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星にコネクト  作者: さくらうめ
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ミレイの正体

 訓練場に衝撃が走った。

 勝負にすらならないと思っていた仕合をスティンが制したのである。


「スティン!」


 ベベル、リリーそしてミレイがスティンの傍に駆け寄る。


「お前。お前すげえぞ」

「本当すごい。さすがあたしの・・・な、なんでもないし!」


 ベベルはスティンの背中をばしばし叩いて我がことのように喜び、リリーはなぜが赤くなって口ごもった。

 ぱちぱちぱち。ミレイはスティンに拍手を送る。


「お見事だったわスティン。最後の一合なんてびっくりよ。考えてたの?」

「構えから突きが来ると思ったからな。君がこれを身体強化魔法って教えてくれなければ思いつかなかった作戦だよ。ありがとうな」

「お役に立ったようでうれしいわ」

「ふむ。俺も何か剣術を立ち上げるか。空中戦の得意な剣術。名付けて飛天――」

「それはやめておいたほうがいいなあ!」


 む。止められてしまった。残念である。


「うおおおおおおおおおお!」


 怒号が聞こえた。無論、オーガストである。


「まだだ。まだ終わっていないぞ小僧!」


 オーガストは心配してまわりによってきた騎士達を振りほどくようにして、スティンに詰め寄ろうとした。


「止めぬか。オーガスト」

「領主様。私はまだ戦えますし、降参もしておりません。戦いはまだ終わってはおりません」

「この試合の主旨はなんであったかな?」

「っつ!しかし」

「これ以上取り乱すことは騎士団の威信に係ることになると思うのだが?」


 オーガストはそうは思わなかった。むしろこのまま負けを認める方が騎士団の威信に大きく係る。自分一人の問題ではない。騎士団全体のメンツの問題だった。


「勘違いをしているようだがな。私が試合を止めたのはスティンを見極めるにはもう十分と思ったからだ。勝った負けたで判断したわけではない」

「は。それは、そうかもしれませんが」

「さて、直に戦ったお主に聞こう。この少年をどう見る?」

「軽薄で人を食った態度は万死に値します」

「ふむ。スティンよ」


 話が進まないと思ったのか、ユリウスはスティンに向き直った。

「はい」

「私が見た限り、お前は人を小ばかにするきらいはあるが、剣筋自体は真っ直ぐで芯が通っていると私は見る。魔物を使い罪なき民を殺害したり、そのことについて偽証するようには思えん。そうは思わんか? 騎士団長」

「む。それは・・・」


 初めてオーガストがスティンに対し、否定的な言葉を控えた。良くも悪くも実直な男である。


「しかし、領主様。それでは今回の騒動はどう説明するのですか? 早々に結論を出し、発表しなくては民も不安になりましょう」

「そのことについて」


 二人の会話にミレイが入り込んだ。


「領主様。今回の件について、私はおそらく説明ができると思います」

「なんと! 真か?」

「はい。私は兄アモンよりある報告を通信魔法で受けました。今回の件はその報告を裏付けるものであると思います」


 スティンはぎょっとした。兄アモン。それは勇者アモンのことであろうか?もしそうなら、この少女は勇者の妹ということになる。ベベルもリリーも驚いた眼でミレイを見た。


「そうであったか。して、その報告とは?」

「外で話せる内容ではございません。どこか室内で」

「ふむ。では、そこの詰め所でよいか。騎士団長。会話の漏れぬ部屋はあるかな?」

「は!それではこちらに」


 こうして、スティン達は詰所へと場所を移動した。

 スティン、ベベル、リリーの三人はミレイの素性にもちろん並々ならない興味を持っていた。移動の最中スティン達はミレイに話しかけた。


「まさか、勇者の妹だったなんてな」

「隠していたわけじゃないんだけどね。照れくさいし、色眼鏡で見られるのは好きじゃないのよ」

「でも、すごいよ。勇者の妹なんて、ミレイさんも強いの?」


 リリーは相当はしゃいでる。勇者の血縁者と話せる機会を得たのだ。気持ちはよくわかった。


「それなりに自信はあるわよ。剣の方が得意かな。魔法は火の簡単なのしか使えないの」

「それでもすごいよ!」

「ありがとうリリーちゃん」

「なあ」

「何? スティン」

「魔物の襲撃について心当たりがあったんだろ? 何で言ってくれなかったんだよ。いらぬ決闘したわ」

「それは自業自得じゃないかしら? なんとか事を収めようとしたのよ? なのにあなたときたら、自分から勝負しようなんて言い出すんだもん。話がどんどんまとまって止める暇なんかなかったわ」

「ぐむ。それはそうだけど」

 

 穴があったら入りたい。これからはもっと慎重に行動しようとスティンは心に誓った。


「まあ、それに面白そうだったし?」

「結局それか!」


 てへっと舌を出すミレイにスティンはツッコんだ。さっきの反省を返してほしい。


「いいじゃない。それに君もあの騎士団長さんにはちょっとムカついてたでしょ?」


 オーガストに聞こえないようにミレイは耳元で囁いた。

 吐息が耳にかかりくすぐったい。あまり女性に免疫のないスティンは少しドギマギした。


「ん?」

「ああいや!まあ、早く俺への疑いが晴れてほしいな。そうすればまた平穏な山蔵生活に戻れる」

「・・・そうね」


 ミレイの躊躇った返答がスティンに不安の影を落とした。

 



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