風の中
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アティアの〆られた後の魚のような目線の遙か先、草花が風にうねりるように揺られ、大海にど真ん中に置き去りに去れたような気分だ。
即ち、絶望である。
大袈裟な話ではなくてさ。想像してほしいのは、歩けども歩けども町がない大草原。誰もWを囃(生やし)しておらず孤独な緑の真っ只中。
そう、これは確かに絶望です。
―メンタル弱くてゴメンナサイ。
沢沿いを歩いて3日私が飛ばされたのは内陸のかなり奥の方だったようで、草の大地が途切れず続いていた。
ただねぇ、川沿いは目印にはなるんだけど、水を求めてやってくる草食系につられて肉食獣もいるだろからねぇ。
大きさはともかく、コモド的ドラゴンなトカゲやナイルワニ(でかい)くらいの爬虫類が気候に関係なくいる徘徊してる世界だからなおさら気をつけてないとだよね。
夢と希望に溢れた子供らも、ゴルフ場を歩くワニの動画見たら冒険者になんかなりたく無くなるだろうけど、地球のあのワニならアースドラゴンくらい頭からバリバリ食べちゃうんじゃないか?
恐竜すら食べた古代のワニとか居たらしいし有り得そうだよねー。
でも、牙城を作るクマとか地球から来たら魔王になりそうだからヤバ過ぎるね。
とにかく私は今、日本では考えられないほどの草原の広大さに、心の底から悲鳴を上げたい気分を味わいながらひたすら歩いているのです。
人の手が入った気配は欠片もない草原だが、今のところ大型の獣にも遭遇していなかった。
下流に向かうと、山付近とは植生が違い背丈ほどあった芦のような草は見なくなり、いまでは膝下ほどの低い草ばかりになり、何かから身を隠せる場所もなくなり、草の下は砂利沢山で上履きだけだと流石に歩きにくくなってきた。
遠目には、草原のようにしかみえなかったのだが、河原の中洲みたいな場所が多いのは、どこかの川が氾濫しやすいのだろうか。
まぁ、海も川も護岸工事もクソもないですからね。
定期的に中が清掃される街中を流れる運河を覗いて、川沿いで工事なんかしてれば川の中から魔魚が飛んできますよ。だから余程のことがない限り川沿いなんかが整備されてること無いんですよね。
鮒のような小さな魔魚ですら泳ぐ力がマグロ並みとの噂ですし、スポーツフィッシングなんかあったら、ミスチルの竿とか生まれそうですね。
いやでも、200キロのマグロ個体とそこらの鮒みたいな魔魚系川魚と同じあたりになるって事は無いと思いますけど。
さて、この美しき草原は見た目の美しさに反して、魔力を帯びた生き物に必要とする大気中の浮遊魔力が極めて薄く体力の消耗が早い。
体内魔力の保持は、内側と外圧との中間に中性層という宇宙服みたいな中間の層があり、大気中の魔力濃度に依存している部分があり、外から抑えつけられないと体内から流れてしまう場合がありますからね。
適度に出て行ってくれないと、古い魔力が蓄積し体内に魔石ができるなんて話もある。
外の魔力が濃すぎると内側の魔力の循環を妨げられ、意識障害や危険な状態に陥ることがあるので、魔境などの過剰濃度の浮遊魔力は瘴気と言い換え危険視している。
しかし、ここは大気中の魔力が薄い。
ああそういや、魔力じゃなくて魔素だっけかな?
まあいいか、ダンジョン化してない旧文明の遺跡によく見られる現象で、この世界では特に危険な禁域である。
瘴気と呼ばれるほど濃密な魔力は生命を殺す、大地に染み込んだ瘴気が生き物をを遠ざけ、その境界面では相反する力のせめぎ合いにより常に稲妻が走り、肉体に魔力を持つ生き物は内側から弾け飛ぶと言われていた。
が、まともな人間なら魔力がなくても死ぬ訳ではない。
魔力枯渇で死ぬのは、魔力で生き長らえてる化け物くらいでしょうか?
