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愛する君をチョコで殺す今日

作者: 遥香

聖バレンタインデーは、2月14日に祝われ、世界各地でカップルの愛の誓いの日とされる。

が、日本ではチョコ会社の策略により 女性が男性にチョコを送る文化となっている。男性陣は、チョコの数に一喜一憂するものだ。


また、百合チョコ 友チョコ ホモちょこ 逆チョコ等など 『女性が男性に渡す』という概念さえ覆す言葉達が数多く存在する。


そして、この僕は今日2月14日 君にチョコをあげる。逆チョコだ。そう、それは君を殺すために。


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「もう、私たちの会社が倒産寸前だ。そうわかるな。霧ヶ峰 こうを社長の座から引きずりおろせ。」

……社長の座から引きずりおろせ……。


「はっきりいってください。貴方が言いたいのはそんな事じゃないでしょう?」

そんな生半可なことじゃ。と、心の中で付け加える。


「よくわかってるしゃないか。霧ヶ峰 紅を殺してこい」微笑を浮かべながら 『あれ』はサラッという。


「はい、お父様。仰せのままに。」

いつかこう言われると薄々気づいていた僕の返答はあっさりとしたものだった。というか、あっさりとしたものにしなければならなかった。


「では、失礼します。」

もう『あれ』と話すのは限界だった。

『あれ』…父という人間の皮を被ったバケモノだ。

だから、僕は心の中で『あれ』と呼ぶ。

あんな奴が 人間であっていいはずはない。


「蒼様、大丈夫ですか。」

『あれ』の部屋から出てすぐ、固い優しい声がした。

せいか…。」

色が白く高身長。世間から見ると イケメンという部類らしい彼は僕の執事。

「御顔色が優れていません。少しお休みになってはどうですか。……蒼様…お断りにならないのですか。」

「断る…か。はっ…」

この仕事を断れない事は星もわかっているはず。

でも、あえて聞くのは星の優しさだろう。もし、僕が断りたいと言ったら すぐにでも星が代わりに仕事を終わらせるだろう。

だが、それではダメなのだ。


我が社。黒崎グループは今倒産の危機に陥っている。けれど、弱小だからではなかった。元々黒崎グループは 日用品 食料品 電化製品 などなど 様々な分野に足を広げ 『一家に5個以上は黒崎の商品♪』という、決まり文句もある程度の大手企業である。

そんな、大手がなぜ倒産などという事態に陥っているのか。それは霧ヶ峰グループのせいだった。

霧ヶ峰グループは元々は中小企業であったが、社長であった霧ヶ峰 聡司が急死し、その娘であった 霧ヶ峰 紅が跡を継いでから一変。高校生なのにも関わらず、会社を急成長させ 今では黒崎グループ程の人気を誇る会社となった。

ここまではよかったのだろう。 こちらとしてもいいライバル程度の問題であった。だが、霧ヶ峰グループの人気はますます上がり 対応して黒崎グループの売り上げは急降下。霧ヶ峰グループと黒崎グループの商品の分野が被っていたこともあり、黒崎グループはもうどうしようもできない状態となっている。

全国1万を超える社員を途方に暮れさせるわけにはいかない。 紅を殺すしかないのだ。紅が、会社を引っ張っている。支えている。と言っても過言ではないため 紅がいなくなれば霧ヶ峰グループは一気に崩れる。『あれ』が望んでいることはそういう事だった。


「なぁ、星。神様も意地悪だな。なんで紅なんだろうな」そんなもの星にだってわかる事でもないが、愚痴を零さないとやっていけない気持ちだった。


霧ヶ峰 紅。 僕と同じ学校のクラスメイトであり、よき話し相手であり、よき恋人である彼女。

彼女がどれだけ 父親の急死に苦しみそれをやっとの事で乗り越え 今、会社を立て直していくことに、どれだけの喜びを感じているのか 僕は全て知っている。彼女を殺すと言う事は僕自身を殺すことと同意義だろうな。と思う。

