拝啓お養父様へ
拝啓お父様へ
不詳私、この度命とプライドをかけ魔法学園を自主退学をする次第に至りました。
詳細は学園長が生徒指導室周辺に手配してくれてそうな映像記録にてご確認ください。
なかったらごめんなさい。
教頭先生のせっかくの進言でしたが、お父様の掲げる騎士と人の道に背くのは忍びなく、これからしばらくサムトロール王国のサンデック侯爵様の寄贈したと言う図書館に掃除や事務をする職員として雇われる事になりました。
サムトロール王国の、図書館ので充実した日々を送っております。
お養父様と再会出来るのは当分先となりますが、どうか無茶をなさらずにお体に気をつけてくださいませ。
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偉大なる騎士ラズオウお養父様の魂の娘アティアより愛を込めて。
追記。アティアは軍人が嫌いになりました。
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「我が名はラズオウ!我が娘にして魔法学園生徒アティアの自主退学に対する学園からの説明を賜りたく馳せ参じた次第であるっ!大人しく門を開けよ」
身長二メートルを越す大きな男を彷彿させる怒声を上げたのは、割とどこにいそうなくたびれた男。見た目にそぐわぬ2メートル幅三十センチの直剣を腰に携え魔法学園の門扉を叩いた。
戦士は背中に武器を背負ったりするが、この世界の騎士は基本的に長大な騎士剣はあくまで儀礼用のアクセサリーで、実際に使用するレイピアやサーベルなどの武器を腰にを差して行動する。
極論すると、そんな非常識な武器を腰に帯剣して歩くラズオウと言う男がおかしいのである。
背後には、近衛隊旗を掲げた完全武装の騎士達が百ほど物音一つ立てずに控えていた。
「ああ、これはこれはお久しぶりでございます。ラズオウ閣下入学の面談以来でございますな」
「うむ、学園長も現役時代と相変わらず壮健でなによりであるな」
「なにやら懐かしい方々も控えて居られますが、アティア君に悪い噂が立ってはいけません、どうぞこちらへ」
「うむ、ワレを慕い同行してくれたのは嬉しいが、近衛騎士団は直ちに王国へ転移で帰還せよ。解散!」
「はっ!総員転移開始」
《ヤボール、ヘルコマンダーッ!!》
全員が二人に最敬礼をしながら一瞬にして消えた。
近衛騎士にだけに許された貴重な転移魔法で、次の瞬間彼らは仕えし王の御前に帰還し魔法学園の無事を伝えるのだった。
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「しかし学園長、ワレは娘の将来を見据え引退し大公国へ移り住んだしがない一市民に過ぎぬ。もはや閣下などとこじゃれた呼び方は無用」
「では、ラズオウ様どうぞこちらをご覧ください」
ー間ー
「なんだ、軍の発展性を憂いてとは軍人としては案外まともな奴だったではないですか。この教頭」
「小物というより、実際にカギを挿してしまうあたり考えなしなのが残念ですな」
「だが、流石は我が養娘!プライドに命をかけるその覚悟次あったら誉めてやろうではないかっ!」
窓が揺れるほどの大笑いをしたラズオウは、真面目な顔で再び学園長に向き直る。
「で、自主退学の件は時期が来るまで置いておくとして。
先週頼んだおいた我が娘のスナップ写真はどうでしたか?」
「…いつもの事ですが。大概になさらないとアティア君に嫌われてしまいますよ?」
「なに、昔から植え込みやら池や潜んで撮るのだが、九割カメラ目線にピースサイン付きである。隠し撮りなどとっくの昔に気づかれておりましてな」
「そうでしょう、いや全くその通りでしょうな」
フッハッハと豪快に笑う、とうに引退した身でありながら常に巨剣を持ち歩くのだ、
隠し撮りは不可能だろうと学園長は深く頷く。
ラズオウが、アティアを引き取ったばかりの頃は、あえて血生臭い場所ばかり連れ歩いていたから学園など必要ないくらいに実力がある。
魔力の高さに比べ攻撃力は以外なほど低いが、補助や回復魔法は本職の回復士を上回る。
学園の実技は攻撃魔法しか反映しないので、実技の授業を免除した訳だ。
回復魔法は、怪我をしないと効果が出ず、ただぼんやり光るだけの魔法にしかならない。