大魔法使いや賢者は、魔力の関係で肉体が死んでから、ドルイド(枯れ木人間もしくは生きた木、人柄により聖樹、魔樹に分類)になるなんて噂もありますけど、見たことないですからボツクスラーメンほどに確かな事は言えないです。
実際に広がっているのもまた極めて平和な風景で、転移で体内の魔力が失われたままでいるから摩擦が少ないのかも知れない。
しかし、危険な外敵も少なく、多少なり実や食べられる植物があるからただ生きるだけなら生きられなくはないので有り難い。
しかし、何故そんな大地まで飛ばされなければならないのかっ!!
どっかで、ヘンなフラグ建ててたら教えて下さいっ!?
QED・後の事かえりみなかったからです。
そんな訳で、辺境中の辺境であり魔族や魔力に頼りりきりの種族からしたら弱体化どころか生存が危ぶまれる真の危険地帯だ。
ヘイ、ナンシー。人類の生活圏を軽く飛び越えてないか?
テイクあティギ!(その通りだよ)
あいんふぁいをせんきゅー。
入学時の魔力は確かに高かったが、ヒキコモ生活では鍛えられてもいないハズだったのに何故こんな目にあわねばならないのか!?
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「ほほう、アティア君は事故ではなく希望退学をしたのですか?」
ことの顛末が書かれた報告書に目を落としながら学園長は教頭から状況説明を受けていた。
浮ついた態度で接するアティアに対して、普段からは想像がつかないほど熱鞭を奮ったような教師とのやりとりに眉を潜める。
「ええ、担当した教師も非常に残念そうでしたが止めることは出来なかったそうです」
「担当していたのは教頭先生ではありませんでしたか?」
ふむ、それこそ彼女から私に“今から教頭先生の指導を受けます”と教えに来たのですがね?
三千もする弁当の上に、凶悪な腕輪が落ちてきた時点で、隣に怒鳴り込もうかと考えましたが、牢屋送りになったならいいかと思ってたんですがね。
通常なら、生徒自体が結界に魔力を送っている関係で不慮の事故で腕ごと落とされたとしても、多少の猶予があるように出来てるはずなんですよ。
まさか、結界の術式に手を加えられてて外に弾き出されてるとは思いませんでした。
「確かに、私も少しばかり話をしましたが、担任教師の面目もあるとヒドス君に任せましたので私としても遺憾な話でしてね」
「では、この場に彼が居ないのは?」
「彼は、熱意が通じなく酷く落ち込んでおりましたので先に帰らせました」
―裏口合わせの為かも知れないがコレは酷い。
連れてきなさいよ。当人なんですからせめて顔だけでも出させなさいよ。
バックに有力貴族が居るからとしても塩対応が酷すぎでしょう。
いや、塩ではないですね。
酔っ払いの酒粕対応ですよ。
(―ω―)
担任教師は“血統主義者”と言う魔法は高貴な血のみが極められると言う思想により、普段から平民の生徒を無視する授業態度をする事で知られている。血統主義に対して卑屈なまでに従順で、いつかは血統派の貴族に認められ一員となりたいらしい。
貴族の庶子で、家名を名乗る事を認められなかったが故のコンプレックスを持つあの男が、ただの村人から貴族の養女となったアティア君に対して、教師らしく指導をしている状況は天地が逆転してもありえない。
教頭に言わせれば小賢しいのであろう。わざわざ私のいる学園長室を彼女が尋ねてきていたのも、呼ばれていた事実を知らせるためだ。
頑張るが伸び悩む人間は少なくないが、趣味に走り過ぎたせいで成績に伸ばされないで悩む生徒は彼女くらいのものだろう。
本来、学園在学中に開発したものの利権は学園にありますが、軍事に正式利用されたなら、それこそ勲章は本人に与えられるものですからね。
様々な分野に役立つ道具や設計図の研究の提出は、一芸に秀でてはいても人付き合いには向かないような生徒のために作られた制度。
彼らの道具の特許が学園の維持費に当てるから、変わりに学費と単位の免除をすると言うものだ。
契約金の一部だけで、老後まで安泰な生徒もごくまれにおり、莫大な利益をもたらす彼らは、学園には大事なパトロンでもある。
それを、私が口を出さないからとあなた方が学園を通さずに軍に渡す手引きをしていたのですがね。
ある意味賄賂ととられかねないが、直接的な現金の受け取りより貴族社会では有効でしょうが、個人では大した利益は上がらなかったのではないですか?
