意外な才能
「王都に着いたらまずは魔術ギルドに行きましょう」
魔法の簡単なレクチャーをしたミレイは三人にそう提案した。
この旅がどのような経緯を辿り、どのような結末を迎えるのかはまだわからない。しかし、魔法が使えた方が圧倒的に有利に進めることができるのは確かだ。
体術も魔術も極めるのは大変な努力が必要だが、簡単な魔法を覚えるだけならばそれほど時間をかけることはない(それもある程度の才能や運が必要になるが)
「やっぱり薬師の俺は回復魔法が使えるようになった方がいいかな」
「お兄ちゃんが回復ならあたしは別のがいいな。ミレイさんと同じ火の魔法とか。戦う薬師。かっこいい」
すでに二人は魔法を使えることを前提に盛り上がっていた。盛り上がる二人を見て、ミレイはたらりと冷や汗を流した。
魔法は誰でも使えるものではない。
まず第一に魔力が体内にないと魔法を使うことができないというのが、魔術の常識だ。そして、それは才能というよりも体質に近いものがあり、努力でどうこうするのは極めて難しい。仮に努力で魔法を使えるようになるにはそれこそ長い年月、厳しい修行に耐え抜かなくてはならないのだ。
四人の旅は世界の危機を救うこと。準備は入念にしなければならないが、時間をかけすぎるわけにはいかないのだ。
なので、二人には魔術ギルドに行き、魔法の才能があればよし。なければ習得は諦めてもらうつもりでいた。
そもそもこの旅が厳しいものになるようであれば、王都で別れるつもりでミレイはいた。
王都までの街道は比較的に安全だ。無論十分に注意しなければならないが、自分がいればそれほど危険はないと判断した。
もし王都で別れることになっても、オリヴィアまで大型の行商人達や冒険者ギルドの冒険者に依頼をすれば良いとミレイは考えていた。
日も暮れて、夜のとばりが降りるころ。四人は野宿の準備をしていた。
街道の隅に火を焚いて晩餐の始まりである。
最初は野宿に抵抗を示していたリリーであったが今はだいぶ慣れたようだった。
慣れ以外にもリリー達の旅を楽しいものに変えたのは理由がある。
それは――
「飯だぞー」
「「「待ってました!」」」
スティンの作る食事だった。
「今日のメニューはこれ」
スティンが皆に配ったのは、何やらよい香りのする、きつね色の平べったい塊だった。塊の周りには小粒の物体がたくさんこびり付いていた。
「これは?」
「パンを砕いたものを森で捕れた獅子肉にまぶしたものだ」
「はあ!? パンと砕いた?」
パンは旅の貴重な食料である。それをこんな小石よりも小さく砕いてしまうなど愚の骨頂。ベベルは非難の声を上げた。
「おま! 貴重なパンをど、どうしてくれるんだよ?」
スティンの胸元をつかんで揺さぶるベベル。しかし、それでもスティンは動じない。
「まあ、食ってみろって。うまいからさ」
「食うよ! 当たり前だろ。せっかくのパンを」
もはやパンくずで包んである中身よりも、貴重なパンを少しでもかじろうとしたベベル。だが。
「う、うめえ!!」
ざくっという音とともに噛り付いたその塊からはこれまで食べたことのない触感とうまみがあふれ出た。
「これはなんだ? パンくずがパリッと香ばしくサクサクした触感をかもし出している」
「それだけじゃないわ。なんてジューシーな肉なの? 肉汁があふれ出してくる」
「まさか。このパンくずが衣となって肉のうまみを閉じ込めているというの?」
皆は一様に驚いた。こんな獅子肉の食べ方を三人は知らない。
「前にパンを多めの油で炒めたらすべーサクサクして美味しかったんだ。だから、パンを砕いて肉に包めばサクサクで中はジューシーな食べ物ができると思ったんだ」
「油はどうした?」
「獅子肉の脂肪を使った。あとパンくずがうまく肉に付かないから昼間、行商人から分けてもらった
小麦粉と卵をまぶしたら、うまくまとまってくれたよ。ああ、塩も振りかけてるぞ」
「す、スティンあなたこんなメニューをどこで仕入れたの?」
「伊達に長年一人暮らししてないぞ。オリジナルのメニューくらいいくつか思いつくさ。これはカツと名付けた」
「カツ。なんとも力強い響きだ。スティン。いつかこのカツを街で売り出そうぜ。きっと大儲けだ」
「気に入ってもらえて何よりだ」
毎食がこんな感じであった。
一人暮らしが長かったスティンは料理が得意だった。しかもたまに三人が知らないオリジナルのメニューを作っては三人を驚かした。奇抜な物もあったが、そのほとんどがとてもおいしかったので、今では食事はスティン担当になっていたし、旅の味気ない食事が楽しいものに変わったので、リリー達は大満足だった。
「さあ、食べて片づけたら早めに休みましょう。多分、明日には王都ライムハットよ」
この世界にはまだ洋食の類はほとんどありません
そうゆう設定で行きます