ポジショニング
「なるほど、唇と触手に見えるのは花と蔦ですか…」
エリックによく似た青年が件のハンカチを手に会いに来た。
正確には朝顔だけど、こちらに朝顔はないから説明しても分かんないから、紫色の怪物扱いだわ。
なんてしかも、それを他人に酷評されるとなれば尚更悪い。
「君は絵心が全くないね」
「ぐっ、わかってます」
さて、私の前で難しい顔をしているのは、先代の侯爵でエリックの曾御爺様。
ハイエルフとからしく、20程度で老化は止まっているらしく、見た目だけならエリックのお父上より若く、スッキリとした顔立ちの青年に見えます。
エルフの因子はとても弱く、エリックの祖父や父親は冒険者をしていた曾お婆様に似ているそうです。
「因みに、意味の分からないハンカチは、自動的に畳まってポケットに収まるだけで、害はないとわかったからアティア君からエリック坊に渡しておいて貰えるかい?」
「ありがとうございます」
「…ところで、発作的に変な物作る癖は治らないかい?」
「癖ではありません。不器用なだけです」
「居直っても良いことないよ?それじゃ、僕はグループの仲間と見回り行くから」
「お疲れ様でしたー」
ペコペコと頭を下げながら声をかけると、サンディック様は「挨拶はガテン系かぁ…」と肩を落としながら図書館を出て行った。
ちな、関係者なので本日も本館利用者は変動ありません。
中庭では、紳士のくつろぎの空間、ステキなカフェがオープンしてまますが何か?
サービスの飲み物では物足りないそうで、彼らに理解ある紳士な方が出店する事になりました。厚かましくも我が侭なダンディズム共の頭の中は、難しすぎて意味が分からん。
酒の持ち込みまで許可したのに、それの何が気に入らないのか。
「安酒を煽りながらの読書して楽しいと思えませんが」
「ブランデーとかにすりゃ、ダンディズムって感じするじゃない」
燭台の明かりと、シックな木製家具が並んでるような暗い部屋限定じゃないとダメだけどさ。
「最近は、近隣の冒険者が身なりに気を使うようになってきましたし、理想の空間を求めているんじゃないですか?」
「…どっかで開業してくんないかしら?」
ここは卑猥な物語をコソコソ読むために解放したんだけど、真逆の方向にいきましたね。
個室まで作ってあげたのに、読ませて欲しいと進言してきた青年が数回見かけただけで後来なくなりましたよ。
「私はダンディズムではなく、冒険者の活動で不自由している若者の、励みになる空間を提供したつもりだったんですがね…」
「年齢層は高くなりましたが、館長の予定通りではありませんか?」
大々的に人が来るあたりから、だいぶ理想から離れましたよ。
「ですが、あの方々はシ《ピュィ!》場…お湯が沸きました」
「そのようですね」
〇コリ場と言わんとしたら薬缶が湯を沸かせた。
デウス何チャラって奴は、オッサンのネタを許されないらしい。
降りてくるのは笑いの神だけで十分か。
「そう言えば、中庭を一般人の社交場として解放し、学者や陰湿なモノと思われていた読書のイメージを“文化”として広めた館長の機転に神殿も注目しているらしいですからね」
「…なんで宗教がでてくんのかね?」
「人類を支えその発展に貢献する者であれと、教義の中にあるそうですよ」
絶滅するような少子化まではどう考えても行かないと思うけど、本来の自家発電による無駄玉の使用は教義に反してますね。
漁夫の利?いや、災い転じて…か。
「注目される事ではないので、神殿関係からの接触はないと思いたいですね」
「謙虚ですよね館長は」
「謙虚ではなく、恥ずかしい本が検挙されたらどうするんですか」
「…あ、それもありましたね」
むしろ、そちらがド本命ですから大変な事になりますよ。
神を前に嘘はつけん、正直にシピュヒなど話したら一体どんな目で見られる事か…。
―破門か
にしても中年とか、中身プラス私の年齢くらいの高齢な人がわりかし居心地良さそうに寛いでいるのなんでだ?
類友?
まだ、私働き盛りにも達してないのに嫁さんの愚痴や、お見合い話しするのに引き止めるの止めて欲しいな。
あ、そうかこの人達みんなどこかしら似た雰囲気があると思ってたけど位置取りが似てたのか。
―窓際族。
まばらに見えて、みんなさりげなく窓から見える位置にいる。
そう、マンガネタを活用できないオッサンだからアティアも微妙な使い方しか出来ないのだ。
プロローグ的なら話を作品冒頭に配置しました。