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想いのまにまに!  作者: 柴乃
2/2

春疾風

「はぁ?刀マニアの厨二コスプレイヤー?」

昼休み、騒めく教室の中で涼代の前に座っていた白石はパンの袋を開けながら聞き返した。

「そうだよ。この学校内でそういう奴知ってるか?」

「知るかよ。つーかなんだそれ」

即答の上聞き返され、涼代はため息をついた。

「…わからん」

「そんなお前が一番わけわからん」

白石は呆れたようにパンにかぶりついた。

本当に昨日のは何だったのか。

今だズキズキと痛む腰をそっと摩りながら涼代は昨日のことを思い出していた。

いきなり何か落ちてきたかと思えば人間だった上に、しかもこの学校の制服を着ていて、果てはなにやら魔法みたいな戦いやら…。

不可思議すぎる内容すぎて今朝目覚めた瞬間、夢であるとさえ思ったほどだ。

その考えも腰の痛みで全否定されたのだが。

「それよりさ。そんなわけわからん奴の話よりE組の美少女知ってるか?」

涼代の思考を遮るように白石が口を開いた。涼代の数少ない友達の1人である白石は見た目の爽やかスポーツマンといった印象とは裏腹に意外とお喋り好きである。

「美少女?」

聞き返しながら涼代は自作のお手製弁当のフタを開けた。

「転入生来るって話しあっただろ?何て名前だか忘れたけど、すげぇ可愛いんだってさ。このクラスの竹下が告ったらフられたらしいけど」

「竹下はいつものことだろ」

「まぁな。でも気になるじゃん。

飯食い終わったら見に行こうぜ」

「やなこった」

「何でだよ」

「悪目立ちたくない」

「本当お前、そればっかだな…」

「“何もない”のが一番だっての…」

半ば自分に言い聞かせるかのように、涼代は自信作のコロッケを口に入れながら呟いた。


「なんで昨日の今日で…」

涼代は思わず一人ぼやいた。

空は青空、雲がぽっかりと浮かび、まさに昨日のような晴天である。

しかし、状況まで昨日と同じなど全くもって願い下げだ、涼代は空を仰いだ。

背後から着いてきたそれに気づくのにそう時間はかからなかった。

どでかいサングラスに見るからにカツラであろう金髪。

それが校門を出てから、ずっと着いてきているのだ。

電信柱の陰に隠れているものの覗きすぎて常時半身出てしまっている。

その上、着いてくるのをやめる気配は無い。

ー家までついて来られるのは困る…

涼代は今日何度目かの溜息をつくとくるりと踵を返した。

金髪がさっと隠れる。

涼代はその電信柱へ近づいた。

「あの〜…」

一歩手前で声をかけるも、電信柱から反応はない。

涼代は柱を覗き込んだ。

「いやもうバレてるので…」

金髪はふるふると震えるとキッと顔を上げた。

「何で分かったの!」

「いや、丸わかりって…あんたか!」

金髪はサングラスを外し、カツラをとった。

カツラの下から長い黒髪が零れ落ちる。

髪を揺らしながら昨日の出会ったばかりの少女は睨むように涼代を見上げた。

「あんたって失礼ね。私の名前は八神咲耶。…というより転入生の名前も知らないの?2-B、涼代真尋」

「転入生って…E組の!」

白石との半分聞き流していた会話を思い出し涼代はまじまじと見た。

改めて見ると睨みつけているせいで気が強そうな印象を受けるが、確かに顔立ちは整っている。

涼代は咲耶に疑問をぶつけた。

「てかなんで俺の名前…」

「調べたのよ。制服同じだったから。あなたの友達って人が教えてくれたし」

「げ…あいつか…」

昼休みを共にした白石の顔が浮かび、顔をしかめた涼代に咲耶が真顔で低い声で言った。

「あんた何者?」

「何者って…ただの男子高校生Aみたいな…」

「は?そんな訳ないでしょ。その男子高校生Aになんで昨日みたいなことができるのよ」

「適当にやったんだよ、適当に」

そこは涼代の本心だった。

何かしなければ、と思い咄嗟に出た行動だったのだ。

咲耶は少し考え込むような素振りを見せると涼代の袖を少し掴んだ。

「…ついて来て」


咲耶について行った涼代は神社へと続く石段を踏みしめていた。

ひんやりとした空気は生い茂った木々の所為もあるが、どこか別の世界に迷い込んだかのような感を抱かせる。

「…神社に住んでるのか?」

「そう」

目の前の背中が振り向く事なく肯定する。

と、背中ごしに少し光が強まったのを見て涼代は石段を抜けることを予感した。

ザッ ザッ ザッ…

乾いた音が聞こえたとともに視界が開ける。

初めて来た神社に涼代は辺りを見渡した。

如何にも年季が入っていそうな古めかしいお社が一つあり、それに向かって石畳が続いている。

社務所のような物が渡り廊下で繋がっているところを見るとどうやら彼処が住んでいるといった所なのだろうと涼代は判断した。

ザッ ザ…

そんなことを考えていると急にピタリと音が止んだ。

改めて咲耶の背後から覗くと男が掃除をやめ顔を上げているのが見えた。

どうやら音は竹箒と石畳が擦れる音だったらしい。

臙脂色の袴をはいた神主らしき男はこちらに目を向けるや否や相好を崩した。

「おお、なんだ咲耶じゃないか〜。学校は楽しかったか?ん〜?」

「普通!てか、近い、寄るな!」

親しげに話しかけているところを見るとどうやら知り合いのようだ。

「あーあ、ったく思春期になっちまってまぁ…ってあぁ?」

引いている咲耶に気にすることなく、男は涼代を見て…鬼の形相をした。

「てめぇ、もしかしてウチの可愛い咲夜に」

「いやぁ、ただ参拝しに来ただけです。でも、お邪魔のようですので失礼しました」

ー怖すぎる…!

