような身のこなしと相まって、まるでその姿は幻想的に舞う踊り子のようで、一種の美しさを醸し出していた。


「す、すごい……」


 その光景を見て、自分の胸の鼓動が早くなるのを感じる。湧き上がる感情は、憧れ、だった。



「えー、今日の授業は先日の騒動もあり班合同で実習をおこなう。私が呼んだ班は――――」


 学院にある整地された運動場、そこに僕とケットはディーン先生の授業を受けるために集合していた。


「おい、なぁ? やっぱ視線感じね?」


 ケットは周りをキョロキョロ見ながら僕に耳打ちをする。確かに、あの一件からやけにこちらを見る人が増えたような気がする。

 自分たちがあの事件にかかわっていることがここまで早く広まっているとは、そこは村も学院も同じなんだなと僕は思った。

 …………帰ったらアグルカ先輩になにか言われそうだ。

 心配をかけたくないと、部屋に戻った時に嘘を織り交ぜて説明したことを今更ながら後悔した。


「気にしないでおこう。そのうち収まるよ」


 なんにせよ、アンジェが戻ってくるまでにこの話題が落ち着けばいいけど……。

 僕はそのことだけを心配する。この視線はあまりいいものではないから。特に、彼女には。


「んでもよぉ~……まぁ、あのキザ野郎よりかはマシか。てか、アイツどこいんの? いつもなら突撃して来るだろ」

「たしかに」


 次の日からもう授業に出席していた僕だが、今現在になってもアレクサンドロスは一向に姿を現さなかった。1学年は授業の選択が少ないため、基本一日一回は他の同学年の生徒と会う。そうじゃなくても、彼はこの騒動を聞けば即座に行動を起こすだろう。だが不思議なことに、彼はどうやらアンジェの前にも現れておらず、そのうえ僕たちを避けるように身を隠していた。


「まぁ、でも……いないほうがいいし」

「ははっ、そだな」

「――――アンジェ班!」


 突然の怒声に驚き、僕たちはすぐさまそちらを見る。すると、見せつけるように鍛え上げられた腕を組んでいるディーン先生が、眉をひそめてジッと僕らを凝視していた。


「トニー班とだ。早く行け!」

「「は、はい!(うぃっす!)」」


 先生が首を傾かせ、そして指を差す方向、そこには少年二人と少女一人がいた。僕たちは慌てて彼らに駆け寄った。


「えーっと、よろしく」

「こちらこそよろしく。僕はトニーって言うんだ。君はガルムくんだろ? で、君はケットくん」

「え、ああ、うん」

「なんで知ってんだよ」


 ケットは訝しそうにトニーを見る。そんなケットに、トニーは両手を前でバタバタさせて笑う。


「ははは、そりゃ知ってるよ。だって今、君たち凄い有名人だよ? とても強い魔物を倒したって。まぁそれ以前に、君たちはちょくちょく騒ぎを起こしているからね。名前だけなら同学年みんな、その前から知ってるんじゃないかな?」

「え、まじ? 前から?」


 僕は心底驚いているケットを見て、やれやれと自分の髪を弄る。


「……ケット限定で言えば、あれだけパメラメル先生に浮かべられているのに、みんなが知らないっていうのは流石に無いと思うよ?」

「クソがよぉ~~! あのババァのせいか!」

「いや、自業自得だから……」


 パメラメル先生に怒りを燃やすケット。だが、それもすぐに鎮火したのか、ケットはいつもの状態に戻った。


「あー、とりあえず、そのことはよくわかったぜ。でも、なーんかその話で引っかかるんだよなぁ…………あ、アレだわ! 魔物! あれは俺たちが倒したっていうより――フゴゴッ!」


 その先を言わせないと、僕は慌ててケットの口を手で押さえる。彼の話からすると、魔物を倒したのは『僕たち』となっているようだ。なら、それを訂正しないほうがいいだろう。本当のことが知れたら余計に騒ぎが大きくなる。それは確実に、僕にメリットがない。


「?」

「ああ、気にしないで。僕たち同じ村の出身だからさ、仲がとても良いんだ。えーっと、あとの二人もよろしく!」

「ロッテです。よろしくお願いします」

「ジュダだ。よろしく頼む」


 眼鏡をかけた大人しそうな女の子がロッテ、体格が良く腰に斧をぶら下げているのがジュダ、そして僕と同じく剣を使うのがトニー。

 名前と姿を一致させた僕は、ケットの口から手を離しながらチラッとディーン先生を見た。


「おい、ガルム!」

「……そろそろ行こう。先生も僕らをジッと見てる」


 トニーも僕と同じようにディーン先生を見ると、とても嫌そうな顔をした。どうやら彼もまた、小刻みに筋肉を動かしながら僕らに視線を送る先生を目撃してしまったようだ。


「あー……そうみたいだね。じゃあ出発しよう」

「無視してんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」


 ケットのことを相手にせず、僕とトニーたちは出発した。それに遅れてケットも後を追う。

 とりあえず、あとでケットには事情を説明しておこう。

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