第四章 心を動かす寝言
「お、兄ちゃん……? あれ……」
「よ、バステト! お兄ちゃんは強いんだ、そんな簡単に死なないよ」
シンタローは、バステトの涙と鼻水でグシャグシャになった、顔を拭った。
「ほら、バステト、美人が台無しだ。顔を拭け」
「うん……お兄ちゃん……それ、欲しい」
バステトは、俺に背中にある剣を指差した。
バステトも人並みに戦いたいらしい、だが危険すぎる。
可愛い妹にそんな道を歩かせるわけには……
シンタローは、バステトの泣きそうで可愛い顔に負け。
結局、剣を渡した。
「バステト、これはおまえにやる。だけど、無理はするな。怖いと思ったり、嫌だったら、逃げていいんだ。分かったか?」
「うん、お兄ちゃん……その時は……守ってね……」
「当たり前だ! よし、今日はもう帰ろう。疲れたしな」
シンタローは、バステトの手を握り歩きだした。
しかし、彼は一つ忘れている……。
何の情報も得てない。
シンタローがその事に気付いたのは、宿に帰ってからの事だ。
当然、ミルフィアには酷く怒られた。
その腹いせに、シンタローはある計画を決行した。
(へっへっへ。ミルフィアめ。おまえの愚かさを今に見せてやろう。ベットの布団に入り込み、貴様のパンツを脱がし、その辺に隠してやる)
シンタローは、布団の中に入り込むことに成功した。
ここまでは、順調だ。
そして、パンツをどんどんずらしていく。
シンタローの手際は、まさにプロだ。
パンツ脱がしにプロはないが……。
そして、完全に脱がしたその時。
「ううん……シンタローのへんたーい……んん」
(寝言か……ビックリさせやがって)
「シンタロー……怒ってゴメンね……だから、死なないでね……絶対……んん」
ミルフィアの寝言はシンタローの心を動かした。
一体どんな夢を見ているのだろう。
「勝手に、俺を殺すなよな……」
シンタローは、パンツを履かせ、元に戻した。その時。
「ううん……ん? 誰!? きゃあああああ!!!」
「落ち着け! 俺は、履かせてあげたんだ! 信じてくれ!! グヘッッ!!」
ミルフィアの強烈な回し蹴りが、シンタローの横腹にヒットした。
鮮やかに吹き飛んだ、シンタロー。多分、肋骨が折れただろう。
が、能力でコンマ一秒単位で、回復した。
そして、そのまま眠りについた。
朝が訪れた。天気は良く、ピクニック日和だ! 行かないだろうが。
シンタローも目を覚ました。
視界には、ミルフィアがしゃがんで、心配そうに見ている。
「あ、大丈夫!? 骨折れなかった!? ゴメンね」
「ああ、折れてもどうせ、治るし……俺も悪かった」
「それにしても、その能力何なの? 人間じゃないよね……それ」
「ああ、俺は、チートで出来た、チート剣士だ。しょうがない」
ミルフィアは首を傾げた。チートと言う言葉が、理解できないのだろう。
シンタローは、それはさて置きと、立ち上がった。
どうやら、可愛い妹の寝顔を拝見するらしく。
ベットに近づいた。
「うむ。今日も可愛い、将来が楽しみだ!」
確かに可愛いが、兄としてどうかと思う発言だ。
ミルフィアは、内心、少し引いていた。
残念なチートと言うべきか……。
「う……ん……あ、お兄ちゃん。おはよ……」
「おはよー、バステト! 今日も可愛いな、食べたい位にな!」
そこで、ミルフィアが会話に入り込んで、思わず口にした。
「食べっっ!?」
「例えだよ……まさか、変な事想像して……」
「してないわよ!!」
ミルフィアは、頬を赤く染め、訴えた。
そして、自分に言い聞かせた。
私は、健全。私は、健全。私は、健全。と。
「お兄ちゃん……食べていいよ……?」
「いやいや、朝ごはん食べよーぜ? お腹空いたろ?」
「うん!」
シンタロー達は、外食にしようと決め。外にでた。
朝から外食はどうかと思うが、問題なかろう。
三人は、適当な喫茶店に入り、朝食のサンドイッチを食べた。
「マスター。例の件の情報は?」
ミルフィアが、喫茶店のマスターにそう言った。
「情報? 知り合いなのか?」
「ええ、どっかの誰かさんと違って、ちゃんと仕事してるんですー」
「分かったから、反省してます」
「ほんと、他に顔を見られなかったのが奇跡よ」
シンタローは、サンドイッチを食べはじめ、バステトとイチャツキ始めた。
それを無視して、ミルフィアは仕事を進めた。
「ああ、その件についての情報はいくつか、聞いた」
「ほんと、ありがと!」
「お安い御用だ。まず、侵入は地下通路を使えば簡単だ。だが、中に入って見つかったら、すぐに逃げた方が良い」
「どうして?」
「兵の幹部が、これまたスゴ腕らしい。最強の兵、マドレーヌ こいつと戦って、生きて帰った奴はいないらしい」
ミルフィアは背筋が凍った。さすがに、その情報は聞いた方が良かったと改めて思った。
そこに、シンタローが入った。
「マドレーヌって美味しそうな名前だな! 食ってやろうか! 別に逃げなくていいんじゃね? 俺死なないし」
「うーん、それもそうね! だけど、最初は隠密よ! そこは分かってね!」
「おう!」
ミルフィアはマスターと話を付け、三人は喫茶店を出て町を歩いた。
そして、バステトに魔法を教えようと、ミルフィアが提案し。
皆、それに賛成して、町の外の草原に向かった。