特許の権利と名義を学園が与るのも理由がそこにありますからね。
未成年者が作る物は欠陥品である場合もあり、更に理論などが軍事的な組織に悪用された場合には個では償えないような重大な被害を及ぼした例もある。そんな時に学園や貴族を中心とした後援会が矢面に立ち、生徒に直接被害が向かないようにする旨も確約しつつ予算を我々がもぎ取って帰るのだ。
だが、彼らは学園外の組織に内通しただけでなく、夜中に学園長の許可なく外部の人間を招き入れ生徒の私物を我が物顔で接収し、彼女の権利と情熱を奪った。
許せる訳が在るはずも無し。
とりあえず、腕輪の鍵の使用は学園長である私と教頭にしか許されていません。情に駆られ一教師が許可なく貴重な備品を持ち出すなどあってはならない事。
督不届き行きと合わせ免職処分と行きたいところですが、この事態に気づき迅速に対応してくれた教頭先生の顔をたてたと言う事にして、二か月の減給処分を彼に与え、無断退学の件は解決したものとしましょう。
今回の資料も集まれば邪魔者の排除も進む事でしょうしね。
「…と言う事で如何ですか。ヒドス君には教頭先生から伝えておいて下さい」
「学園長の寛大な処置に感謝します」
胡散臭い好好爺の顔で教頭が笑う。
予定通り巧く行きましたか、長く生きていますからこんな若造いくらでも言いくるめると思っておられるのでしょうね。
若い頃は、二枚舌どころか十重二十重と意味もなく罵られ恐れられたもので、そんな若造ですから言い忘れてしまったこともあるのです伝えさせてもらいますかねぇ。
「そうそう、すっかり忘れていましたよ。事後承諾という極めて異例の事態に私も慌ててしまいましたが、基本的に親御さんからの事前手続きがないと、自主退学も出来ません。
表向きにはアティア君は今日から病気療養による休学という扱いが妥当になりますね。
わざわざ、秘匿する事でもありませんしアティア君が“自主退学”した旨も、教頭先生から生徒達に伝えておいてあげ貰えますか?」
早々に退出しようとしていた教頭に言伝を頼むと、面白いように焦った表情に変わった。
いやね。普通は失踪同然に退学なんかありえませんから、クラスメートも状況説明と判断材料くらい欲しいでしょう。
「しかし、自主退学したことを広めては、アティア君の名誉に傷を与えかねません。どうかアティア君個人ためにも…」
なるほど、名誉ときたましたか。状況説明で有耶無耶にしたかったのでしょうが、何言ってるのでしょうね。
そもそもの話、自主退学に名誉もクソもありませんよ。
成績が悪くて留年はありますけど、我が校が成績悪くて退学処分にする事はありません。
新入生の受け入れ人数は決まっていても、在校生が増えれば、集まる学費が増えるだけですよ。
「では、事故だったと説明してあげてください。そのあたりの理由は何でも問題ありませんよ。
宰相閣下の協力もあって、違法な手段で学園外に持ち出された資料が回収され、ほぼ全てがアティア君の筆跡と一致しているので卒業資格は十分です。
病気療養の休学とでもしておけば彼女の体裁も保てるでしょう」
「…ばっ、そのような話がありながら何故私に伝えて下さらないのですかっ!?」
「この学園では、その程度の事はそう騒ぎ立てるほどの話でもないからに決まっているからでしょう」
因みに、宰相閣下も公国側の大掃除に忙しく、学園側は宰相閣下に資料の流出を主導した者を追及するつもりはないと明言してあります。
後は誰かが黙って真面目に勤務していれば、我々が悪いようにはしませんとも。
「軍務大臣は近日中に捕縛されます。学園からの接触は禁止させてもらいます」
「何故この様な事に…、そうですかわかりました。しかし、そこまで理解していながら何故私を捕らえないのですか?!」
理解できないですか?我々が寛大なのは理由があったりしますがそれはまた後日教えてあげればいいでしょう。
「とにかく、今回の件は解決しました。生徒への連絡は任せたと言いましたよ」
「…学園長の寛大な処置に感謝いたします」
