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第一幕

まどろみから覚醒すると、意味の分からないない落書きが手元に残されていた。


「ふぁぁっ、…眠いわ」


16になったばかりにしては立派に育った胸を盛大に反らして伸びをする。


「むこうでもあんま完徹した事なかったんだけど…」


頬に付いた腕枕の跡と机に残されたヨダレのしみを無視して少女は感慨深そうに呟いた。

既に太陽は登り、学園への登校時刻を過ぎている。


長くのばした黒髪に、鳶色の瞳と目鼻立ちはバランスよく、目の下に生息環境を見つけ出した二頭のクマがいなければ、誰もが美人だ答えるだろう。


だが、中身の年齢が前世と今世の合計が50を過ぎているからか、溌剌としたイメージはなく、生きるのにくたびれた中年サラリーマンのような雰囲気を漂わせている。


若々しくキチンとすれば、美女の仲間入りをはたせそうな容姿をしていても本人にその気がなければ意味がないのだ。


そして彼女は、手足をダラリと伸ばして呟いた。


「ああ、まじ学校辞めてぇ~」


昨日脱いだ制服は、いまだ床に放置されたままでいる。


踝丈のやたら裾の長いスカートがまたイライラするので、彼女なりに制裁を与えている最中のつもりでいるのだ。


前世は日本にいたのに38で不慮の事故に見まわれた。

建築現場で働いていたが、中卒の口下手で仕事も上手に取れず、手間で言いように使われていた。今度の人生では、もっと上手く生きてやると誓ったが、馬鹿と性格は死んでも治らないようだ。割とのどかな田舎に産まれたが、通りすがりの騎士に魔力の高さを見込まれ、騎士の知り合いの貴族に“養子”として引き取られた。

育ててくれた両親には少なくない額の謝礼が渡されたらしいが、紛れもなく人身売買であってそこに私の意志は含まれてない。

農家も相応の苦労はあるのだろうが、まだ“現代日本”や都会に生まれるよりも牧歌的なソコは生きていけそうだったが今更な話であるし、なにより農家の四人目の娘でありながら、破格のレールに乗り上げてしまった。


前世ではまったネットゲームの“ちょっとくらいなら”から始まる課金地獄。まさにあの様なチリツモ具合で、淑女教育とその外の教育にかかった費用が雪だるま式に増えていく。


養父は悪い人ではない。

いっそ悪人であったならなんの柵もなく学園から姿をくらませられそうなものだが、居心地を与えてくれた養父に何かで返してやりたいと願うほどには感謝をしている。


既に数回サボったが、過去に出した便利道具系の研究とあって大目に見て貰っている。


チャリとか折りたたみ式の台車とかだが、部品が多く値段の高いチャリはともかく、台車はダンジョンの中ではなかなか活躍を見せているとの話だ。


とまあ、魔道具・普通の道具に関わらず、新たな道具開発は学園卒業の必修過程になっている。


目的の為に養娘が学園をサボった所で養父ならば怒りはしないだろう。


「足漕ぎのアヒルの開発に軍が絡んで来るとは思わなかったな。同じデザインで開発中とかありえねぇし…」


現代知識パクッてりゃ天下だと考えいくつか便利な物を開発したら、夜中に軍の技術部が乗り込んできて、書きかけの設計図を接収されるようになるとは思わなかった。


理由は、足漕ぎボートの設計図が軍の機密と類似しているからだと、何でアヒルに着目したのか理由聞いたら、開発初期からのデザインとか…。


しかも、馬鹿げてる話だが、遊び心で翼書いといたら、向こうのは魔道具として空も飛ぶつもりでいるらしいらしいぜ?


軍事機密なんてのは誰が考えたのか明らかにされないからこその“接収”なんだろう。


どこぞの貴族の子息様とかが“協力者”として名前をだしてくるんだろうけどさ。


…が、アヒルの海軍なんか恥以外の何者でもないから、軍事利用出来そうな物はとりあえず止めておくのが正しいのだろう。


前回のデコチャリ擬きの、三輪装甲チャリを作ったせいで、今では監視がついてるみたいだ。


そうでなければ”アヒル”のボートなんか考えつくはずもなし。


夕べはロボットアニメのデザインを思い出しながら書いていたのだが、絵心がないからロボットに見えないのが難点で、ソード付きライフルとか、シールドクロウとか、ファ〇ね〇とかのつもりだったのが、一晩たつと包丁セットとイカと魚の刺身に見えてて不思議で仕方がない。

中途半端な時間に目を覚ましたので朝飯も逃してしまっている。


「なんかあったかなー」


薬品とビーカーの置かれた棚まであるき、魔術の実験の材料として貰ってこれる物の中から幾つか木の実を取り出してボリボリと食べ始めた。


都会では食べる事のない魔法素材でも、田舎に産まれた彼女からからしたら立派な食べれる物で、薬品のラベルがはられた瓶の中身は酒だったりジュースだったりする。


薬品保管庫のふりをした食料保管庫はこうゆう時に活躍してくれる。

足漕ぎアヒルの腹いせに、新たな道具開発に取り掛かるも、その足掛かりとなる記憶を掘り起こすのがまた一苦労するのだ。

異世界人や転生者が余りいないとは言え、その痕跡は数多く存在する。


地脈を利用した便利な“ネットワーク”に、前世では全く縁のなかったパソコン。

携帯まである。


その割に誰もチャリを作らなかったのは、馬車などの移動手段がわりと普及していて自分で漕ぐスタイルが流行らなかったから作られなかったのではないかとアティアは考えている。


木のタイヤは石畳でブレーキかけても普通に滑走するからな!!

因みにブレーキはトロッコのブレーキと同じタイプを採用しているために、本体に取り付けられた鉄の棒を踏むと、馬車と同じ木製の車輪にニカワで皮を接着した、タイヤの平面部分がガリゴリと削られる。


特許なんかないし、いくら発案しても利益だの何だのは入らない。名誉も“優秀な生徒を育てた”学園に全部もってかれんだよな。


卒業時に多少の口利きをしてくれるだけで、此方に大したバックがない。


「開発やめて普通に授業受けるか…」


スカートが嫌で道具開発に逃げたのだが、証拠を丸ごと接収されて成績に反映しないのではロクな事がない。


明日からは我慢して卒業まて普通に授業を受けよう。


そうしてアティアは、平凡な女生徒としての生き方をすると誓った。



翌日、目の隈を残したまま教室に入るとクラスメート達が“明日は槍が降る”と驚かれ、一週間通い続けたら、教会と関係の深い貴族の令嬢が“悩みがあるなら伺います”と、聖杖を模したネックレスを手に真剣な面持ちで話しかけてきた。


―イジメだろうか?


( ̄人 ̄)多謝

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