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血戦

――格納庫

 ジンはサーヴィングから降りると、床面に座り込んだ。

 ストライア人達の死。それが重くのしかかる。

 第一印象はいけ好かない連中であったが、共に戦ううちに親近感は湧いていた。その矢先の出来事である。

 懐から取り出したカプセルを眺める。

 この中に入っているのは、彼らの子供の胎芽。せめて生き延び、日の目を見せねばなるまい。

 と、目の前に影が落ちた。

 顔を上げる。

「フィリア……」

 見知った顔。しかし……

 彼女が抱えている“もの”を見、絶句する。

 それは、大型の鳥、いや小型獣脚類恐竜を模したロボットの様にも見える。

 吻部の突出した顔。羽冠状を思わせる羽状の毛を戴く頭部。長い首。三本の指とフリンジ状の羽毛を備えた両腕と、長い尾。そして跗蹠(ふしょ)骨が伸長した脚部。

 鳥類に近縁な小型肉食恐竜がそのニッチを変えることなく生き延びていれば、これに似た姿になっていたのであろうか?

「レゾリニアのギィク。ギガゲルクのパイロット」

「そうか……」

 一度助けられた相手、ではある。

「そういえば、この格納庫に居たんだよな?」

「ええ。でも彼は、私達と距離を置いていた」

「何故?」

『彼らと私達は、領土を巡って相争う仲だった』

「なるほどな……」

(対立する相手という事か)

 ジンは心中で独白する。

「それでも……私達と彼との間には、奇妙な連体感の様なものがあった。それは、故星を共にするものの(さが)なのかもしれない」

「……つまり、彼らも同祖であると」

「……おそらくは。我々の祖は、“種蒔くもの”と呼ばれる巨人により、滅亡に瀕した故星から救い出された。そして彼らやアルトーマ、ラグアザクと称する者達にも、同様の伝承があった」

「アルトーマ、それにアグアザク、か」

「軟体動物型と、節足動物型の知的生命体だ。私やストライア人達が囚われた時、彼らもまた、この天体に囚われていた。しかし、エズマゼズとヴェレントにより……」

「……そうか」

「皆、いなくなってしまった。そして私だけが残された……」

 彼女の声が震えた。

「フィリア……」

 ジンはその肩をそっと抱く。

 その肌は硬質な外観とは違い、柔らかく、暖かかった。



――数日後

 ジンは再び戦場へと舞い戻っていた。

 高重力に高気圧。そして閃く稲光り。

 視界がほとんど無い状態の中、レーダーを注視しつつ、最も近い場所にいる敵の出方を探る。

 相手は数十キロ先にいる、全長数百メートルと推定される飛行物体。それはじわじわとこちらへと近づいてくる。

「どいつだ? この機影に相当するのは……」

 レーダーの機影を、以前聞いていた敵メンバーの特徴と照合していく。しかし、適合するものはない。ただ一つの例外を除いて……。

「まぁ、進化因子のせいで外観が変わっちまったかもしれんしな」

 無意識の、現実逃避。

 しかし、非情な現実が目前に突きつけられる。

 現れた敵機。それは……

「まさか……」

 ジンの背に、冷たいものが走る。

『あなたの相手は、私』

 銀に輝く、紡錘形の船。

 アトラス連合の探査船、ノクトフィリアだ。

「クソッ! 戦わなきゃならねぇのかよ!」

 吐き捨てるジン。だが、ノクトフィリアからのビームは容赦なくサーヴィングを狙う。

『貴方とは戦いたくない。でも、接触した以上は全力で戦うのはここでの掟』

「チッ……」

 とりあえず反撃のビーム斉射。

 ノクトフィリアはかわすそぶりも見せず、突進してくる。

「こっちの攻撃は効きやしねぇのか!? ……いや、待ってくれよ!」

 サーヴィングの砲撃を受け、その船殻に穴を穿たれながらもノクトフェリアは突進してくる。まるで、相討ちを狙う様に。

(クソッ! これじゃ無理心中だ!)

 突進をかわし、エンジンと思しき箇所にビームを撃ち込む。

 だが、その動きは止まらない。

「……っ!」

『どうした、“地球人”? その程度の覚悟で私と戦うつもりか?』

「チッ……」

 ストライクランサーにプラズマ刃を発現させ、構える。そして、突撃。

 そしてすれ違い様に振り抜き、船の側面を斬り裂いた。

『……うぅっ!』

 かすかに聞こえる悲鳴。しかしそれでもなおノクトフィリアはこちらに向かってくる。

「クソッ! やるしかないのか?」

 再びランサーを構え、ノクトフィリアに狙いを定める。そして……

「!」

 嫌な予感が脳裏を掠めた。

 反射的にサーヴィングを飛び退かせる。

 直後、その空間を虹色の光が薙ぎ払った。

「エズマゼズ!? こんな時に……」

 しかし振り返った先にあったのは……

「水晶の……竜だと!?」

 それは、まさしく(ドラゴン)の姿をしていた。角を持つ頭部。長く伸びた首。強靭な四肢と翼を持つ胴体。そして鞭のごとき尾。

 それは、変貌したエズマゼズの姿。ギガゲルクを倒し、その進化因子を取り込んだ為か?

