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自主退学してきました

学業としての研究と称したサボリから離れ一年。

誰にも公開してない趣味レベルの魔改造のせいで、相変わらずクマの生息地は保護され続けているが、軍のガサイレはブラにワイヤーやパッドを入れる企画書以来、踏み込んでもろくでもない研究と判断されたのか、軍の夜襲はなくなった。

しかしながら、成績はノルマの崖から転落し、地の底を這う日々が続いている。


学園側との契約で、ある実験に付き合えば実技・学費免除のうえ卒業まで保証させてもらえているのだが最下位は不味い。


実技が最悪なんだ実技が。


このままだと、官僚的な仕事に就職とはいかないだろう。

前世でも、30を過ぎてから職人になる前に自衛官になっときゃよかったと後悔した覚えがある。

自営業なんか保証ないから、防衛大学は無理でも中卒から自衛官になっとけば微々たる額でも老後にお金入るらしいんだよ。

いくらかは知らないけどー。

38から先の前世は記憶なくて最後はわからないけど、パチンコ狂いじゃロクな死に方してないかも…。

今じゃ、今更すぎてなんにもならないのが悲しいね。


でも、授業でないほうが軍の恩情で単位を稼げるとはこれいかに?


研究に没頭して単位を稼ぐか、真面目に勉強に取り組むか、それが問題だ。



「今日の授業はこれまでとする。それから生徒アティア」

授業の終わりを告げる鐘が響く中、教壇にいた“魔法古語”教師が、クラスメートと共に食堂へ向かおうとしていた私を呼び止めた。


「なんでしょうか?」


「昼食より先に生徒指導室に向かいなさい。お前は教師頭から呼び出しがかかっている。」


「…またですか?」


「またですかではなく返事をしろ!」


「はい」


「まったく、魔法学園に在籍している平民のガキは生意気ばっかりで返事一つマトモにできないのか」


「えあー、すいません」


一応学園の校則の一つに魔力や身分による差別を否定する一文があるのだが、教師の中でも貴族派と平等派と分かれているようでこの教師は明らかな貴族派。

代々優秀な血を繋いで来ている貴族からの方が優秀な魔法使いが生まれやすいのは確かなのだが、彼の場合は権力に酔うタイプなのでたちが悪い。


彼は、ヒドス教師貴族ではないれっきとした市井出身の魔法使いだ。

魔法使いとしては優秀らしく、アマンダ侯爵からの紹介で今年から教師になった人だから、バカにするわけではないが、侯爵家やらの威光に威張る所がおつむが弱さを感じさせる。


「『申し訳ありません』だろう!口の聞き方をしらないのか貴様は!」


「モウシワケアリマスン、生徒指導室に向かいます」



ヒステリックに叫ぶ教師に背を向け教室を出て、階段に向かうとアティアより背の小さな男子が踊場で待っていた。


「遅い、席がなくなる」


「ごめんエリック。また呼び出しみたいだ」


「みたいじゃなくて呼び出しだろう。ここまで聞こえた」


「そう、だから急いでご飯たべないと」


二人は、駆け足で階段を下っていく。

だが、食堂はどの席も埋まっていて、とても座れる状態ではなかった。

しかも、学園生徒は基本的に食事が終わっても席を譲らないという伝統が受け継がれている。

席がない者は、自然と廊下や中庭などに弾きだされ、喧騒から離れた場所で食事をしなければいけないのだ。


「これは、飯は後にしたほうが賢明かもしれんな」


「…食堂どころか、教室に戻れる保証がないんだけど?」


真面目に授業を受けるようになってから一年、記録的な成績降下により、一路最下位を驀進し続けているアティアが暗い笑みを浮かべる。


「仮にも女がそんな表情をするな。仕方ない、俺が上貴族用のパンを貰ってきてやる」


「いいの?」


「パンくらい構わんだろ」


「ついでに、バターはたっぷりつけてきてください」


「そこは保証できんが善処しよう」


「さすが、サンデック辺境伯の御曹司さま」


「うむ、愚民は大人しくしているがいい」


尊大な物言いだが、彼は偉くなる人間なのに実に人柄がいい。

細かい事はあまり気にしないが、人から頼られると何処までも動きたくなる困った性格のおかげで、成績低下していく私をほうっては置けないと甲斐甲斐しく接してくれている。


背の小ささで、女子の人気は他に向いているが、前世の男の記憶を継承している私からしたら、エリックはかなりいい男ではないかと思っている。


「ほら、バターのいらないパンを貰ってきてやったぞ」


「ありがとうエリック」


人の隙間を縫うように歩いてきたエリックが拳大のパンの包まれたナプキンを抱えて戻ってきた。

頭を胸に抱え込むようにエリックを抱きしめたのだが、谷間に埋もれたエリックは、何事もなかったように。


「アティア。嬉しいのはわかるが、無駄の塊で呼吸を妨げるのはやめてくれないか」


毎度の如く、胸ではなく贅肉でもなく無駄の塊ときたもんだ。まあ、エリックは背が小さいだけでなく一つほど年齢が下だが、中学二年か三年で異性の身体を認識していないのは問題がある気はする。