逆に笑えてきた。笑うしかなかった。何故彼女なんだ。何故罪もない彼女を。考えれば考える程笑えてきた。

「蒼様」

「ん?」

星は一声かけると僕を抱きしめた。

「なっ…」

「よしよし、貴方は溜め込みやすいんですよ。でもね、貴方だけが苦しむ必要は何も無い。私にも少しくらい分けてくださいよ。」


「星……ありがとう。」

星の暖かい体温が僕の気持ちを落ち着かせていった。もう決まってしまったこと。彼女の元へ会いに行こう。

僕が作った 毒入りのチョコを持って。



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「蒼!」

待ち合わせ場所に着くと、彼女が笑顔でこっちを見て名前を呼ぶ。

「もー…遅いんだよ、蒼は。レディーを待たせるとかダメですよっ!」

「ははっ。なんか、今日はいても以上にハイテンションだな、紅」

上手く笑えてるか。いつも通りの声か。怪しまれてはいけない。彼女にバレてはいけない。


「あ、今日バレンタインデーでしょ?チョコ作ってきちゃいました〜!」

そう言って、紅は僕に可愛らしくラッピングしてあるチョコを渡した。

「ありがとう。」

言わなきゃ…言わなきゃいけない。

渡さなきゃいけない。

「これ…僕も」

「え?」

嬉しさと喜びの混じった顔で僕を見つめてくる。

「作ってきた…んだ」

「えぇー!嬉しい!」

「はい。」

震える手で声で僕は箱を渡した。

これで、バレて食べないで捨ててくれたらいいのに。そんなことを考えずにはいられなかった。


「……これ、今食べてもいい??」

「え、あ、うん」

食べないでくれ。お願いだから。食べたら…君は……。

「じゃあ、食べちゃおうっと。」

彼女は丁寧に箱を開けて、チョコを手に取る。

「上手だね、意外に。」

あははっと笑ってチョコを眺める彼女。


しっかりと、記憶に残そう。

彼女の手

彼女の表情

彼女の声

彼女の笑い方

彼女の明るさ

全てを細かく記憶に残すんだ。

「顔怖いぞ〜。蒼。」

「あっごめん、疲れてるみたいだ。はは。」

我ながら酷い笑い声だと思う。


……おかしい。

紅の手が震えてる気がする。

食べてないよな。まだ。毒の効果じゃないということは…

…気づいてる……?


「あのね、蒼。これは運命だったんだよ。蒼と紅 混ざったら紫ができるでしょ?出来てはいけなかった。お互いに違う色になってしまってはいけなかった。 ただそれだけよ。貴方に何も非はない。」


……意味がわからない。どういうことだよ…。



「蒼…好きだよ。言ったことないけど好き。」

ニッコリと笑った彼女はとても儚く見えた。

「待っ…!」

彼女がチョコをを食べてしまった。


ああああああああああああああ。

嘘だ…気づいてただろ?

気付いていたのに、何故。

何故何故?食べる必要はなかったはず。

僕を殺したってよかった!


でもこれが彼女と交わす最後の会話なら……

まだ意識があるはずだ。伝えなきゃならない。

声が音にしかならない。


即死性ではないが、効き目が早い毒だ。

伝えなきゃ…

「そ…う……?」


「紅…あ…愛してる……。僕のこと嫌いになって当たり前だと思うけど……僕は永遠に愛してる。」

やっとの事で言えた。


「う……ん…。いい会社にしてね?」


……静かになった。彼女が息絶えた事がわかった。


僕のせいで彼女が死んだ。


でも、彼女はわかってたんだ、きっと会った時には既に。


僕の愛する彼女。


そう、今日2月14日は『僕が愛する君をチョコで殺

した日』


そして、今日は『僕がチョコで僕を殺す日』


君に会いに行こうじゃないか、大切な君に。

無理矢理感あるラストだと思ったそこの貴方!




すみませんでしたっ。

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