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星にコネクト  作者: さくらうめ
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勝敗の行方

 まずはスティンから仕掛けた。

 先手必勝。実力差は明白。様子見などしていてはあっという間にやられてしまう。

 まずは上段に一撃。あっさり防がれる。角度を変えてもう一撃。今度は大きく弾かれた。オーガストはそのまま返す刀でスティンの胴を薙ぎにかかる。これをスティンはなんとか防ぎそのままバックステップ。距離を取って二人は静止した。

 周りから歓声が響く。


「なかなかやるな。我流ながら悪くない動きだ」

「そりゃあどうも」

「だが、所詮は我流だ。本物の剣術を見せてやる」


 オーガストは腰を落とし剣を引く。


「オリヴィア流剣術。乱れ突き」


 高速の連続突きを繰り出した。切っ先はそれこそ分裂しているかの様にすら見える。スティンは持ち前の動体視力でなんとか捌いているが直に捌ききれなくなっていく。


「く!」


 たまらずサイドステップで間合いから離脱しようとするが――


「オリヴィア流剣術三日月」


 オーガストはそれを読み、遠心力たっぷりの回転切りをスティンに放つ。なんとか防御をするが威力の乗った一撃はスティンを後方に吹き飛ばした。


 「うわっ!」


 体制を崩したスティンだったが、オーガストは追撃をしなかった。余裕の笑みを浮かべ、スティンが構えるのを待つ。


「なるほど。これが剣術か」

「そうだ。山育ちのサルには決して真似できまい?」

「ところで、技の名前を叫ぶのがオリヴィア流なのか?」

「な、何?」

「叫ばないと技が出せないのか? それとも威力が増すのか?」

「き、貴様! オリヴィア流を愚弄するか!」


(いや、そこでオリヴィア流を一緒くたにするなよ)


 ギャラリーの同門騎士団員達は心の中で盛大に突っ込んだ。

 当たり前のことだが、技を叫ぶのはオーガスト個人のくせであって、叫ばなくてはならない決まりなどない。


「許さん!」


 激高したオーガストはスティンに突撃し、剣を振りかざす。スティンは持ち前の反射神経と動体視力でなんとかこの斬撃を躱し、捌く。

 本来であればオーガストの方がスティンよりも数枚上手である。いかに才能があろうと、魔法で強化しようと、積み重ねてきた経験の差があるのだ。

 だが、スティンの飄々とした人を食った態度が今のオーガストの神経を逆なでした。攻撃は単調になり、慣れてきたスティンは攻撃を捌き続ける。


「はっ!どうした騎士団長。お疲れ?」

「黙れ。小僧」


 息が上がり、攻撃を止めたオーガストをさらにスティンは挑発する。オーガストは頭に血が上り、顔がドス黒く変色していた。


「遊びは終わりだ。小僧」


 オーガストは呼吸を整え先ほどよりも更に腰を低く落とす。空気が変わり、緊張感が訓練場を侵食し始めた。

 

 ユリウスは迷っていた。この戦いの主旨を考えれば、もうここで止めても問題はないはずだ。オーガストは間違いなく大技を繰り出そうとしている。いかに訓練用の木刀とはいえ間違えば、命に係わる。


(やはり止めるべきか)


 制止しようとした時。ユリウスは見た。スティンの顔を。

 笑っている。

 これから明らかに何かを仕掛けようとしているオーガストに対し、スティンは面白い遊びを考え付いた子供のように笑っていた


(何か策があるのか?)


 ユリウスはもう少しこの少年を見守ることにした。


 スティンは試したいことがあった。これまで身体強化魔法をただの精神統一と考えていたスティンだったが、本当に体を強化できるのだとしたら? これまで考えたこともなかったことができるのではないか? 戦いながらそれは確信へと変わった。


(試してやる)


 そう思った時スティンは思わず笑ってしまった。


「ゆくぞ小僧。オリヴィア流剣術奥義。夢の終わり」


 繰り出されるは高速の突き。先ほどの手数重視の突きではなくその威力は必殺。決まればそれこそ悪夢である。

 しかし、その突きがスティンを串刺しにすることはなかった。

 オーガストの背中にスティンが回転切りを叩き込んだのだ。


「な、に・・・」

「三日月だって? 山猿でも使えるもんだな?」


 種を明かせばスティンはただ突進突きに合わせてジャンプしただけである。ただし、三メートル強の大ジャンプだが。

 高速で移動すると視野は狭くなる。それでも一手先を読み左右に避ける程度ならば対応できたかもしれない。だが、真上はどうか? 大の大人の男を飛び越える様なことはまずできない。しかし、身体強化した人間なら? 必殺の一撃ほど繰り出した後は無防備になる。急に突進を止めることのできなかったオーガストの背中を着地そのままにスティンは回転切りを繰り出したのである。

 もしかしたら、オーガストは身体強化したことを想定した訓練を受けていたのかもしれない。3メートル以上跳び上がる人間も珍しくないのかもしれない。しかし、これまで山奥で一人暮らしていたスティンにはそんなことはわからない。

 だから賭け。練習もなしの大胆な賭けを打ったスティンはなんとか賭けに勝ったのである。


「そこまで!」


 あえて勝者の名をあげることなく、ユリウスは試合終了を宣言した。





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