『皆の仇!』

 フィリアの声。いつも冷静な彼女とは思えぬ、感情的な声。

「待て! いくら何でも無茶だ!」

 粒子ビームでエズマゼズを牽制しつつ、ジンは慌てて追いすがる。

 だがフィリアは耳を貸さない。

 ビームを乱射しつつ、エズマエズへと突っ込んでいく。

 そして、

「避けろ!」

 虹色の光が水晶の竜の口腔より溢れた。

 その光はノクトフィリアを捉え、その船殻を溶かす。

『ああっ!』

 フィリアの思念。

「チッ……このままじゃフィリアが危ない」

 サーヴィングはストライクランサーとバスターシールド、そしてバックパックに装備された全砲門を開く。

 そして、

「喰らえ!」

 多数のビーム、そしてミサイルがエズマゼズを襲う。

 しかし、エズマゼズのその体躯は、それらをいとも容易く弾き、防いていた。

「……防御力も強化されてやがるか! ならば!」

 ブースターユニットを切り離すと、それに装備されたジェネレーター直結の大出力粒子砲を展開。そして、眩い光の帯がエズマゼズを撃った。

 エズマゼズは再び不可視のフィールドで防御。

 しかし、その直後。

「もらったァ!」

 その背後に瞬間的に移動していたサーヴィングがストライクランサーのプラズマ刃を振り下ろす。

『……!!』

 声にならぬ咆哮。

 深々と背を斬り裂かれ、エズマゼズは身を悶えた。

 もう一太刀を放つべく、サーヴィングはストライクランサーを構える。

 しかしその直後、エズマゼズの傷口が大きく裂けた。

「何!?」

 竜の身体は徐々に崩れ始めた。

 だがそれは致命傷を負ったからではない。ダイヤモンドダストとなって散りゆく竜の残骸の中から、別の“何か”が姿を現わす。

「脱皮かよ……」

 ジンの目前で、エズマゼズは新たな姿を顕現させた。それは……

『水晶の……巨人』

 フィリアの声。

「……擬態か」

 その姿は、サーヴィングに似ていた。丁寧な事に、ストライクランサーとバスターシールド、バックパックやブースターユニット及び各武装まで真似ていた。

「!」

 エズマゼズが持つ巨大なストライクランサーが光の刃を発現させ、サーヴィングに斬りかかる。

 しかしサーヴィングはそれを回避。

「チッ……コイツ!」

 そしてプラズマ刃を閃かせ、エズマゼズに斬りかかる。

 横一文字の一撃。またしても、声にならぬ咆哮が上がった。

「もう一丁!」

 回り込みつつ、ストライクランサーで斬りかかろうとし……

「!」

 エズマゼズの反撃。光の刃が、サーヴィングを襲う。

 しかしそれは、軽々と躱した。

 ジンは思わず軽口を叩く。

「へっ……遅いぜ。マネるんなら、もっと上手くやりな!」

 が、その攻撃の目標はサーヴィングではなかった。

 その背後。そこには……

「しまった! フィリア!」

 探査船ノクトフィリアはプラズマ刃で半ばまで斬り裂かれていた。もう一撃喰らえば、敢え無く最後を遂げるであろう。

「しまった! ……ヤロウ!」

 このままフィリアをやらせるわけにはいかない。

 精神を集中。そして、機体のすべてのエネルギー系をシンクロさせる。

 そして湧き上がる、巨大な“力”。

 サーヴィングは光をまとった。しかしそれは、先日までの、淡く赤い光ではない。まばゆいばかりの金色の光。

 そして、両椀にあるサブジェネレーターのリミッターを解除。そして周囲にスパークを撒き散らす両の掌を開き、突き出した。

「リミッター解除。炉心解放……喰らいな! プロミネンスキャノン!」

 双掌から放たれたのは、小さな恒星のごとき超高温高圧のプラズマ塊。

 電磁フィールドにより封じ込められたそれは宙を飛び、エズマゼズの直前で弾けた。

 恒星の表面温度に匹敵する光球が現れ、膨大な熱量が解放された。そして凄まじい上昇気流は巨大なキノコ雲を生む。そしてその直下では嵐を呼び、猛烈な雷光が戦場を照らした。

 しかし、その照らす先、キノコ雲の直下には巨大なクレーターが形成され、動くものは何一つ存在しなかった……。

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