別にこの世界にエロ本とかが無いから性の目覚めが遅いだなんて訳ではない。

同い年の男子達はメイドや令嬢を口説いたり致したりしてるそうだから、エリックはまだそう言った事柄に興味がないのだろう。


「ごめんね」


「気にするな。仕方ないから俺も今日は貴族席で食べるが、明日からはまた一緒食べてやるから安心しろ」


エリックがニコニコと笑いながら、手の上にナプキンを置いた。

髪を背中まで伸ばしいい感じに胸が膨らもうとも、普段からヲスの記憶が混同してるお陰で、女らしさが出ず女子の輪からはずれがちな私を心配しての言葉なのだろう。


私としても、いまだに女の子より男子の輪の中のほうが入りやすく、その中でも一番気安いのがエリックなので異論はないが、間違っても女として見られている訳ではない。


普通は男に色目を使うような噂ながれてもいいような気がするくらい女子から孤立してるけど、周りからはダメな従者(私)を構うエリックと認識されている節がある。


そのため、エリックに恥をかかせるなと、関係ない貴族の従者さんにお小言を頂きながら必死に誤解を解こうとする私がいたりする。


生徒です。間違っても従者じゃないんです。

むしろ世話焼かれるダメ人間ですわ…。


エリックに恥かかせちゃ不味いから頑張ってはいるんです。ただ成績に反映しないだけであって悪気がある訳じゃないんです。


見捨てないエリックが偉大すぎるだけなのです。



「ありがとう」


「用事が終わって時間が余るなら相手をしてやる。必ず戻ってくるがいい」


エリックと別れ今度は、一階の食堂から三階にある生徒指導室へと向かう。

階段を上がりながら中身を確認すると、ナプキンの中にはクロワッサンが4つ入っていた。


口に柔らかく、バターと小麦の上品な甘みが口の中に広がる。

前世のスーパーで期限前日の三割引の四個入袋のクロワッサンとは比べるべくもなく、一度だけ食べたパン屋さんの百五十円のこだわりのクロワッサンより甘味が程よい。


エリックは、こんなに美味しい上級貴族の給食を食べれるのに、毎日私と同じ堅いパンとスープを一緒に食べているのはもったいなくはないだろうか。


機会があったらまた貰ってきてもらおうと誓う。

そしたら、お礼にエリックをうずめて情緒の開花を手伝ってやろう。


エリックも人肌に触れる事は嫌いではないみたいだし、意外に寂しがり屋みたいだからね。

歩きながら2つだけ食べ、他はローブの襟を開いて中のシャツの内側にねじ込む。


多少お腹に膨らみが出来たが、ローブにポケットがないし、隠せる場所がそこしかないから仕方がない。


ローブ着てると誰も彼も寸胴だからこのくらいなら目立たないし構わないさ。



水魔法で指先から飲める水を生み出し口の中を濯ぐ。


証拠隠滅完了、続けて任務にかかる。


扉の前に立ち止まって。


ーノックしてもしもーし。


「失礼します。ノリオサイネー教師に呼ばれたアティアですが教頭先生いらっしゃいますか?」


「なんだ、またアティア君か。生徒指導室は隣だと何度言ったらわかるんだ?」


「わざとですから仕方ないのです」


「わざと間違えるのは間違えとは言わん。教員待機室なら教頭もいるかも知れんが、ここは私の学園長室でプライベートエリアだ教頭の生徒指導室は隣だ」


扉から出てきたのは、学園長でした。


薄くなった頭を隠そうとせず、ナミヘイスタイルを貫く紛う事なきおっさん。

小太りながら油ギッシュでないし清潔感がある中年様だ。

ナイスミドルではないが、ナイスオヤジと勝手に呼んでいる。

責任を他人になすりつけ成り上がったなんて噂があるが、寧ろ他人から責任を押し付けられても舌先三寸で飄々と乗り越えてきた男と思われる。


「まったく、生徒指導もいいが放課後にしてやれんものかね」

そう言いながら学園長は隣の生徒指導室の扉を叩いた。


「教頭先生いるかね」


「なんですか学園長、私はこれから…また間違えたのか」


「うむ、アティア君がまた部屋を間違えてくれてな。何やら大事な話らしいが昼食は取らせてやらんとコイツまた倒れるから飯くらい食わせてやれ」


「こんな生徒に駄飯食わせる必要もないと思いますがね」


「ウチは、生徒の学費がなければ立ちゆかんのだから、PTAから苦情が来そうな発言は控えてほしいね」


蔑むような視線を寄越した教頭先生を学園長が窘めるが、教頭先生は貴族派の筆頭で差別的な思想が誰よりも強い。


そして、私の作りたい道具の情報を軍に売り渡した一番嫌いな人間。


ートリコロ


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