第三章 貧乏生活2
シンタローとミルフィアは宿に着いた。こちらも木造だ。やはり、木造が定番なのだろうか……。
カウンターに近づくと、ウェートレスの女が対応した。
「いらっしゃいませ、宿泊ですね、期間はどのくらいですか?」
「ええーっと……どうする? ミルフィア」
ミルフィアは、少し考えた、そして閃いたように顔を上げた。
「十日でお願いします」
「だそうです、部屋は……」
咄嗟にミルフィアに視線を移す。
だが、予想外にその表情は柔らかい。
すると、ミルフィアが、思い切った事を言った。
「一緒でお願いします」
「え……いいの!?」
「え…………」
シンタローは焦った、別にミルフィアは、部屋代を減らそうと一緒にしたのだ。
変な事を考えてたのは、シンタローだけだった。
しかし、ウェートレスの女は察していた。
ミルフィアが金を払い、部屋に入った。
結構広く、悪くない部屋だ。
特に素晴らしいのは、ベットが一つ。シンタローはニヤニヤが止まらない。
「寝相が悪くて、うっかり触っちゃった!」とか事前に言い訳を考えている。
「とりあえず、計画を練りましょう!」
「おう! 具体的にどうすればいいんだ?」
ミルフィアは静かに目を閉じた。
そして、十秒経つと目を開き、答えた。
「なら、まずは、王宮の警備状況の確認と、侵入ルートね。私は情報屋を当たってみる、シンタローは直接王宮の外から見てきて」
「おう、まかせろ!」
ミルフィアとシンタローは、さっそく調べる事にして。
宿で別れた。
王宮は北にあるので、北に歩いて行ったシンタロー。
活気に溢れる町を歩き、平和を楽しんでいると。
「おいっ! さっさと金になる物置いていけ!!」
「ひっ……ぐすっ……お、お金持ってません……ごめんなさい……」
細い裏路地の陰で、チンピラ二人が幼女を恐喝している。
シンタローにとっては、見るに堪えられない光景だ。
胸が痛む。
シンタローは女の子への強い愛を胸に、路地へと入った。
「おい、おまえら何してんだよ!! 可哀想だろ」
まずは、定番のセリフここで……。
「あぁ!? なんだよ、ヒーローごっこか!? ぶっ殺すぞ!?」
しようとも言ってないのに、なぜか喧嘩に持ち込むような、口調。
「兄貴! こいつボコボコにしましょうや!」
チンピラは、ナイフ持ちの体格の良い男が一人。バットを装備している、小さな男が一人。
シンタローは木刀は使わず、素手で構えた。
「そらああっっ!!」
ナイフがシンタローの右胸に来た。
間一髪で、シンタローはそれを右手で阻止。
手には血が流れていたが、すぐに治まった。
「ば、化け物か!?」
「キズつくなー。人間だって」
声と同時に、右足を上げ、男の顔面に向かって振り抜いた。
男の顔面に見事、直撃し、前歯と鼻はバキバキに折れていた。
口と鼻を押さえ、男は悶絶し膝をついた。
その瞬間を逃さず、腹に一発蹴りを入れた。
その時。
後頭部に、嫌な痛みが走った。
気付けば、頭は割れていて、血が大量に溢れ出ていた。
バットで頭を殴られたのだ。
(いつのまに、後ろにいたんだ……あ、小さくて見えなかったのか……痛ぇ)
「へへ、兄貴の敵だ! 死ねええ!!」
「俺は、不死身だよ」
チンピラの前には、頭を割ったはずの男が、平然と立っていた。
バットには血が付着している、しかし、男の頭は血が消えて、頭も割れてない。
「う、うわああああ!! バケモノぉぉぉぉぉ!! 母ちゃん助けて!!!」
小さいのは、倒れている男を引っ張り、帰って行った。
「女をキズつけるなんて、そいつは、男じゃぁねぇ」
意外に良い事言ったシンタロー。なぜ女に限定したのかは、不自然だが。
隣に視線を向けると、女の子がすすり泣いていた。
シンタローは優しく、女の子のエメラルドグリーンに光る、綺麗な髪を撫でた。
「大丈夫か? 怖い奴は消えたぞ」
「うっ……ひうっ、えあっ……も、もういない?」
女の子は、手を顔の押し当てポロポロと、涙が溢れている。
シンタローは不器用ながらも優しく、接した。
「立てるか? 君、名前は?」
女の子は泣きやみ、シンタローを見て口を開いた。
「バス……テト。バステトです」
「バステト……いい名前だな」
一瞬。パ〇ドラのモンスターを思い出したシンタロー。
すると、バステトの頭に付いている何かが、ピコピコ動いた。
シンタローはそれが気になり、それに触る。
バステトは、力が抜けるように、ビクッビクッと反応した。
もしやと思いシンタローは尋ねた。
「バステト……これ耳なのか?」
「は……はい、とても、お上手ですっ、ああっ」
変にいやらしい声を出しつづけるバステトに、あわてるシンタロー。
ここで手を出しては、ロリコンと疑われるので必死に、疼く右手を抑える。
理性を保つのがやっとな様子。
「あ、ごめん! 見慣れない物だから……俺はシンタロー、よろしく」
自己紹介をするシンタローであったが。
やはり、獣耳が気になる。何かしら反応してピコピコ動かす。
そして、もふもふの尻尾。シンタローは思わず感動。
まあ、エルフもいたから珍しくはないのだろう。
