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乱入者

――しばしのち

 ゆっくりとルグガレ……が地表に降下してくる。

 それは、勝ちほこるかの様に、光の柱が穿った立て坑の傍に降り立った。

 そしてその機体を、戦い続けるアスティユスとエズマゼズに向ける。その光球に、再びまばゆいが宿り……

『チッ……』

 アスティユスの、苦虫を噛み潰した様な思念波。

 しかしその時、上空に異変を感た。

『まさか……』

 その上空、人工太陽は少しずつ輝度を減じている。と、その淡い光の中に、一つの影が浮かび上がった。

 バックパックとブースターが合体した飛行ユニットの上で、ストライクランサーとバスターシールドを構えて立つサーヴィングの姿があった。

 そして、跳躍。

『喰らえ!』

 ストライクランサーを構える。そして、迎撃のために放たれたビームの奔流をかいくぐり、一気に急降下。

 振り仰ぐように上空へと向いたルグガレ……の光球に、長大なプラズマの刃が突き立てられた。

『……ル゛ア゛アアァァァ!』

 絶叫とも取れる“声”。

 光球に収束していた膨大なエネルギーがオーバーロードし、凄まじい光が溢れた。

 そして、爆発。

 強烈な衝撃波が大地を揺るがす。サーヴィングは彼方へと吹き飛ばされ、アスティユスも地面に叩きつけられた。

 解放された熱量は急激な上昇気流を呼び、巨大なキノコ雲が出現する。

 そして、戦場に残されたモノは……



『グ……ウ……』

 サーヴィングはかろうじて上半身を起こし、爆心地の方を見遣った。

 防御スクリーンで衝撃波を防ぎつつ、重力コントロールで体制を立て直そうとしたものの、予想外の大爆発であったためにそのまま吹き飛ばされてしまった。そして高空から地面に叩きつけられたために、機体のあちこちが損傷してしまっている。飛行ユニットも地上に落下し大破していた。

 これでは戦闘を継続出来まい。

 爆心地に目をやると、黒焦げになったルグガレ……の姿がある。

 光球を失ってしまった為か、ピクリとも動かない。

『やった……のか?』

 チラと横を見ると、アスティユスが転がっていた。

 こちらはそれほどの損傷はなさそうだが、未だに浮遊することは出来ないようだ。

(エズマゼズは!?)

 あの結晶体のバケモノの姿が見えない。

(まさか、あの衝撃波を受けて砕けてしまったのか? いや、そんなヤワな相手じゃ……!)

 ふと視線を上げた先。

 そこには舞い散るダイヤモンドダストのようなものが見えた。

(……アレは、まさか……)

 ゆっくりとそれらは収束していき、巨大な結晶体の姿を現した。

『……やはり、生きてやがったか!』

 その姿は、先刻よりも明らかに大きくなっていた。

『ば……爆発の……エネルギーを吸収したのか』

 アスティユスからの思念波。パイロットは無事らしい。

 しかし、機体の再起動には時間がかかっている様だ。

(クソッ、このままじゃヤツが漁夫の利を得るだけかよ)

 ここまでダメージを負って敵を倒したのにこの結果とは……

 エズマゼズの姿が再び変化し始めた。

 またその周囲にダイヤモンドダストが現れる。そしてそれは、空へと昇っていった。

『去った、のか?』

 助かった、のかもしれない。あのエネルギーを吸収したために満足したのだろうか?

 しかしその直後、

『!』

 金属がきしむ様な音が響いた。

 見ると、ルグガレ……の多関節アームが足掻くように動いている。そしてゆっくりとであるが機体を起こしていくのが見えた。

『チッ……、光球をツブしただけじゃダメって訳か』

『アレは搭載兵器用のエネルギーコア。機体駆動用は別にある』

『……なるほどな。そんな簡単に倒せるヤツじゃないよな』

『それでも、大したモノだ。我々でも、数える程の回数しかアレを破壊したことがない』

 アスティユスはようやくその機体を宙に浮かべた。

『まさかアンタらに褒められるとはね。だが……あとは頼んだぜ。どうやら俺はもう動けない様だ』

 この有様では、トドメを刺しにくるどころか、『ついで』で破壊されてしまうだろう。

『フン……言われるまでもない。そこで見ていろ』

 アスティユスは敵と対峙し……

『なっ……』

 ルグガレ……の背後の空間がゆらり、と揺れた。

 そして現れる一つの影。

『いつの間に!?』

 アスティユスの声。

 彼らのセンサーにすら引っかからなかった“何か”がそこに潜んでいたのか。

 明らかになったその姿は……

『赤い……巨人!?』

 それは、全長100メートルを超すと思われる、人型の巨大兵器。

 関節などは異なるが、それでも人型の範疇と言えるだろう。

『……新たな兄弟よ』

 脳裏に“声”が響いた。

『兄弟!?』

 大きさは違えど、ドラグーンとも似た人型の兵器。もしかしたら彼らも人類に似た知的生命体なのだろうか?

