密かにカルチャー
娯楽本を読む男は軟弱。そんな時代が終わりを迎え、紳士の嗜みとして懐に収まる小説流行ると、本が印刷され大衆に普及する時代に移行していった。
男が中庭やカフェで本を読む文化の走りは、ある図書館が一般に中庭を提供し男性達に気軽に書籍を読めるようにした事から始まった。
また、当時の神殿に冒険者や貴族から図書の女神像が神殿に寄贈され“本の女神”が新たに作られたとの記述も残されている。
その中で最も有名なのは、本を抱え子供をあやしながら優しく微笑む少女像だろう。
S級冒険者が引退する時に寄贈したものだが、数百年後の暗黒期まで神殿に鎮座し、最後のミスリル武器を作るときに大いに役立ったといわれている。若いときの恩人である件の図書館の館長をモデルに寄贈された物で、少女は理解力がある知的な女性であったとされている。
ただ、それ以外の女神のほとんどは小さく可愛らしい少女の姿をしているのは有名な話である。
だが、女神像ではなく人であったため宗教には至らず。神殿での扱いは数百年の後も聖女として扱われた。
エリックに構われながら黙々と作業をするアティは立派な大人と見られていたようだ。
ただ、少女像の中には、やたらと誇張されている物も発掘される事がある。
それらは見つかり聖女に祭られた時の、反対勢力によって作られたのではないかと、一部の宗教学者や歴史学者の間で調査が進められ続けている。
だがそれは、遥か未来のお話。
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本館は、閑古鳥が鳴いているが、中庭の至る場所で読者をする姿が見られるようになった。
解放から僅か数日で信じられないほど利用者が増えた。
今は、受付ていないので断りつづけているが、利用料として多額の寄付金を納めようとする者もいた。
ウチはあくまで、侯爵寄贈、街管理、警備隊常駐の安心安全の無料図書館です。
もうこの図書館は、倉庫を本館にしてもいいんじゃないかなと稀に思う。
商売にしたら儲かりそうだけど、オッサン(中の人)が調子に乗って有料の図書館カフェを経営したら客なんか来ないんだろうなと思うよ。
これある意味フラグですよね。
「ああ、お茶がうまい」
受付カウンターで、湯呑みの緑茶をひとすすり。
…至福。
「館長、お茶(紅茶)でもお出ししましょうか?」
「緑茶があるのでいりません」
「そうですか…」
前に一度飲ませたら、苦いといいながらミルクと砂糖で緑茶を汚したイケメンが、心配そうに急須と私を見ている。
この渋さがわからん奴には、出涸らしループの奇跡が理解出来ないらしい。
二番三番当たり前、白湯になったら床に撒いて箒で掃いたら肥料として植木鉢に捨てるんだ。よく考えたら、一匙ひとつまみがここまで酷使される飲み物もないよなぁ。
ポイされる時にまで利用されるとか日本のサラリーマンみたいで緑茶も大変だのぅ。
新しいのに変えるまでに大量に作れるから日本で緑茶が根付いたのかもね。
―ああ、渋茶が香る。
お茶請けにお手製の煎餅をバリンバリンと音を立てるのがまた良い。
「ああ、館長の女らしさはどこにいったのでしょう」
目の前で、大げさに嘆くとかケンカ売ってんですか?
「…確かに、淑女らしさはないだろうけど、煎餅うまいって言ったじゃん」
「美味しいのは認めますが、もっとこう食べ方とかあるでしょう」
「…はぁ、わかった。わかりましたよ。」
「わかってくれればいいのですが」
「つまり、お前はこうすればいいというのだろ」
煎餅を割って湯呑みの中に浸す。
「あのっ!?私は別に食べる事を責めたつもりなど!」
「いちいちうるさい。黙ってみてろ」
湯呑みから取り出した煎餅はしっとりと濡れている。
しっとり柔らか音のたたない濡れ煎の出来上がり!
「お淑やかに見えるでしょう」
モムモムと口の中で攪拌していると、「…むしろ世代を飛び越えてババ臭さしか感じないです」と、悲しそうに感想を述べるイケメンがいた。
年寄り向けでダメなら煎餅で、どうお淑やかを演出しろと言うんだ。
クッキーや甘味はフライパンで作れないから高いんだぞ?
つぎは揚げ煎でも与えてみよか。緑茶に揚げ煎、これも王道だよね。
ヤック・デ〇〇〇ャー!