(クソ! 可愛い!! 尻尾をもふ……おっと、いかんいかん。クールになれ俺)
「バステトはこんな所で何をしてるんだ? 親は?」
「親はいません……家もありません。小さい時から、ずっと一人で……もう、寂しくて……」
シンタローはバステトを、胸元に引き寄せた。
強く抱きしめた。
この寂しい気持ちはシンタローにもよく、分かっていたから……。
バステトは、頬の紅潮が強くなり、真っ赤だ。
「俺も小さい頃はずっと、一人だった。その気持ちは分かる。だが、バステトはもう、そんな思いをしなくていい」
「え…………」
「俺が、お前の兄ちゃんになってやる。俺とおまえは家族だ」
バステトには、家族がいなかった。
だから、一人で寂しく生きてきた。あまりにも可哀想な話だ。
王国はどうして、こんな子を無視しているのだろうか……。
シンタローはそう、強く思った。
今、この場で、バステトに優しくできるのは、紛れもなく。
シンタローだけだろう。
「あ、ありがとうございます…………お、お、お兄ちゃん」
「ああ、お兄ちゃんだ」
(こんな可愛い子が……俺の義妹 )
あ、決して俺はロリコンじゃないぞ!! と叫んでしまったシンタロー。
感動のシーンが台無しだ。
バステトは疲れたのか、寝てしまった。仕方なくシンタローは、背中に乗っけた。
そして、平和が保たれている町を歩いた。
宿に着いた。
部屋に入ると、ミルフィアがこちらを、凝視した。
その目は変態をみる目だった。
「その子は誰?」
「義妹だ、可愛いだろ」
「変態? そういう趣味なの?」
「違う、断じて違う!!」
シンタローは先ほどの出来事を細かく伝えた。
どうやら、疑いは晴れたようす。
だが……。
「それで、警備の確認は?」
「あ…………。すみません!! 行ってきます!!」
「いってらっしゃい……」
ミルフィアの厳しい視線が、シンタローを指した。
シンタローは仕方なく、バステトをベットに寝かせ、部屋を出た。
シンタローは再び宿を出て、王宮に向かった。
今度は、何事もなく王宮に着いた。
白と赤のオシャレな建物だ。
黒の鉄格子も門があり、奥には薔薇の道が続いている。
門の前には、二人の兵士と奥の本館の前にも、二人いる。
シンタローは逆に怪しまれないように、ある行動にでた。
シンタローは一冊の本を持って、兵士に話しかけた。
「おい、あんた。この子可愛くねーか?」
「なんだ、貴様! ま、まあ、少し見せてみろ」
「な、なんだ!? このデカさ!! 秘宝だ、ワ〇ピースは実在したのか!?」
シンタローは、水着の写真集を見せ、話の主導権を握った。
兵士もまんまと乗り、興奮状態だ。
「ああ、実在したんだ。この美貌……サ〇ジも黙ってないぜ」
「この本をおまえらに託す!!」
「お、おお!! ありがとう、まかせてくれ!」
兵士は喜び、写真集を受け取った。
まさに、男の取引だ。これがシンタローの商人スキルなのかは、定かではないが……。
そして、シンタローは勝負を仕掛けた。
「じゃあ、この王宮の侵入ルート教えて!!」
「あ?」
バカだ。この男はバカである。
さりげなく聞く予定が、単刀直入に言ってしまった。
ミルフィアに怒られるだろう。
「貴様! 賊か!? ならば問答無用!!」
「そんな言葉よく知ってるな! つか。ちょ、待てよ!」
兵士が剣を抜き、振りかざした。
シンタローは咄嗟に回避をし成功した。
剣はさっきまで、シンタローの居た位置の空気を斬っていた。
「たく、しょうがないなー」
シンタローは、背中に掛けてある剣……ではなく、腰に掛けている木刀を握った。
木刀を兵士の顔面に向かい、突いた。
木刀の先が兵士の、前歯にクリティカルヒットした。
バキバキになり、無残だった。
兵士は悲鳴も上げれず、倒れこんだところに、すかさず木刀が腹部を襲った。
木刀は意外と、斬れ味があり、腹を突き抜けた。
木刀に染みついた血が、もう一人の兵士に恐怖を与えた。
しかし、兵士は屈しなかった。
「仲間の敵だああああ!!!!」
「それ、今日二回目、さすがにあき……」
兵士の剣には、怒りが込められ凄まじいスピードで、シンタローに吸いついた。
言いきる前にシンタローの腰に刃が、えぐり込んだ。
剣は、止まることなくシンタローの腰を、一刀両断。
「やば、めちゃくちゃいてぇぇ……げっふぉぁ……」
「死ねえええええ」
叫びと同時に、シンタローの上半身が転がった。
下半身も倒れた。
「きゃあああああああ!!!!」
シンタローの哀れな姿を見ていた者が一人……。
その声主は、バステトだった……。
バステトは、真っ二つになった、シンタローに駆け寄り泣き叫んだ。
「お、お、お兄ちゃん!! 酷いよ……何ですぐに……一人にしないで……」
「ふん! 貴様はこいつの妹か……いいだろう、貴様もあやつの後を追わせてやる」
兵士は、バステトの首を掴み、締め上げた。
バステトは、ジタバタと足を動かし、必死にもがいた。
「お……にいちゃん……たす」
「ああ、おまえは可愛い妹だ、一人にはさせない」
「なんだと!? 貴様、しん、ぐほぉぁっっ……」
兵士の首が、地面へと転がり落ちた。
血の赤が、この地を染めた。