王都防衛戦
「城門前に魔物の群れが!」
「なんということじゃ!」
職員が騒ぎ、老人が焦りを見せた。
それはスティンたちも同じこと。
ついにここまでやってきた。
自分たちの街が襲われたのだ。
ならば王都も襲われても不思議ではない。
だが、王都なのだ。
やはり、人間の心理としては王の住まう場所は人間の聖域。人の住まう場所という深層心理が働いて「ここにはやってこないだろう」という、全く根拠のない幻想があったことは否めない。
そんな、甘い幻想を魔物たちはあざ笑うかのように踏みつぶしにかかってきた。
「城の騎士たちはどうしておる?」
「城門の外に向かった。おそらく今頃は戦いが始まっている」
「うむ。で、この魔術ギルドはどのように対処するつもりじゃ?」
「いや、もちろん参戦の指示が上から出てるよ。でも、俺達ずっと研究ばかりでそんな戦闘なんてしたことなんだよ!」
「ううむ・・・」
老人は頭を抱えた。
仕方のないことだ。
魔術ギルドは研究肌の人間が多い。
戦闘向けの連中はみんな冒険者ギルドのほうに行っているのだから。
それこそこのギルドで戦えるのは。
「わしが出向くしかないようじゃの」
老人はゆっくりと背筋を伸ばした。
「導師!」
ミレイもそれに続く。
ミレイの眼は爛々と輝きを増していた。
スティンは思う。彼女は否定するかもしれないが、戦闘になるとこの少女はいつもの温和な性格が鳴りを潜め、猛る戦士になる。
「わたしも行きます!」
「ミレイちゃん・・・」
「わたしはもう守られているばかりの子供じゃありません」
そこには強い意志が感じられた。
特にもう子供じゃないという部分に。何か思い入れがあるのだろうか?
「なら俺も」
スティンがミレイの横に並ぶ。スティンも戦う気は満々であった。
「スティン君。これは模擬線などでは・・・」
「彼なら大丈夫です導師様」
止めようとした老人をミレイが止める。
「彼はすでに戦闘を経験しています。熊型の大型の魔物を倒したこともあるんです」
「ううむ。スティン君。君は・・・」
老人は何かを言おうとしたがそれを呑み込み、頷く。
「では、来てもらおうかの。無理はするんじゃないぞぃ?」
「わかった」
「二人は非難を」
ミレイがべベルとリリーに目を向けた。
べベルはうなずいたが、リリーは何も反応せずに佇んでいる。
「ねえ。あたしも!」
「いかんぞい。リリーちゃん」
リリーが最後まで言い終わらぬうちに、老人が止めた。
「確かに君の才能は稀有じゃ。しかし、まだ今日魔法に目覚めたばかりのひよっこ。戦闘の経験などないじゃろう?」
「それは、そうですけど・・・」
「修行すれば君はこの国を代表する魔法使いになるかもしれん。その才能を今は無駄にしないことじゃ」
「・・・はい」
リリーは悔しそうにうなずいた。
スティンは正直言ってほっとした。
確かにリリーには才能があるのかもしれない。
しかし、だからといって命がけの戦いにリリーが参加すると考えただけで背筋が凍る。おそらくはべベルも同じ思いだろう。
「では、行こうかの。なんとしても魔物をここで押し止めるぞぃ」
『はい!』