図書館から愛を込めて
「朝は晴れてたのにっ!」
朝の清々しさはどこへやら、どこからともなく流れてきた曇がから猛烈な雨が降ってきた。
街が整備してい綺麗な公園のベンチで、それに気づかず友人とおしゃべりに夢中になっていた少女達が、急に降り出した雨に追われ近くの軒下に駆け込んだ。
高級感溢れる真っ白な大理石が使われ、一般にはあまり普及していない透明で大きなガラス窓が作られた建物だ。
街を治める貴族が住人達のために作った【街の図書館】なのだが、高級感溢れる意匠が凝らされ、街の住人にある種の近寄り難さを与えていた。
「びっくりした、いきなりふるんだもの」
「「ねー」」
ショルダーバッグからハンカチを取り出し、互いに友人の髪や服を拭き出した。
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「女の子って、ハンカチを一人で何枚持ち歩いてんの!?」
一部始終を微笑ましく見守っていた鳶の瞳が、都合三枚目のハンカチがそれぞれの少女のバッグから取り出した事で、驚きに見開かれていた。
「さすがは館長、貴女の言うとおりに降ってきましたね」
図書館を所有する貴族の家紋が刺繍された赤いサーコートを着た若い兵士が関心した様子で、窓辺に張り付き、些細な事に驚愕している黒髪の少女に話しかけた。
「ねぇ、雨よりハンカチ!!それから私は館長ではなくしがない受付嬢です」
黒髪少女の正体はアティアだ。草原からしばらく、街についたまアティアは、所持金もなく街の役所に保護を求めたのだが、ある意味タイミングよく、そのまま図書館で働かせてもらえる事になったのだった。
「いや、正式にこの図書館に勤務してるのってアティアさんしかいませんよ?」
「それでもオレはやってな…びゃーっ!光ったーっ!?」
『『『キャー!』』』
振り返り少女が叫ぶタイミングを狙ったかのように稲光が走り、館長と呼ばれた美少女は絶叫し、外の少女達は可愛らしい悲鳴を上げた。
同じように声を張り上げたがこちらのなんと色気のない悲鳴である事か。
「また、いいとこ(貴族)のお嬢さんが、オレだなんて野蛮な言葉使わないでくださいよ」
「そっち?!私は悲鳴あげたのにそっちを気にするのかっ!?」
「あぁ、そうでしたね。雨が吹き付ける前に外にいる女の子を中に入れて上げましょう」
「えー?」
「館長は普段から平気でしょう?それより、濡れて風邪引いたら可哀想じゃないですか。それとも見てみぬ振りをする方がいいですか?」
「ロディック家のイケメンがっ!!図書館でも股でも好きに入れてやればいいだろ」
「…どうして、館長はお淑やかな言葉を口に出来ないんですかね」
「山野の育ちをなめるなよ!?」
「そして捨て台詞まで…」
兵士に対して中指を立てた後、タイトなスカートで器用にノッシノッシと本棚の向こうに去っていった。
ある意味あられもない少女の背中を見送り、兵士は扉を開け吹き付ける雨が止むのを待つつもりらしき少女達を図書館の中へ呼ぶ。
「お嬢さん方、そのままでは風邪を引いてしまいます。
どうか遠慮せずに中にお入りください。」
「なんてイケメン様…」
「「(ぽっ…)」」
―今週の施設利用者三名。
▼
「本日の図書館利用者はゼ・ロ~と」
図書館のカウンターで日報を毎日書くのだが、図書管理の職に付いて一年、0はいくら増えてもゼロのままと言う現実を突きつけられている。
正直ゼロ桁を増やそうかと考えてみたりする。
0→00→000へ。
うむ、全く意味はないが、雨宿りを計算に入れるようになったら記録的にも終わりだよ。
イケメン兵士オルベナ=ロディックの闇に捕らわれた彼女達は、蔵書に一切目を向けるなかった。せめて指紋の一つくらい残して行けと思う。
そして、なかなか雨は止まずイケメンの提案で娘達はロディック家の馬車で自宅へ送られた。
至れり尽くせりか?
「今日は久しぶりに来館者がありましたね」
「まぁ、珍しいパターンですが、訪問客だけならたまにありますがね」
宗教の勧誘はたまにあるし、古い言語で書かれた書物を手に入れた商人や、字の読めぬ冒険者が、手に入れた文書などの内容の確認依頼をしにくる時もある。
持ち込みされても、大した内容の本はなかったので、今頃尻を拭く紙や薪に火をつけるくらいの役にたてているかも知れない。
だいたい、無数の本棚が並んでいるが、使っているのはカウンター前の一列のみ。
だいたい、辞書が大半で蔵書も三百冊有るか無いかなのに図書館とは片腹痛い。
さらに、小さな屋敷が買えるようなオリジナルの魔法書が数冊あるせいで、日夜警備の兵が待機している。
誰が好んでこの図書館に近寄るというのだろうか?
私はそんな図書館に、空き部屋に住み込みで本の管理を任されている立派な図書館員だ。
家賃ただ、三食昼休み付きの好待遇。
因みに領主アンド図書館の持ち主は、サンデック侯爵家。
つまり、エリックの実家である。
―どうしてこうなった?