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八話

「ガルムさん! 今日は僕に奢らせてください!」

「いや、悪いよ……。あと、僕もガルムって呼び捨てにしてもらっていいから」

「いえ、それはできません! だってガルムさんはガルムさんですから! じゃあ買ってきます! 行こう、ロッテ」


 コクコクと頷いてロッテはトニーと一緒に食べ物を買いに行ってしまう。僕は止めようと腕を伸ばしていたが、ゆっくりとそれを下ろした。


「いやぁ~、モテモテっすね」


 それを見たケットは顔をニヤつかせる。


「ちゃかさないでよ……」


 僕はげんなりとしながら言った。

 あのあと、僕らの制止を聞かずに気絶したジュダを率先してトニーが担いだ結果、案の定怪我が悪化することになってしまう。

 顔を歪ませて歩くトニーと彼の代わりにジュダを担ぐ僕、そしてロッテとトニーは魔物を血を全身で浴びていた。魔物を討伐するにあたって血が付くのは避けられないことだが、血塗れになるのは稀である。

 噂になっている僕らがこのような出で立ちで現れたらどう思うだろうか?

 答えは簡単だ。普通に大騒ぎになった。

 ただ今度は学院生活ではよくある出来事なので、すぐにそれが判明すると瞬く間に収束する。なので僕たちは人に囲まれることなく、医務室に行けたのであった。


『はい、君の治療は終わり! もう動かしても平気よ。あと、ジュダくんはおそらく精神的なモノだから、このまま医務室で寝かせておくわ。場所は……アンジェちゃんの隣でもいい? え、ダメ? じゃあ間を空けるわね。……さて、他に治療してほしい人はいない? ガルムくんとかガルムくんとかガルムくんとか』


 そういえば、医務室で治療をおこなっているナナティ先生は、あの一件以来どうやら僕の身体に興味を持ったのか、会う度に診察を持ちかけてきた。異常がないのに医者に診てもらうのは気持ち的に嫌だったので、いつも丁寧にその申し出を断って――――閑話休題。

 とりあえず、治療を終えたトニーたちと僕らは、服を着替えてから昼食を取りに現在食堂に来ていたのであった。良かったのか悪かったのか、部屋に戻った時、アグルカ先輩は珍しく部屋にはいなかった。


「すっかり気に入られたみたいだなぁ」

「そう……みたいだね」


 なんでこうなったのか僕にはわからないが、どうも死鳥討伐以降、このような感じになってしまっていた。

 僕は彼らを見る。注文をするために長蛇の列に並んでいる二人の姿を。


「今までって、班の人たちとの関係で完結していたところがあったと思うんだ」

「そだな。別に合同ってのも無かったし」

「うん、でも……」


 トニーがロッテと仲良く何かを喋り、ケラケラと笑っている。


「これも悪くないね」

「だな」


 友だち、にしては固い間柄かもしれないけど、この関係を大事にしていこう。僕はそう思った。


「ガルムさん! お待たせしました!」

「ごめん、本当にありがとう」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ!」

「……ん? 俺の分は?」

「え」



 学院は大きい。そのため、昔は使用されていたが今となっては誰も足を踏み入れない部屋が無数に存在していた。その中の一室、物が乱雑に置かれた埃の臭いが充満する部屋に、私はいた。

 本来なら私のような高貴な存在がここにいるのは場違いであり、それを突き詰めればこのような学院にいること自体間違いであるのだが……まぁいい。


「貴公、もう一度聞く。その話は本当なんだな?」


 私はある目的のためにここにいた。薄暗い部屋の中で佇む人物に会うために。


「ああ、真実だ」


 つい先日起こった事件、それにアンジェ嬢がかかわっていることは当然知っていた。そして、それが原因で怪我を負ってしまったことを。

 私は時間が凍り付いてしまうくらいの悲しみと、あの下賤な二人に対して腸が煮えくり返る思いを抱いたまま、すぐにアンジェ嬢が治療をしている医務室を目指した。そして――

 あの言葉を聞いてしまった。


「くそ! くそ! くそ!」


 私は何度も悪態をつく。あの記憶と相まって私は自分でも驚くほど取り乱していた。

 下々の手本になるべくして生まれた清く正しき貴族である私が、この私がこのような感情など……とても許せることではない。


「さてさて、こっちも時間が無いんだ。教えたのだから、こちらの返答も早くもらいたいのだがね?」


 急かすように言葉を投げかけてくる正体不明の人物。声は中性的で、ローブを着ているせいで体型もわからず、念押しとばかりにフードを深く被った性別すら判別できない胡散臭い人間。本来なら信用に値しない者ではあるが。


「ああ、いいだろう。やってくれ」


 その身から出る威圧感を前に、私の心が『従え』と、囁きかけていた。


「ははっ、よろしい!」


 了承の言葉を聞くとそいつは腕を上げ、手を私に向ける。

 これで私は……お前を超える!


「ガルムッ!!」


 ドス黒い感情を怨敵の名前を叫びながら爆発させる。それと同時に、闇が私を包んだ。

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