三人称小説 13ページ
ヤスオは腹痛とミチコの毒舌に堪えながらハンドルを我が家へと向かわせる。
「食あたりなんて、あなたも人間だったのね。ところでユリは上手くやってるかしら?」
「ああ、ついに彼氏ができたんだろぉ? ワイルドな俺は、この際、例の告白も兼ねて一旦トイレに帰りたいだろぉ? ぶちかましたいだろぉ? ワイルドだろぉ?」
ギュルルル
無理な流行りネタを外したおかげで静まり返った車内に、ヤスオの腹が鳴り響いた。
「あら、凄い音」
「頑張れ俺! ヒーヒーフー」
「出産か! あなた見て、このユリの受信メール!」
挫けずボケたヤスオに哀れみ、ミチコは一応ツッコんだが、続く言葉は人権問題を匂わせる。
「お前、親子とはいえ、娘に内緒でメール着信自動転送は悪趣味だぞ!」
「あら、あの子は物理的に心配ないって!」
ヤスオの腹痛はしだいに深刻さを増し、必死にハンドルをさばき、虚ろな目で我が家をとらえた。
「……ユリには時が来た。この際話す。心の整理が出来たか分からんが今しかない!」
ギュルルル!!!
「はうぅぅううう!!!」
ミチコはヤスオの苦しむ姿を見て「ウケる」と笑いころげ。古いマイブームをぶつける。
「ユリの貞操と掛けまして」
「またか……と、整いました」