捕らわれても
養子縁組みは10才までと言うのは近隣諸国で決められているらしい。
学園時代の方がむしろ覚えていない気がするが、私の記憶も曖昧なくらい幼き日の事。
内緒で訓練していた魔法。それを使う所を通りがかった騎士に目撃されると言うちょっとアクシデントにより、私は子沢山家族に売られ田舎から出て来た。
捕まるまいとさんざん暴れたせいか、王都に行くに普通の馬車から、奴隷や犯罪者を輸送する檻のような馬車で輸送された。
それでも、まだ何度か抜け出したりしたのものだ。
何故にか騎士の一個小隊に護送され、“くぬ野郎”と思いつつ苔の一念で一度騎士達を出し抜いて逃走したがすぐ捕まった。
王都についた私は、大きな屋敷に連れて行かれた。
いよいよ変態紳士のオモチャにされるのだと思い暴れたが騎士達に敵う筈もなく、“諦めろ”と諭されながら、両側からロズウェル事件の宇宙人のように一人の男性のもとに連行された。
執事に案内されたのは、二階の執務室らしき部屋。
道中一度も緩められなかった手は既に感覚がなくなっていた。
「その子がそうかい?」
嗄れた声に身じろぎ一つ出来ず唾でも吐きつけてやろうと思案しながら声の主に目を向けると、細面にかけた四角いメガネのオッサンがいた。わりと主張したタラコ唇に薄い頭をバーコードに撫でつけたその人はまるで疲れきったサラリーマンのような男だった。
なんとなく、苦労してそうだと子供ながらに今の“養父”に同情したものだ。
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「アティ、理想の男性を教えてくれないかっ!?」
いつものようにやってきたエリックが、挨拶もそこそこに受付カウンターに乗り上げる勢いで質問してきた。
「…理想の男性像なんかないよ?」
「!?」
エリックが私の返しに衝撃を受けているのだが何があったかは想像に難くない。
大方、女子の会話を聞き取った時に偶然そう言った内容だったのだろう。
休み時間にそんな話してると、瞬間的にその会話をしてる女子以外の雑音がぴたりと途切れて、耳にしてしまう時ってありますよね。
因みに、悪口をしてる時にも訪れたりします。
「では、押し倒さないのだな?」
「押し倒しはしないけど、それは一体なんの話?」
「最近では女から押し倒すのが主流なんだと聞いたのだ」
自信満々に胸を張るいたいけな少年。
ねぇ、だーれ?この子にそんな話聞かせたのは。ねぇ、だーれ?
「あのね。男が女を押し倒すならまだしも、女が男を押し倒す事はまずないからね」
「だが、メリッサ嬢が男は皆に受けも攻めもアリアリだから押し倒すべきだと話していたのだが…」
―腐ってたか?
腐教してんじゃねぇよ神殿娘。腐教じゃなくて布教しろよ!?
「もしかして、メリッサ嬢は組み技に対する意識の甘さを指摘していたのではないかな?」
「な!?」
「神殿は護身術があるけど、騎士達は組み技を学ぶ機会があまりないからそうした話しをしていたのでは?」
「…そうなのか?」
「きっとそうだよ。授業に組み技がないから、女性にも自ら組み技を取り入れ自衛するように話していたのでしょう」
「そうだったのかも…」
よしよし、イイコイイコしてやろう。
「だが、アティは子供時代に騎士の一人や二人押し倒して逃げてみせる話していただろう」
「うん、逃げるためだったし、やっぱり理想の男性像とは関係ないでしょう?」
「はっ!!」
目を見開いたエリックの目からウロコでも落ちそうですね。いよいよ言いくるめられそうな…。
「エリック様こんにちは。館長と一体なんの話をされてるですか」
館長と一体なんの話をされてるですか」
「アティが騎士を組み伏せた話をしていた」
「ははぁ、そうでしたか。よくわかりませんが、館長いつそんな事があったのですか?」
やおら顔をだしたイケメンにエリックは迷いなく答えたけど、違う話しだったでしょう。
特に疑う様子もなくイケメンも聞き返してきましたけど、どうして疑いもしないのか。
「組み伏せた訳じゃなく騎士数人の包囲を出し抜いてみせたただけの話ですよ。養子になる前ですから、多分八歳くらいじゃないですかね?」
「ずいぶん小さな頃ですね」
「でも、小さい頃ですから、多少記憶が盛られてる可能性は否めませんよ?」
「館長ならやりかねませんから」
「…アティなら」
なに頷いてるの君たち。
まあ、ごまかせた様なので良しとしますが。
理想の男性像とやらは、イケメン同人の話でしょうし。
メリッサ嬢がエリックが聞いた訳じゃないよね?
そう願いたい。