師匠と呼ばれて 第四話
今日も僕は、いつものようにプレイをしていた。今日はちょっと冒険してレベル9のステージをやってみたりしている。1ステージ目ではレベル9クリアできず、案の定no goodの文字が現れた。まぁ、当たり前か。そして、2ステージ目を始めようとしていた時だった。
「きゃーっ!かっこいい!!」若い女性の声だ。
後ろを振り返ってみると、たくさんの群集が僕を囲っているじゃないか!
そうか・・・ようやくこの僕にもこうやって、ファン的なものが・・・・。
そう思うとなぜだか、心の中の小さな自分がなんだか大きくなったような気がした。
―――だけれども現実は悲しいものだったんだ。
よくよく群衆の声を聴いてみると、「いや~、本当にあのイケメンはすごいな」とか「あのイケメン、やばすぎる・・・」なんて言うのが聞こえてきた。そう、彼らがかっこいいといいと言っていたのは僕じゃなくて、隣で、型にはまった動きをしている、このゲームセンターの中では「さすらいのゴリラ王子」と呼ばれている。噂では聞いたことがあったが、やはりすごい・・・。
さすらいのゴリラ王子は、様々なゲームセンターで顔を出し、様々な音ゲーをやりパーフェクトを出していくという謎の人物だ。ただ一つだけわかるのは、彼の顔立ちが僕の顔よりも何倍、いや何十倍もいいということだ。
人気もあり、技術もあり、おまけに顔立ちも良い。今のところ欠点が全くないじゃないか。
きっとこういう人は性格が悪いはずだ!と自分の心の中で思うが、そう思っている自分自身が一番性格が悪いことに気が付き、僕の大きくなった心の中の自分がどんどんと小さくなっていった。
このゲームなら居場所がある。そんなことを僕は考えていたのに、こんな僕と真反対の人がこんなところに行ったら僕の居場所なんかなくなってしまう。
僕はやっぱし、陰キャラなのか?
僕は永遠の陰キャラ。僕は、いつまでも、陰キャラなのか?たとえ努力をしたって、努力をした先にあるのは実力だ。たとえ努力をしたところでも実力があるものが強いんだ。
僕は、今日そのことを痛感した。そして、僕は少しだけ流れ出る、目からの汗をこぼさないように、プレイを続けた。不思議なことに、いつもクリアできる曲がクリアできなった。
おかしいな、おかしいな・・・。
「ねぇ、お兄さん」
さっきの若い女性の声とは違い、幼い女の子の声が聞こえた。声をするほうに向くと、小学生ぐらいの見た目はかわいい人形のような女の子がそこにはいた。身形もしっかりとした感じだ。こんな子が、僕のことを読んでいるはずもないと思ったので、僕はもう百円を入れて、プレイを始めた。すでに、さすらいのゴリラ王子は退店して、傍観者たちもいなくなっていた。
・・・。プレイをじっと誰かに見られているような気がする。一回目のプレイが終了して、目線がしたほうに目をやると、先ほどの女の子が僕をじっと見ていた。すごいかわいい笑顔で僕をじっと見つめている。
もしかして、この子これをやりたいのかな?
僕には、そんな疑問が生まれていた。そしてよく分からないが、思わず僕の口から女の子に向かって言葉が出てしまったんだ。
「き、君。や、や、やってみる?」ものすごく噛み噛みで。
「うん!」女の子は、元気よくそう答え、小走りにやってくる。かわいい。
僕は別にロリコンではないが、どうしても『かわいい』という言葉が出てきてしまう。
「でも、高さ的に無理かな・・・」
このゲーム機の機械は、この女の子の背ぐらいあるので、女の子が画面をのぞいてみるというのは、女の子の一人の力では無理なのだ。
「おい、抱っこしろ!」
あまりにも唐突だったので、僕は驚いてしまった。女の子がいきなり、抱っこしろだなんて・・・。
「いいから早く!」
「わ、分かりました」
とりあえず女の子を抱っこして、画面の近くまで近づけた。
女の子は画面を見るたびに「きれいだなぁ~」とか「かっこいいな~」とかを口に出して、目を輝かせているようだった。
「どんな曲をやりたいですか?」ちょっと冷静になれた。
「さっき、お兄さんがやってた曲がやりたい」
「でも、難しいです?」
「いいから、やらして」
まぁ、女の子がやりたいというなら、ダメという理由はない。まぁ、楽しめればいいんだ。