 ジンは戸惑った様にアスティユスに視線を向ける。

『何が兄弟か! その偽りの姿を止めろ!』

 怒りの思念。

 あの相手と彼らはどうやら犬猿の仲らしい。

『……アレは何者なんだ?』

 ダメ元で思念を飛ばしてみる。

『ヴェレント。宇宙の詐欺師だ』

『詐欺師とは酷いではないか、兄弟よ』

『兄弟と呼ぶな! 汚らわしい!』

『忘れたのか兄弟。大いなる意思に導かれて再び外宇宙に出た日を。そして私の兄弟になった日を』

『……覚えておけ地球人。こやつらは“兄弟”と称して現れ、未熟な知的生命体を啓蒙しようとするのだ。我らは易々とそれに乗り、かつての同胞と戦うことになった』

『同胞……まさか、アトラス連合か?』

『それだけではない。“ヒューリア”の各種族だ。もっとも、その中にはこやつらの口車に乗った輩も少なくなかったがな』

 シンは“同胞”としてアトラス連合を挙げたのはマズかったかとも思ったが、どうやらそれで正解だったようだ。

 それよりも、気になる名称があった。

『“ヒューリア”?』

『我ら各種族の総称だ。かつて滅亡に瀕した故郷から“巨人”によって導かれ、宇宙へ進出した者達』

『その巨人こそが……』

『貴様ではない』

『……なるほど。大体の事情は把握できた』

(フィリアにも確認した方がいいが……おそらく事情は大差ないだろうな)

 ジンは再びヴェレントに視線を向けた。

 赤の巨人が赤い霧をまとった。と、その姿が変じている。

 ゆらり、とその姿が揺れ、かわりに姿を見せたのは、異形の巨体。

 異様なまでに膨れ上がり、肩と一体化した頭部。長く伸び、先端には鉤爪を備えた腕部。そして背後から生えた鋏状の副腕。腹部には、巨大な砲口。そして腰部及び脚部は消失し、巨大な“頭”と置き換わっていた。

『……これがこやつの真の姿だ』

『なるほどな……』

 そして息を飲むジンが見つめる中、その腕の鉤爪を振り上げ……

『何!?』

『キイ゛ーー!!』

 それをルグガレ……に振り下ろした。

 鉤爪は胴体に突き立ち、その黒焦げになった装甲を引き裂く。

 と、その多関節アームがびくりと動いた。

『貴様! まさかそれを狙って……』

『何を言うか。これも宇宙の摂理だ』

 アスティユスからの声にも応じず、ヴェレントはルグガレ……の胴体に鉤爪を突き入れ、何かを探している。

 その鉤爪が動くたび、多関節アームが痙攣を起こした。

 やがてヴェレントはその中からもう一つの光球を取り出した。

 そして、ひときわ大きく痙攣した後、沈黙するルグガレ……。

『これでようやく一人減ったな』

 ヴェレントの頭部がニヤリと嗤った……様に見えた。そして胸部装甲を開き、光球をその中に収める。

『……何を!?』

 戸惑うジンが見守る中、ヴェレントの姿が変貌していく。

 胸部には“顔”と思しき造作が現れ、両の腕は、竜の頭部を思わせる形態へと変貌した。そして下半身を構成する“頭部”からは幾多の触手が現れる。そして各部からスパイクが伸びた。

『ゲフォ……フォ……フォ……。見るがいい。“導くもの”の姿を。我らこそが“種蒔く者”の……ゲフォアッ!?』

「ゴアァァ!」

 ヴェレントのセリフの最中、巨大な影がこの戦場へと乱入してきた。それはヴェレントを跳ね飛ばし、ジン達の目前で停止した。

『な、何だ? メカの……恐竜!?』

 それは、メカニカルな恐竜の上半身をホバータンクに載せた様な姿の兵器であった。

『あ……あれは確か……レゾニリアのギガゲルクか』

 先日は見る機会は得られなかったが、ジンやフィリアやストライア人達と同じ格納庫に収納されているはずの兵器の一つ。

『な……何をするか、貴様ら。この我の邪魔をするつもりか?』

『我らは戦闘の真っ最中だ。油断している貴様が悪い』

 別の通信波が割り込んでくる。

(聞き覚えのある声だ。確か……)

 ジンが振り返った先にあったのは……

『フィリア!?』

 彼女が御する紡錘形の船であった。

『勢揃い、か。まぁいい。目的は果たした。では……さらばだ』

 再びヴェレントの周囲を赤い霧が取り巻く。

 そして空間が揺らぐと、ヴェレントはその中に溶け込むように消えていった。

 それを見届けると、ジンの意識は暗闇へと沈んでいった。

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