リリー才能開花
べベルが鉢の中の土をいじりながらなんとか少し土を盛り上げる程度に操れるようになったころである。
リリーはこれまで味わったことのない高揚感を味わっていた。
「うぁぁ~すごーい!」
リリーが指先を下に向けてくるくると回すと床の塵が集まり、超小型の竜巻となってくるくると回り始めた。
老人は軽くレクチャーしただけ。それだけでリリーは指先に魔力を通すことを覚え、風を操ることができたのである。
「うーむ。魔力量だけでなく魔法の才能もあるとは、これはマジで50年に一度の才能かもしれんの」
まるで自分の再来の様じゃわいと、老人は腕を組みながら頷いた。
その光景に唖然と見つめるのがミレイである。
正直に言えば、ミレイはべベルとリリーはおまけのつもりでいた。
それがまさか、これほどの才能を持つ少女だったとは夢にも思わなかったのである。
剣で負けるとは思わない。
しかし、土属性と相性のよかった自分に納得できずに無理に火属性の魔法を習得し、すぐ容量オーバーとなり、一つの魔法しか習得できなかったことを考えて、目の前の才能に嫉妬を覚えずにはいられなかった。
彼女ならば、風だけではなくほかの属性の魔法も習得可能だろう。もしかしたら、上位の雷属性の魔法を使えるようになるかもしれない。いや、性格に問題があるとはいえ、事実上我が国最高の魔法使いである導師がここまで絶賛するのだ。覚えるに違いない。
スティンだけではなく、これほどの逸材を目にするとは。ミレイは若干焦りを感じていた。
「これって、うまくすれば飛べるかも。あ、スカートだからちょっとやめとこう」
背筋がぞくっとした。
今、彼女は自身の感覚で空を飛ぼうとして止めた。
感覚として飛ぶことをすでに理解していた。
もし、スカートでなかったら?
そう考えて、ちょっとクラっとしてしまうミレイである。
「リリーちゃん。あそこにもう古くなって使っていない椅子があるじゃろう? あそこに魔力を飛ばすイメージをしてくれんかの?」
「えっと、はい」
リリーは言われるがままに魔力を集中し放った。
風が吹き、それが椅子にぶつかり、あわや倒れそうになる。
「おおー!」
これだけで、これまで魔法に触れたことのないリリーは満足げだが、老人はもう一つ注文を付ける。
「その魔力に殺気を込めてくれんかの。そう、あそこに自分を襲う野獣がいるのをイメージして」
「む、難しいですね。えーと、野獣野獣。スティンとか・・・」
老人は普通に野獣といったのだが、リリーはどうも男をイメージしたようだ。
同じように魔力を集め、今度は殺気をもって風を送る。
すると、生み出されたのは先ほどの風とは明らかに違う風の刃だ。椅子の足をスパッと切りつけると椅子はカコンと音を立てて倒れた。
リリーは自分の口に手を当てて驚いたが、老人は満足げだ。
(ちょ、ちょっとちょっと!)
ミレイは仰天した。
まだ、魔法を教えて三時間ほどしか経っていない。
それなのに人を殺傷するほどの魔法を使えてしまった。
(この子、このままいえばとんでもない魔法使いになるわよ!?)
リリーの将来に戦くミレイであった。




