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幕間(2)

 荒廃した大地、生命の息吹を感じさせる草原、恵みを与える大きな川、未知が残された森、景色は目まぐるしく変化を遂げる。彼らは馬では到底出すことができない異常な速さで移動をし続け、普通ならば日が昇り、落ちるのを数度繰り返さなければならない距離を僅かな時間で済ませる。そして早朝、ついに彼らは目的地を視界に入れた。


「ん?」


 数秒もすれば到着するという時、彼らの内の一人がある場所に意識を向ける。そこは森の中に存在する花畑であるが、何者かの手によって酷く荒らされていた。

 一つのグループに属しているのか、皆、白を基調としたローブを着ており、その上から金属製の防具を装着している。その集団の先頭に立っているリーダーらしき赤髪の男は、仲間のその些細な動きに反応した。


「どうした? ……っておい!?」


 男の言葉を無視し、その人物――銀髪の女は花畑に降り立った。女はキョロキョロと周辺を見ていたが足取りに迷いはなく、一直線でその場所に来るとピタリと立ち止まり、すぐに屈み込んだ。


「……へぇ~」

「レトリナ!」


 口端を上げ楽しそうにソレを見る女、レトリナと呼ばれた彼女は他の仲間が花畑に降り立つとソレを急いで掴み、誰にもバレないようにこっそりとポケットの中に入れる。そして、貼り付けたような笑みを浮かべ振り返った。


「一体何を」

「隊長、これを見てください♪」


 レトリナが指差す先を隊長と呼ばれた赤髪の男は眉を顰めながら見ようとするが、今の場所からでは視認できないと即時に判断し、溜め息を吐いて歩き出す。


「レトリナ、事は重大なんだ。報告が真実なら目標は『成りかけ』、俺たちが早急に対処しなければいけない相手なんだぞ?」

「わかってますよぉ~、そんなことは」

「だったら!」

「だ・か・ら、ここに来たんですよぉ? ほら、早く見てくださいよ♪」

「……なに?」


 隊長は小走りになってレトリナの元に行くと、その場所を見た。黒い異様な跡を残した地面を。


「これは」

「どうやら、お目当ての成りかけ、もとい魔人は倒されちゃったみたいですねぇ。死体は無いようですが」

「まさか……一体誰が?」


 口を手で隠して隊長は思案する。魔人には数える程しか遭遇していないが、そのほとんどを殺さざる負えなかったからこそ分かる。この特徴的な跡が魔人のモノ、それも死んだ証拠だということを。

 そうなると、残念ながら成りかけた人間は魔人になってしまったようだ。だが、だからこそ、信じられなかった。その実力を、その強さを知っているからこそ、自分たち以外の者が倒したことに驚きを隠せずにいた。


「た、隊長!」

「……今度は何だ?」


 落ち着くこともできないまま、レトリナ以外の仲間の呼びかけに隊長は反応する。慌てて隊長に駆け寄る男の手には黒いローブがあった。

 何の変哲もないローブであるが、それを見た隊長は目を見開く。


「それは……っ!」

「はいっ、恐らくこれは」

「『死神』、ですかぁ? わぁお! そうなると、私たちだけで大丈夫です? 支部に連絡……しますか?」


 レトリナはワザとらしく驚くと、腰のベルトに付けたポーチから紙を取り出す。最初から知っていたようなその振る舞いに隊長はチッと舌打ちをした。


「やめろ、まだ確定ではない。とりあえず、今は当初の予定通り全員で学院に向かうぞ」

「えぇ~……。確定じゃないんなら、もう帰りましょうよぉ~。学院への報告なんて一人で十分ですし、なんなら私がパパッとやっちゃいますよ? 後で追いつきますし」

「嘘つけ、絶対そのまま遊びに行くつもりだろ」

「ペーターくんは黙ってて!」


 ローブを持ってきた男、ペーターに鋭く言葉を投げるレトリナ。それに対して口を開こうとするペーターを遮るように、ゴホンと隊長は咳払いをした。


「何にせよ、お前の提案は全て却下だ。本来の目的は俺たちが介入する間もなく解決してしまったようだが、それ以上の脅威に学院が晒される可能性が浮上してきたんだ。そんな状況で、このまま立ち去るわけにはいかん。……それに」


 隊長はペーターから黒いローブを受け取ると、それをまじまじと見た。


「死神に一矢を報いる人間が、この学院にいるかもしれんしな」


 切り裂かれたそのローブを。


「もぉ~、しょうがないですねぇ」


 渋々といった風にレトリナは紙を再度ポーチに戻しながら姿勢を正し、それからポケットの中にあるソレを優しく撫でる。気づかれないように小さく笑いながら。

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