マリー 1
「………起きて!マリー!起きなさい!」
私は机に伏せていた顔を上げる。
「ルル煩い。何かあったの?」
私は頭痛を起こした頭を押さえながら不機嫌気味に彼女に言葉を返す。
あの夢を見た後は決まって身体に気分が悪くなる。
終わった後も苦痛が続くなんて、本当に最悪だ。
私の目の前に立っている茶髪の長い髪に白いシュシュを付けた彼女の名前はルルーシュ・アリアーゼ。
私はルルって呼んでいる。
「何かって言う訳じゃないけど…。ご飯一緒にどうかなって」
「あっそ、いいわよ…別に。ご飯なんて食べなくても…」
「またそんな事言って。食べないと私みたいになれないわよ?」
ルルが自分の胸を見せつけるように私の方に突き出してきた。
何度見てもデカい。
私も普通よりはある方だと思っているのだがルルは一際デカい。
目算でDくらいはあるのではないだろうか?
それに、ルルは身体が164㎝と小柄なので胸も大きく見える。
ルルとは教室も一緒だし机も横だからよく見る機会があるが、胸が日に日に成長しているのが分かる。
まだまだ伸びるというのだから恐ろしいものだ。
「ほら。食堂閉まっちゃうでしょ?早く!」
「え、ちょっと!」
私を椅子から無理矢理起こし、半ばルルに引きずられるような状態で私は教室を飛び出た。
走らないで下さい。という張り紙が見えた気がするのだが、御構い無しに私とルルは食堂に向かって走る。
私が通っている学校、私立聖ミカエル高等学校は寮制になっており、都市から集まった1〜3年生総勢658人で構成されている。
学校が建てられているフィットア領の敷地内には他にも学校は建っているが、ここ程気合の入った場所はフィットア領以外の近辺の国でも無いだろう。
学校としてはミカエルの信仰と商業を学ぶ事を目的としている。
他大陸…とまではいかないものの、この地域で大きく名を残した有名人も何人かは聖ミカエルの卒業生だ。
ここに通う学生達は全員高い金を払い、商業を回す術、社会に出て恥ずかしくないマナーを学びに通っている。
…まぁ私はここが寮生活だし、生きていく上で恥ずかしくないマナーを学べるというだけの理由でここに放り込まれた。
勿論自由な時間も減ったし、辛い事も少なくはないが、ご飯も美味しいし住み心地も良い。
半年前にここに無理矢理放り込まれた時にはとうとう私も愛想を尽かされたか。と落ち込んだものだが、今では養子に取られていた頃よりものびのびと生活している自分がいる。
一見なに不自由無い生活に見えるが、最近私が焦っている事がある。それは……
「マリー?貴女、まだ男性に興味ないの?」
「それは……」
食堂で食事を摂りながら私達は話し合っていた。
話の内容は私の恋愛事情の事。
ついでにご飯の内容はパンと豆の煮物にサラダ。
思わず食指が伸びてしまう程の完璧な味付けである。
その事は置いておき、ルルは言葉を続けた。
「マリー。貴女が男作りたいって言い出したんじゃない。それに、少し妥協したらマリーならすぐ出来るでしょう?この前も2年の男に言い寄られてたみたいだし」
「なんか違うの!私はもっと大人っぽい人が良いって言うか。一緒にいて安心出来るような人が良いの!」
「そんなの初対面ですぐ判断出来るものじゃないでしょう…」
私の言葉にルルはわざと見せつけるように大きくため息を吐いた。
ルルのその行動には流石に私も腹が立つ。
「そういうルルだって、彼氏いないじゃない」
私はルルを黙らせる必殺の一撃を言い放った。
私の方はまだ運が悪くて相手が見つからないだけだけど、ルルは誰でも良い。という考えを持っている。
なのに、彼氏を作らないのは私としたら不自然な事だ。
卑怯だと思われるかも知れないが、こういうところを少しずつ返していく事が重要である。
「えっと…あの…」
「…え?嘘でしょ?」
私の身体中から血が引いていくのを感じる
いや、まさか。私よりも先にルルが…。
「この前、クリフ様に告白されて…」
「え!クリフってあの!?」
「しっー!声が大きい!」
「あっ!…ごめんなさい」
ルルの言葉に私は思わず席から立ち上がってしまった。
何事かとこちらに多数の視線が向けられてくる。
恥ずかしい事この上ない。
この私立聖ミカエル高等学校658人の中でも飛びきり優秀であり将来を期待される5人は人の上に立つものとしての教育の一環として生徒会での仕事を任される。
その1人、クリフ・ルート・ザリバンは生徒会長、ポール・レイクラッドの右腕として副会長を任されている正真正銘のエリートである。
熱い男と言われているポールとは逆に、クリフは冷えた男と呼ばれ、その類稀なる知性で生徒会長を裏から支えている。
この学校に通う以上誰でも1度は名前を聞くだろうクリフがルルの?
まずクリフは3年でルルは1年だ。どういう出来事が起きればそういう事になるのだろう。
「と、とりあえず。もう少し詳しく聞かせーー」
「キャー!!」
平常心を少し取り戻した私がルルから詳しい話を聞こうとした瞬間、私の声がかき消されるように女生徒の叫び声が上がった。
1〜3年、学年を問わずである。
「もう!煩いわね!いったいなにが…」
「クリフ様…」
「えっ!?」
自分の言葉が遮られた事に私は少し怒り気味で騒ぎの起こった方向を見た。
すると、そこには長身の黒髪の大男と170㎝程の身長をした銀髪の男性が2人が一緒に食堂を歩く様子が確認できる。
前に座っているルルの様子からしても間違いない。
黒髪の大男が生徒会長のポール。
銀髪の美しい男がクリフだ。
彼等2人が歩こうとすると、周りの生徒が自然と道を開ける。
2人は中々食堂には降りてこない筈だが、ルルに話を聞いた日に限って食堂で食事を摂りに来るとは、思ってもいなかった。
「あれ。気付いたみたい。こっちくるね」
「え!?ちょっと待って!告白されたの昨日の事だし気持ちの整理が…!」
勿論ルルの気持ちの整理が終わるまで待ってくれる訳も無く、銀髪の男はゆっくりと1人だけでこちらに向かってくる。
そして私はその時初めてクリフ先輩と顔を合わせる事になった。