魔物襲来
街が燃えている。
火事?
まずはそれを考えた。だが、煙は一か所ではなく、ちらほらと上がっている。
まさか、放火か?
そこまで考えてさらに目を凝らすと、スティンは初めてある存在に気づいた。
人よりも巨大な獣のような存在に。
「魔物!!」
「おいスティン!何が見えるんだ?どうなってる?」
「魔物が街を襲ってる!!」
木の下から叫ぶベベルにスティンは叫び返した。
そのまま身軽に木から滑り落ちる。
「魔物だって?見間違えじゃないのか?」
「俺の目の良さ知ってるよな?間違いない」
「いや、だって、おかしいだろ!魔王は倒されたんだぞ?なんで魔物が街を襲うんだよ!?」
「こっちが聞きたい。なあ、本当に魔王は倒されたのか?」
「そう聞いてる。ああくそ!俺だってその場にいたわけじゃないからわかんねーよ!
でもな。魔王討伐したって知らせは国から正式に出たもんだぜ?まず間違いない」
「じゃあ、なんで・・・」
「勇者アモンはこの国が出身だ。もしかしたら魔物はその報復に・・・?」
「そんな知能、魔物にあるのか?」
「俺たち今年で十六のまだ成人に毛の生えたガキだぜ?そんなのわかるわけないだろ」
そこまで話して二人の会話は止まる。
二人がここでどれだけ議論したところで、街が襲われているのは変えようのない事実だった。
スティンは頭を切り替えベベルに尋ねた。
「どうするベベル?魔物がいるのは街だ。ここにいれば安全かもしれない」
「馬鹿言うなよ。街には家族がいるんだぞ!」
「だな」
スティンはベベルの意思を確認すると、腰に差してあるナイフを一度握る。
正直街に降りたくはない。しかし、場合が場合だ。親友の大事な人を何としてでも助けぬく。
それがこれまで自分の友人でいてくれたベベルへの恩返しだと思った。
「行こう」
「スティン?一緒に行ってくれるのか?」
ベベルはスティンを見つめた。スティンは街に良い印象を持っていない。
身内などもいなかったはずだ。ハッキリ言ってついてくる理由がない。
それを見透かしたようにスティンは笑う。
「水臭いぞ?それに狩りで場合によっては魔物を倒すこともあった。力になれるかも
しれない」
スティンはナイフを抜き、手の上で器用に回してみせた。伊達に一人でこんな山の中で
生活しているわけではない。大の大人よりも器用に立ち回れる自信があった。
「すまん。行こう」
スティンは頷くとナイフをしまい駆け出した。
ベベルも続く。
野山で駆け回って育ったスティンの方がベベルよりも走力は上だ。
一足先に街まで駆け下りようかと考えたが、この近くにも魔物がいる危険があると判断したので
ベベルの足に合わせて走ることにした。
「スティン。先行ってくれ」
それを察したのか。ベベルが声をかけた。
「・・・いや」
「大丈夫だ。遭遇してもまともの戦いやしないよ。頼む。父さん、母さん、妹を護ってくれ」
顔をくしゃりと歪めて頼むベベルを見て、スティンは頭がチリチリした。
下り坂に任せ一気に加速する。
駆ける!駆ける!駆ける!
今は余計なことを考えない。早く街に着くことしかスティンは頭になかった
「うぉ~はっえぇ~。・・・すまないスティン。頼んだぜ」