自白までしたのに見逃されては、ますます困惑するばかりでしょうけど、その内あなたも慣れますよ。
そうでなくても、アティア君は、学園の試験日を間違えて卒業試験の日にきてしまいましてね。来た日に主席で卒業してしまいそうになってしまったオッチョコチョイさんなのですよ。
面接で友達を作りたいから入学したいと話していたので、ある実験に協力してもらう形で普通に入学から卒業を体験してもらう予定だったんですが、入学しばらくしたら長いスカートが嫌でヒキコモ生活になるわ、ガサイレ指導により普通に学園生活始めたら今度は自主退学になるわで散々な学園生活ですよねぇ。
「そうそう教頭先生。二年前の実技の卒業試験で、魔力暴走を起こした生徒がいたのを覚えていますか?」
「はい、覚えています。その時間には、結界の魔力供給者として地下に潜っていたので人手伝いに聞いただけですが、先行し試験を受けていた公爵子息に対抗し、未熟な生徒が魔力を暴走させ危うく他の生徒にまで被害が出る所だったと教えられましたが?」
そう、貴方達の大好きな血統派の筆頭貴族と目されるブラドー公爵。
その子息が常に二番手に甘んじている存在を力尽くで排除しようとしたのが原因でした。
その試験の際に、結界に注がれるだけのバイパスの一部が、彼女の足元に向けられていたのも判明しています。
魔力の発動が上手く行かなくなるように細工をしたのでしょうが、彼女の元々の素養が高かったので分かる者が見ればすぐにわかる程度に不自然な状態でした。
普通なら発動しても大した威力が出せないのでしょうが、魔法への素養が高い為に阻害された状態でも、強力な魔法を発動出来てしまったから事故が起きたのです。
「あれは、実際に数人の生徒に被害はでていたのですよ」
「報告書にそのような事は何も記載されていませんでしたが?」
血統派は、魔力の高い女性の人権を無視した勧誘をする事は有名ですからね。
その場で教えていたら、卒業した後に学園の預かり知らぬ所で彼女を陥れようとしてくる可能性が考えられました。
学園外となると私にも流石に難しいですから、子息に引き取らせるしあありませんでしたよ。
「ええ。あの場にいた全員が、友人の事故が何者かに意図的に起こされた物だったと疑い原因が判明するまで誰にも知らせないで欲しいと熱心に訴えかけてきましたからね。私もそれに応えてあげることにしたのですよ。少々骨が折れましたがね」
父親と違い、ブラドー公爵子息は極めて柔軟な思想をしていましたな。
どこからか過剰供給された魔力と、体内の魔力の境界面に発生したプラズマに体表を焼け焦がされ瀕死になった首席の少女。真っ先に駆け寄って放電が続く愛しい彼女の体を抱きしめ己の無力を嘆いていましたよ。
瘴気と魔力・体内魔力と外部魔力・同じ源泉から生まれなかった力は僅かな隙間があります。が、強力に負荷がかかり互いの境界面が接触するような事態になると、互いに拒否反応を起こし、静電気や稲妻ともプラズマとも言われる危険なエネルギーを発生させますからねぇ。
普段は、どっちつかずの中性魔力により僅かながら隙間があるのですがね。
数人が力をあわせ個人では不可能な破壊力を生み出すという集団魔法や、大気中の魔力を吸収しての回復が理論止まりな原因になりますね。
気を回して首席にしてやるために細工をした者達がいなければ、名ばかりの血統派の意見をおしのけ円満に結婚まで漕ぎ着けられたはずでした。
なんでも出来るが極められない優しい若様と、田舎少女の恋はなかなか見ものだったんですけどね。余計な手を出してくれたお陰でおじゃんになりかけましたが、偶然居合わせた優秀な回復術師がと周りの怪我人をツルッツルの卵肌にしてくれました。
しかもその回復術師は天然だったらしく何気ない一言が二人の恋を一気に爆発させてくれたのですよ。
でも流石に“先に子供作っちゃいましょう。子供が優秀なら問題ないでしょ”だなんて14さいくらいにしかみえない娘が口に出しますかね、やりますかね?