成績に反映されるほどの事故や怪我をされては学園側として立つ瀬がない。
それに腕輪を介して、生徒全体で学園の結界に送る魔力の1割を賄って貰っていた。
少なくとも、回復魔法の魔導師を名乗るに値する魔法量を内包している公国にとって貴重な人材にだったのは間違いない。
が、隣国に就職をしてしまったと言うと話が変わる。
ラズオウは元々田舎の騎士であったが、対魔物戦闘でメキメキと頭角を表し、若くして将軍地位についた叩き上げの軍人騎士である。
戦いに明け暮れ戦場を駆け回っていたせいかわからないが、嫁さんと自身の子供の間に子が出来ないでいた所に、騎士から素質ある子供を弟子にどうかと紹介された。一目で気に入ってすぐさま、騎士の宿舎で基礎から学ばせようとした所、居合わせた彼の妻の猛反対にあった。
なんと、妻のマリアもアティアにビビっと一目惚れしてしまったのである。
そして、どうせなら弟子ではなく養子にしよう。さらに言うなら、軍人やめて子育てしようと二人の話はまとまった。
今の見た目以上に酷い過労状態であったラズオウは仕事に疲れ鬱になりかけていた。その矢先の出来事である。
親戚の有望な青年に家督無理矢理押し付け引退した。彼の妻は、養子を貰い教育ママと化した現在、他国漫遊の旅の空にある。
引退後に養子にしたが故に、アティアに貴族としての家名がないのである。
「さて、アティアが同年代の友達を作りたいと言っていたが、最も親しくしているエリックと言う者と面会は出来ぬのか?」
「…ああ、エリック君ですか。アティア君の行き先を教えたら、サンデック辺境伯領に向かいました」
「サンデック辺境伯領は大公国側が勝手にの呼んでいるだけであろう?」
「地図上ではサンデック侯爵領なんですが、大公国の法律では侯爵は伯爵位になるんで仕方ないですね」
※この世界では、大公と侯爵の権力は同じくらいで、辺境伯は侯爵より一段下がる感覚です。
因みに、どの国も国内に種族部族の王が存在しているので、各国の王家は、連合国の代表の役割は貴族代表とかよりも、古い宗教の教主的な役割にある。
軍備軍事力の確保ができるのは公爵・侯爵からで、伯爵位は都市単位の領土を維持するのがやっと、大公国のように、1つの貴族の領土だけで国境を主張している国はないが、公爵は伯爵級貴族領への治安や経済支援を行う事によりその身分を保障される。
さらに、大公国は山を越える重要な街道に位置するが、山を抜けた先の隣接領土は極端に遠く、サンデック侯爵領のみが隣接している故に、サンデック家が大公と同等の侯爵であるとは認めたがらず、同様にどの侯爵家も辺境伯扱いとする法律を敷いている。
だが、サムトロール王国近隣においては、やはりサムトロール王家が権力の頂点。
ムトロール王国に属す侯爵は独自の自治をしているが、大公国は国。
有事の際には、サムトロール王が貴族から有志を募って軍を派遣し防衛にあたる事もあるそうだが、基本的に軍事介入はしない。
侯爵と言う爵位は大公国に存在せず、伯爵・子爵・男爵のみが存在する。辺境伯と言う言葉は大公国の国内で使われ、サンデック侯爵が辺境伯と呼ばれて黙っているのは、大公国が観光地として割と便利な距離で政治的な立場は変わらないので、大公国独自の文化であると、サムトロール王国側が容認しているから成り立っているだけの話だ。
ただ、文化人なのは貴族などだけで、一般人が通える教育環境がなかった。
サンデック侯爵家が全額出資する条件で市民向けの学園を建設経営しているのが大公国の魔法学園なのだ。
つまり、ここ魔法学園はサンデック侯爵の国外所有地なのである。
他国領地とは行かないが、大使館程度の権限が領国から認められていたりする。
気が抜けたらしき二人は、その日夕方まで昔話に大いに花を咲かせた。
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図書館は運河の終点で港のような船着き場がある。養父はガレー船で2日陸路で1日しかかからない距離だから安心さたと父は手紙に書いて寄越した。
旅慣れた商人から聞いた話では、そんなもんじゃ絶対来れない距離らしいです。
―養父は、どんだけ過酷な強行軍を想定し安心したのだろうか。
リーマンは不眠不休で限界突破
( ̄人 ̄)