よく見ると相当に人相が悪い。

もともとの顔立ちもあるが目の横の縦の切り傷がそれを助長していた。

くるりと背を向け早足に帰ろうとした涼代は、しかし帰れなかった。

「ぐえっ…」

「待ちな」

涼代の首根っこを掴んだ男は顎に手をかけると考え込むように眉間にしわを寄せた。

ー嫌な予感しかしない。

謎の悪寒に身震いする涼代の前で神主はすぐにニヤリと合点がいったように笑った。

「あぁ、お前が咲耶を手伝ったっていう…」

「いいえ、人違いで」

「ちぃと裏に来てもらおうか、兄ちゃん。」

「は、はぃぃい!」

ヤーさんばりの人相の悪い笑みで凄まれ、肩を掴まれた涼代の選択肢は一つしかなかった。


「昨日はうちのが世話になったみたいだな」

「はぁ…」

外見とは裏腹に綺麗な社務所の一室に通された涼代は目の前に出された緑茶から恐る恐る顔を上げた。

目の前には柄の悪い神主と不機嫌そうにお菓子をつまむ咲耶、それとお茶を運んできてくれた小学校低学年であろうおかっぱの女の子が同席するというなんとも奇妙な面子である。

居た堪れずに、目をあちこちにやっていると男が口を開いた。

「俺の名前は八神 春雅はるまさ。この神社の神主だ。昨日は咲耶が世話になったな。」

「い、いやぁ、別に…」

答えた涼代に春雅と名乗った男は真面目な顔で聞いた。

「昨日のこと、どう思う?」

「どう思うって…正直なんだかわからないし…」

ーそもそも信じたくない。

それが涼代の本音だった。

実際に今腰が痛みを訴えていなければ、八神咲耶に会わなければ、この神社に来ていなければ夢だと言われても信じていただろう。

そんな涼代の内心を知ってか知らずか、春雅が話し始めた。

「昨日の奴、俺らは妖と呼んでる。

人の思い、感情、心の揺れ。そういうものは一つ一つ力を持っている。そいつらが強まって実体化しちまうと、最悪妖になっちまう。霊もそのうちの一つだ。それをお前は封じたんだよ。」

「そんなことが…」

「あるわ」

涼代の言葉を遮り、咲耶がきっぱりと断言した。

涼代を睨むかのように挑戦的に見つめる目には力強さが伺えた。

「妖は日常に存在する。そして…人間に仇をなす」

「そこで俺らみたいな術師がいる」

途中で春雅が話を引き継いだ。

「術師は力を使い、妖を鎮める。ここにいる残花もそうだ」

「残花…?」

「はいです!」

ぴょん、と元気に、女の子がひざ立ちした。手をぶんぶんあげている。

「そういえば声がどっかで聞いたことあるような…。」

「残花。」

「はい!姉さま!」

咲耶が名前を呼んだ瞬間、涼代の目の前で残花と呼ばれた女の子が霞んだ。

「なっ…それっ!」

咲耶に目を移し、涼代は驚いた。

咲耶の手には、一瞬にして刀が握られていた。

「残花。わたしの刀の付喪神よ」

「つくも…?

「モノが想いを込めて使われるとそれはひとつの霊になるの。

刀が霞んで、再び女の子の姿になる。

「はいです!わたしは姉さまの刀なのです!」

「とまあ、ここまでは長ぇ前置きだ。

と、春雅が不敵に笑った。

にこにこ笑っている残花の笑みとは比べものにならないほど嫌な予感しかせず涼代は背筋が寒くなった。

「お前、術師になれ」

「…はい?」

ー意味がわからない。

しかし、先に口を開いたのは咲耶だった。

「はぁ?こんな昨日初めて妖に会っただけのやつに何が出来るっていうのよ」

咲耶が睨みつけるように春雅を見た。

「大丈夫だ。俺の目に狂いはない」

「あるわよ!こんな奴…!」

「話がまとまろうとしてるとこ悪いんですが、だが断る!」

「あぁ?」

「はぁ?」

言い争いに発展しようとしていた会話を遮ると、2人にものすごい勢いで睨まれ涼代は後ずさった。

睨む目が似ているとこは血筋らしい。

「い、いや俺そういうの本当向いてないんで、失礼します!」

そして、涼代は一瞬にして荷物をまとめて会釈すると、元来た廊下に消えた。

どたどたいう音を聞きながら一瞬驚いた顔をした春雅は軽くため息をついた。

「あーぁ、行っちまったよ」

「わたしもびっくりよ。そんなのいきなり言ったところで断られるに決まってんじゃない」

咲耶が呆れたようにいうと春雅がフッと笑った。

「いーや、あいつは戻ってくる」

「なんでそんな自信が…」

「勘だ」

「おじさんのは当たらないじゃないか」

「そうです、今日のお天気雨って言ってたのに当たらなかったです」

咲耶と残花が見ると春雅が頭をがしがしとかいた。

「でも、咲耶が連れてきたやつだからな。期待もするさ」

「別に連れてきた訳じゃないわ…」

咲耶は不服そうに呟いて茶を飲み干した。


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