ああ、くわばらくわばら。
まあそうした中、私が迂闊にも卒業資格を“免除”してしまったのですが…。
はい、私入学してない者に卒業資格を与えてしまいました。
実技の結果で、卒業証書に名前を書くしきたりですからね。
当時は、あまり生徒に興味がなく、生徒の顔を把握していませんでしたからとんだ失態でした。
それに、あまりにも堂々と卒業生の中に紛れていましたし、疑う事なく卒業資格を与えてしまうのも仕方がありませんよ。
まさか本人は、入学試験のつもりでその場にいただなんて夢にもおもいませんでしたけどね。
入学試験は翌日でした。
その中に彼女の姿はありましたが、怪我もなければ得意の回復魔法も役にはたちませんからね。
見事なくらい平凡な成績で入学してきましたね。
さて、学園関係者は常に中立を保つべし、あなたがたが血統派と言って私たちと対立しているつもりでいるのは知っています。さて、学園関係者は常に中立を保つべし、あなたがたが血統派と言って私たちと対立しているつもりでいるのは知っています。しかし、学園内に他の派閥など存在しないのですよ。
派閥争いなんかしていたら、生徒達の将来に歪みを与えかねませんし、学園の教師のほとんどが、派閥争いに巻き込まれたり嫌気がさしてしまって上昇思考が失われたわりと優秀な人材ですからね。いきなり派閥争いを始めたあなた方を煙たがりもするでしょうよ。
それに、基本的に学園の職員は終身雇用制で、各省庁からの引き抜きが御法度なのは暗黙の了解です。
彼らには嬉しい話ですが、上昇思考豊かなあなた方血統派とやらには酷な話かも知れませんね。
公爵の紹介で学園に雇用してさしあげましたが、自ら崖下に転がり落ちて、痛い痛いと傷をなめ合う姿はなかなかに楽しめました。
「いいですか、アティア君の事は誤解のないように休学の旨を伝えてください」
「わかりました…」
納得してないようですが、これからあなたは忙しくなりますよ?
「どうやらアティア君の資料で無駄に費用を失ったどこかの貴族が学園の関係者を狙っていると聞きました。生徒の外出も控えるよう口頭で伝えておいてください。」
「はい」
「それから、宰相閣下が教頭先生にいたく興味をお持ちなようです。今度閣下の邸宅で開かれる有名貴族が集まるパーティーにご招待したいとの話がありましたが、いかがでしょうか?」
「教育者として遠慮させていただきます」
「わかりました。私から伝えておきましょう」
「では、失礼します」
「はい。これからもよろしくお願いしますね教頭先生」
「…は」
憤りか、これから起こる暗い未来への恐怖かわからないが、教頭はあきらかに震える手でドアを開いて出て行った。
学園内は治外法権で、学園敷地内に居る限り誰も手出しはできません。
優秀な購買員のお陰で購買にいくだけで、鉛筆からドレス、果てはアサシンまで何でも揃いますから安心して引きこもってくださって結構ですよ。
公爵に命じられ、血統派の思想で教育者として、権力の通じない学園に内部から支配して変革をもたらすつもりだったのかも知れませんが残念でしたね。
基本的に学園内部に組まれたら退職も出来ないのですよ?
とんだブラック企業ですよ。学園長だなんてとんでもない。私は人生の牢獄に捕らわれた獄卒を束ねるただの獄長です。
輝かしかった未来を夢見たあなた方に、私達教職員はこの言葉を送りましょう。
「魔術師の墓場へようこそ」
―なう。




