明かされる真実
スティン達は詰所の小さな部屋に通された。壁はしっかりしていて盗み聞きの心配はなさそうだ。
ミレイは扉のそばに誰かいないか慎重に確認し、扉を閉めた。
ちなみに今部屋にいるのはスティン、ミレイ、ベベル、リリー、ユリウス、オーガストである。正直スティン達三人はここにいてもいいのかと思ったが、特に誰も何も言わないのでスティン達は黙ってついてきた。
「さて、ミレイ殿。今回の件。いったい何を知っているのか、教えていただけるかな?」
ユリウスは切り出した。
「おそらくですが。今回のような騒動はこれからも、国内で、いえ、世界中で起こる可能性があります」
「な、なんですと!」
小さな部屋にとんでもなく大きな衝撃が走る。今回の魔物の襲撃はこの街だけの問題と思っていた。
それが、国どころか、世界規模の大問題になっていようとは。
「なぜそんな事に? それでは魔王がいたころとなんら変わらない。いや、まさか魔王は?」
「魔王は滅びました。少なくとも私はそう聞いています」
「では、なぜこんなことに魔王が倒されたなら世界には平和が戻ってくるはずではないのか?」
「私もそう思っていました。しかし、事はそう単純ではなかったのです」
皆は固唾を飲んでミレイの話を聞いていた。
「魔王は確かに滅びましたが、これまで魔王が作り続け、そして増え続けてきた魔物は全くの野放しなのです。それは北の大陸。俗にいう魔王領だけでなく、世界全土に魔物の強さは違えど広がっているのです。勇者一行は強力なパーティーではありますが、軍隊ではありません。何万もの魔物をすべて討伐しながら魔王の城に向かっていたわけではありません。むしろ逆になるべくリスクを避けつつ魔王の所まで進んだと聞いています」
それはよく考えれば当たり前のことだった。勇者一行と言ってもおそらくは数名。そんな魔王軍を全部相手をしていたら、いつまでたっても魔王の元にはたどり着けない。
「なるほど。しかし、魔王を失い統率の取れなくなった魔物など烏合の衆。各国が連携して戦えばそう長くかからず一掃できるのではないのか?」
「そうですね。私もそう思っていました。魔物は沈静化し、容易に討伐できると。ですが、今回の件で兄達が言っていたことが現実になると考えています」
「なんとも不吉な前ふりだな」
思わずスティンは口を挟んでしまった。ミレイは申し訳なさそうにこちらを見た後話を続けた。
「魔王は倒れる間際こう言ったそうです。自分が倒れれば残った魔物を制御できない。制御できない魔物は本能のまま暴走すると」
「なんと。沈静化どころか逆に狂暴になるというのか!?」
「良くも悪くも魔王が生きていた時は魔物にも秩序がありました。人間を襲うにも戦略的、政治的に意味のある国、要塞を狙うことが多かった。でももう魔王はいません。これからは魔物は無秩序に人を襲う可能性があります」
「なんということだ。それでは本当に世界が滅びることになる・・・」
「可能性は残されています」
「それは?」
「兄達は旅の道中、多くの魔将達を倒してきましたが、一人、決戦の魔王城においても倒すことが叶わずに、取り逃がした魔将がいたのです」
近年で魔王側に着いたのはスティンの祖父が最後とされているが、魔王が活動を始めた三百年前の当時は魔王の元に流れる人材が多くいた。
ある者は不老を求めて。
ある者はは恐怖に負けて。
ある者はそのカリスマに惹かれて。
様々の思惑で魔王はその勢力を拡大していった。現在の知られる魔将とは裏切った人間たちのことである。
「それで?」
「その魔将は魔王を倒した後も抵抗を続けたそうです。多くの魔物を従えて」
「あれ?ちょっと待った?」
スティンはあることの気づいた。
「ええ。そうよスティン。魔王を倒したのにもかかわらず、その魔将は魔物を従えていた。魔王の言葉を信じるならば、魔王が死んでしまった後では魔物は制御できないはず」
「でも、従えていた?」
ミレイは頷く。
「魔王が死ぬ間際に苦し紛れの嘘をついたのか。その魔将が特別なのか。それは分からないけど、その魔将ならば、魔物を制御できるのかもしれないということ」
「・・・なんだか、嫌な予感がするんだけど」
スティンはひどく落ち着かなくなった。ミレイのスティンを見つめる視線に鋭い光が灯った。
「その通りよスティン。逃れた魔将の名はラムダ=オースティン。あなたの祖父よ」




