師匠と呼ばれて 第五話
「なに・・・これ・・・」
女の子がものすごく動揺している。曲が始まると同時にこれだから、かわいいものだ。まぁ、無理もないだろう。この曲はいきなり初心者が、ましてやこんな小さな子が初めてみて出来るほど甘く作られてはないのだから。
「何にも見えないよ」さらに女の子は続けて言う。その言葉通り、女の子はボタンに触れることなく、ただすばやく出てきたり消えていく映像を、じーっと眺めているだけだった。
女の子はこれでも楽しめているのかな?という疑問も生まれたが、どうやら女の子はこれだけでも小さな声で、「楽しいな・・・」とつぶやいているので、十分に楽しめているだと信じている。
曲も終盤に差し掛かり一気に映像の出るスピードが速くなった。すると女の子は僕に「お兄さんはこれ、できるの?」と聞いてきた。
「う~ん。まぁ、ある程度は出来るかな」
とりあえず、できると返してみた。すると女の子は「すごい・・・」と小さな声でつぶやいた。そして音楽が終わり女の子が「おろして」と言ったので、僕はおろすことにした。
「楽しかった?」
とりあえず感想を聞いてみた。
「うん!」元気よく女の子は返してくれた。
「それならよかったよ」
楽しければいいんだ。それだけで。僕はそんなことを自分にも言い聞かせることにした。
「じゃあ僕は帰るから、早くお母さんのところに戻りな」と、とりあえず言っておくことにした。
「分かった!」
女の子は僕に返事をした後、足早に去っていった。
女の子の姿が見えなくなったので僕も、店から退店することにした。
・・・。退店して、今家に向かっているのだが、なぜか後ろから視線を感じる。
だけれども、外で視線を確認するためにきょろきょろするのはちょっと、恥ずかしいので、家に帰るまで、その視線を気にしないことに決めた。
僕の家、もとい一人暮らしをしている場所は二階にあり、外の階段から上るようになっている。その階段は鉄?でできており、利用するたびに『カン、カン』という心地いい音が鳴る。
まぁ、この音は寝てる時に聞くと、悪魔の叫び声になるのだが、それは今は別にいい話だ。
今重要なのは、僕以外にも、今、この階段に利用者がいるということだ。
そして、その利用者から熱い視線を感じる。
ここで僕は思った。僕は、狙われているんじゃないのかと。僕が毎日のようにゲームセンターにいることを知った誰かが、僕のことを金持ちだと勘違いして、僕のことを殺して、泥棒をしようと・・・。
やばい。変なのに目をつけられてしまった。
階段をのぼり終わり、部屋へと向かう通路。意識をし始めてから、後ろから聞こえてくる足音に妙に敏感になっている。本当に怖い。
そして、自分の部屋の前についた。多分このまま、扉を開けてしまうと殺されてしまう。
殺されて、強盗に入られて、強盗した人が「なんもね―じゃねーか」と言って落胆してしまう。それだけはなんとしても避けなくては。
僕も男だ。勇気をもって後ろを振り向かなければ。そして、「ごめんなさい、何もありません」といわなければ!
僕は、扉を開けるしぐさと見せかけて、後ろを振り向いた。だけれども、ちょっと怖いので目をつぶりながら。そして
「ごめんなしゃい!にゃにもありましぇん!」と叫んだ。
・・・・・・数秒の間、沈黙が走った。そして、その沈黙を切り裂くように
「お、お兄さん?」という聞いたことがある声が聞こえた。
目をゆっくりと開けると、そこにはあの、幼い女の子がいた。