試練だ
魔法学園だけじゃなく、現存するほとんどの学校に文化祭や学園祭がある。
発表会じみたものから、屋台や出店を呼んで文字通り祭りとして楽しむ学園祭もある。
魔法学園の学園祭は後者にあたる。
もちろん、研究組の論文の展示など魔法学園らしい場所もあるが、仕入れや販売などほとんど機会がない貴族の子弟に、学園祭を通じて店を体験させるらしい。
まぁ、早い子は十才から入学しますから、文化発表会より文化祭学園祭のお祭り感覚の方がいいんでしょうね。
過去には20くらいまで卒業を伸ばした人もいるらしいです。
なんにしても、私は祭りあんまし好きじゃなくてねぇ。
オッサンも、八キロ九キロ離れた花火会場にチャリでイカ焼き買いに行かされてからは祭り会場には行かなくなったみたいですし?
ナンパする事期待しながら、ナンパする事なくひたすらチャリ漕いで帰ってきただけみたいだからなー。
あれよ。気安く異性に声かけれないタイプ。
それどころか、同性でも声が詰まる人見知りにナンパなんか無理って事ね。
私は祭りに行くと…………。
―お祭り行ってなにすんの?
ああ、胃液で喉が痛くなりそう。
「エリック、どこいくにしても先に手洗い拠らせてくれない?」
「わかった。早く済ませるのだ」
異性(私)のトイレ発言にも顔色一つかえません。
エリックは異性に対するデリカシーを学ぶ必要あるんじゃないかね。
私は、うがいしたいだけだから該当しないと断ずる。
けど、流石に異性がいたら他の女子も入りにくいし、エリックも立場ないでしょ。
「あの階段辺りで待ってて貰える?」
女子トイレで出待ちしてたなんて恥ずかしかろう。これぞ元男の気遣いって奴さ。
「いや、ここで待つ」
エリック、腕を組んで直立不動。
それ以前に、普通の女子、否貴族の令嬢だとトイレ待たれるの恥になると理解してるんだろうか…。
理解してないかもしれないが、その勇気は漢らしすぎる。
エリックならデパートにある女性の下着売場も当然とばかりに付いてきそうだね。
「今日は、知らない人間も入り込んでいるから、あまりアティから離れないほうがいいのだ」
フンスと意気込みも露わにエリックが宣う。
恥ずかしい噂流れても知らないぞって思ったけど、そんな事気にするのは日本の若い男くらいのもんなのかな。
でも、本来護衛つかなきゃならないのはエリックであって私じゃないんだけどその辺りどうなのかね?
いや、まだ配慮はないか。
私まだ気を抜けない段階だから、知らない人が入り込める学園祭に参加するのはあまり好ましくないハズなんだ。
「うがいだけして来るから…」
「うむ、任せろ」
いや、任せろって今キミは何を担当したんだ。
(ガラガラ…ぺっ)
手早くうがいを済ませエリックと合流。
学園祭だから、すれ違う人は沢山いますよ。
身なりのいい年配の人や青年がほとんどで、一般人の父兄はあまり来ていないようだ。
あと女性もあまりいません。
未婚既婚問わず貴族の女性が異性蔓延る空間に気軽に来るなんてあり得ないのは確かだよね。この辺りは日本の学園祭と大きな違いだと思う。
けどまあ、まるっきりいないって訳じゃないが、学園にドレス姿の貴婦人は似合わないなぁ。
貴族学校じゃドレスで勉強受けたりしてるらしいけど、座る椅子からしてソファーとかクッションだとかあるらしいし、身の回りに置くものが違うからドレスで通学出来るのだよね。
魔法学園は木製の椅子と机だから、基本的にドレスみたいな服より学園の制服で過ごす方がはるかに楽さ。
それ以前に、ささくれやらある年代物の机とイスじゃドレス引っ掛けるだけだから普通着ないわな。
ラノベに、ドレスで通う悪役令嬢とかよくあるけど、描写はなくとも新品だとか革張りの一流家具だったりするんだろか?
流石に、日本の学校みたいなパイプ椅子は無いか。あれちょっと引きずっただけで音鳴るし、マナー的にアウトだから基本的に木製なんだろな。
ソファーに座った授業受ける姿もあんま想像つかんが、木製の椅子に高級クッション強いてドレス姿の令嬢が授業受ける姿は直似に見たらかなりシュールな光景かも知れないわ。
それ以前に、パニエか針金か分からんがスカートの裾が傘みたいに膨らんでるドレスだから、学園の廊下をドレス姿で歩く人ってやたら目立つ気がするね。
年配の偉そうな男性ですら何も言わずとも立ち止まるわ。
この学園の廊下って、日本の学校の廊下と大差ないから、ドレス姿で歩かれると迷惑なだけの気がします。
私はズボンですが、生徒以外の女性は基本的にドレスでないと外出しないのが仇となりましたね。
けど、男性はみんないやな顔一つせずに足を止めて道を譲る。当然ぜだとばかりに通り過ぎる貴婦人。
この世界の男性は、生まれも育ちも気遣いの紳士だらけですな。(←イミフ)
オッサンならいやな顔した挙げ句に壁に張り付くように避ける。
考えた事が顔に出るからモテなかったんだろな。
そこはかとなく、女性に気付かれないくらいのさり気なさが大事なのね。
勉強になるわ。
手遅れだけど。
エリックは…ちょいちょい当たりそうになるから私が引き止めてたりしてます。
私を見て話をするのより、前の令嬢と脇の気遣いの紳士を見て彼らのそれを見習いなさい。
いや、グイグイ引っ張らない私にも気を使う必要もあるからね。頑丈な図書館のズボン履いてないし、流石に学園祭で引き回しの刑はされたくない。
今んとこ小走り程度だからいいけど、脇目も触れないから何にもみれないんだぞー。
学園祭へエスコート的な何かのつもりだったのかも知れないけど、引っ張り回すのはいつも通りなのね。
見たい物とか気になるものも判断する前に素通りよ?
「そんなに急いでどこ行くの?」
「うむ、女性に人気のナントカと言う舞台俳優が来ているらしいから一緒に見に行こうと思ったのだ」
―ごめんエリック私そおいうの興味ない…。
「クラスの女子も皆騒いでいたから、アティもきっと喜ぶのではないかとな!」
「あ、うん。ありがとう」
いや、その手の話しサッパリわかんないんだけど、サプライズ転移も含めここまで一生懸命連れてってくれてたんじゃ断れないわ。
本当は買い食いだけでも構わないっす。
てか、そこは私じゃなくてもう少し女の子らしい女の子誘って、貴族のデートみたいにするべきだと思うよ?
エリックの同年代の女の子が声かけたそうにしてたりするんですけどねー。
今の私達を他人から見たら、声かけるの躊躇うわ。
もしかしてだけど、急ぎ足すぎて急用があるんじゃないかと思われてんじゃないの?
ハシャぐ子供と付き合わされるオッサンの図!




