魔物との死闘
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リリーの悲鳴が聞こえた。気づいた時にはナイフを抜いていた。
自分が戦う理由があるとすればそれで十分だ。
駆け抜けてそのまま一閃狼型の魔物に切り付けそのまま駆け抜ける。リリーを護るようにスティンは魔物に立ちはだかった。
「よう。リリー兄貴じゃなくて悪いな」
「あ、な?え?」
リリーは何が起こったのかわからず動転していた。
「な、なんであんたが?お兄ちゃんは?お兄ちゃんはどうしたの?」
「しっ!こいつらを刺激するな」
「な!」
助けてもらってなんだし、正論な気がするが、カチンとくる言い方にリリーはむっとした。スティンはと言えば、油断なくナイフを構え臨界体制をとる。魔物も突然現れ仲間を殺害したスティンに警戒心と敵意を露わにした。
対峙は一瞬で一匹がスティンに向かって飛びかかった。スティンはこれを横にステップして躱し、飛び上がって無防備になった魔物の腹にナイフを突き立てた。
「ぎゃいん!」
魔物は悲鳴を上げそのまま崩れ落ちた。
「す、すごい」
リリーはその光景に目を見張った。スティンはこんなにも強かったのか?
残り一匹はさらに警戒心を抱いたようで、腰を落とし唸りを上げる。先ほどの二匹よりも強かそうで、体格も大きい。魔物はゆっくりと円を描くように動きながら、窺いそして、ジグザグにステップして飛び掛かった。速い。
「ちぃ!」
体格も大きいため今度はステップで躱し切れなかった。
スティンは身をかがめ、アッパーカット気味にナイフを突き上げ、魔物の喉仏を切り裂いた
ざしゅーーーーーーー!!
「ぎゃきぃん!!」
魔物は悲鳴を上げ絶命したが、飛び掛かってきた勢いはそのままにスティンと共に地面に倒れた。
「スティン!」
リリーは思わず声を上げた。
「てっ、てて。大丈夫だ」
魔物の下からスティンは這い出してきた。倒れただけで大きな怪我はしていないようだった。スティンは腰が抜けて動けなくなっているリリーの傍により腰を落とした。
「平気か?怪我はないか?」
「ちょっと、擦りむいただけ」
「そっか」
スティンは安堵して呟いた。その言葉がこれまで聞いたことのないような優しい声だった、リリーの涙腺はここで決壊した。
「ぅあ!うわああああああああああああああああああああああん」
「怖かったろう?ここはまだ危険だ。早く移動を・・・」
リリーをおぶって移動しようとした時、巨大な影が二人の前に立ちはだかった。
「っつ!何」
それは巨大な熊の魔物だった。三メートル強の巨大な体躯がのしのしと体を揺らしながら二人に迫ってきたのだ。
「っぁ・・・」
リリーは言葉を失った。スティンも動揺は同じ。これほどまで巨大な魔物は相手にしたことがない。
「グリズリータイプ・・・下がれ、リリー!」
言葉を発すると同時にスティンは魔物との距離を縮めて飛び込んだ。二人で固まっているところを狙われたら一巻の終わりだ。
「ぐおおおおおおおおおおおお!」
四つん這いで歩いていた巨大熊は立ち上がり太い腕でスティンをなぎ倒そうとするも、スティンはこれを躱し、振り下ろされた巨大熊の腕をナイフで切りつけた。が。
「硬ったぁ!」
針金のような体毛、そして、その下の厚い皮にスティンのナイフは弾かれた。スティンはそのまま勢いを殺さずに回り込み、背中を切りつけるが、やはり刃が立たない。このまま切りつけては先にナイフの方が使い物にならなくなってしまう。
「くそ!皮が硬え・・・」
ここでスティンは一旦、距離を取り呼吸を整える。
小さく、静かに、意識を内に沈め無心となり、次の意識を外に向けそれを全方位に拡大する。自分が世界と一体となっているようにイメージし、大気が自分の血液のごとく体を巡回しているように意識を集中させる。
これがスティンの独自の精神統一であった。これをすると集中力が増し、体が軽くなる気がした。作業自体は一瞬であったが、棒立ちになったスティンにグリズリーは襲い掛かる。
「はっ!」
自らに活を入れスティンはグリズリーの突進を躱す。方向転換しまた突進してくるもこれも躱す。あるいは状態をそらし、あるいはいなし、小刻みにステップして躱し続ける。
「嘘、なにあれ」
リリーが唖然として見つめる。まるで当たらない。当たってしまったらただの布の服一枚のスティンなどひとたまりもないのだが、これが当たらない。躱す躱す躱す。躱し続ける。
「はっ、はっ」
しかし、圧倒的に見えるスティンも実は焦れていた。この極限まで集中した状態は長くは続かない。加えてこちらも攻撃の決め手がない。やはり狙うは柔らかそうな顔しかないわけだが、これだけ動き回る三メートル強のグリズリーの顔を狙うのはなかなか容易ではない。
「せめてもっと切れるリーチの長い武器があれば」
無いものねだりをしていても仕方がない。今はこのナイフが命綱である。何とか隙を見つけて懐に飛び込むしかないと考えていたスティンだったが、ここで敵は思わぬ行動に出た。まるで当たらないスティンに焦れたのか、リリーの方に向き直ったのだ。
「え?」
「な!おいこら」
大声を上げるスティン。しかし、グリズリーの注意は完全にリリーの方に向いてしまった。まずい。攻撃も通じず、タックルをしたところであの巨体が揺らぐはずもない。絶体絶命と思われた時。
ボン!ボン!ボン!!
炎の弾丸がスティンの横をすり抜けグリズリーに直撃したのだった。